作戦会議
リーズたちがイングリッド姉妹の家で茶会を開いている頃、アーシェラの家でも彼を中心に4人の男性が集まっていた。
家主であり村長のアーシェラ、毎度おなじみのブロス、それに普段あまり外に出ないパン屋のディーターと、レスカの弟分フリッツの2人がいる。
「ヤァヤァ! 村長のクッキーは最高だねっ!」
「くっそ、なんだってこんな美味いんだ! 手が止まらんっ!」
「ど、どうしよう! 僕が食べる分がなくなっちゃう!」
「3人とも、ここに何しに来たのか、忘れてない?」
リーズに持たせたクッキーの余りをお茶うけに出したところ、3人はあまりの美味しさに本来の目的も忘れて一心不乱に齧り始めたため、アーシェラは大いに呆れてしまった。
「あーうまかった。こんなのが置いてあったら話し合いにならんから、今のうちに食って正解かもな」
そう言って満足そうに頷いたディーター。年齢は40前半でやや赤みがかった茶色の髪と髭を生やし、細身ながらも無駄なく引き締まった、職人然とした体形をしている。
「ヤッハッハ! 物は言いようですな! さてさて、ゆりしー達が時間を稼いでいる間に、こっちはこっちでサッサと話し合いますか」
リーズを女性陣に任せたのは、リーズ自身の気持ちを周囲が再確認したいという思惑もあったが、それと同時にリーズの耳にあまり入れたくないことについて、男性同士で検討する時間を得るという目的もあった。
ただしこちらは、茶会といった雰囲気はない。出された飲み物もコップ一杯の水で、出されたクッキーも1分足らずで食い尽くされる量しかない。
「今回は僕のわがままで、みんなに迷惑をかけることを申し訳なく思う。あらかじめこの場で謝っておきたい」
「おいおい、村長が先に謝ってもらっちゃ、俺たちは言うことを何でも聞くしかあるめぇよ。で、そこまで言うからにはすでにいくつか手は打ってあんだろ?」
「ええ、まあ。もうかなり前ですが、フリッツからもらった「精霊の手紙」を関係者に送ってあるんです」
「こんな僕でも役に立ててうれしいです!」
先日アーシェラが空に飛ばした3枚の手紙は、フリッツ少年が魔術を込めて作成したものだ。
まだ幼さが残る顔立ちで、薄い金髪に白い肌と、かなり儚げな容姿をしている。
これでも一時期に比べればかなりましになったが、虐待を受けたせいで若干人間不信の気があり、性格も内向的。だが、褒められると人一倍嬉しく感じることもあり、レスカ以外の村人との間でも良好な関係を築いている。
「リーズが来たときは、長くても2、3日くらいの滞在だと思ってた。でも3日目くらいになってはじめて、滞在が長引く予感がしたんだ。リーズはわかっているのかいないのか定かじゃないけど、恐らく放置していると想像以上に面倒なことになる」
アーシェラは、リーズが王国から許可をもらって旅をしていると聞いていたので、帰るまでの期日が決められているのと、定期的に居場所を確認する「何か」をしている可能性が高いと考えた。ところがリーズは帰る気配を一向に見せないどころか、この村……というかアーシェラの傍に根を下ろし始め、定時連絡も放棄している。
アーシェラが思うに、これはリーズなりの王国への反抗心の表れで、たとえ王国がどれだけ困ろうとも、リーズにとっては知ったこっちゃないと考えているようだ。
「ってことはつまり…………リーズさんは、もう王国に帰る意思はないってこと?」
「アヤヤ? 私にはまだリーズさんが村に定住しようか、迷っているように見えるんだけど」
「いや、未練があるなら、少なくとも王国の仲間の誰かに何かしら連絡しているだろ」
フリッツとブロスは、リーズがまだ遠慮しがちなところがあるのを知っているからか、アーシェラの考えに若干懐疑的だった。しかしディーターが言うように、リーズが帰ることを少しでも考えているなら連絡手段くらいは残しておくだろうし、逆を返せばリーズが連絡手段を完全に捨てる決断を下したということ自体が、リーズの本心の表れと言えるだろう。
つまりリーズは、この村に来る前から……王国には帰りたくなかったのだ。そして、リーズは最初からアーシェラに助けを求めるために、ここまでやってきた。もはや自惚れではない、状況証拠からほぼ確定だろう。
それが分かるからこそ、アーシェラは思うのだ――――許せない、と。
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