第151話 ショウガの味噌煮・・・?

「はぁ、なんでこう・・・ヨーコちゃんの作るご飯は、私の胃袋を離さないかねぇ。」

 晴子さんがサバ味噌定食に舌鼓。

「イヤぁ、何が美味しいってさぁ・・・このショウガよぉ。」

 薬味として一緒に入れているショウガ。確かに中まで染みてて美味しい。

「もう、このショウガだけでご飯三杯はイケちゃうもんね。」

 ずっと一人でしゃべってる。

「ねぇ、ヨーコちゃん。今度これだけ炊いたの作ってよ。」

「え?ショウガだけのですか?」

「そうそうそうっ。ご飯すすむわよ~。」

「ん・・・サバ味噌のサバ抜き?」

「うんっ。絶対美味しいって。」

「はぁ・・・なるほど。」


 そんな事があったので・・・。


「まいど~。」

 野菜は八百屋さんが毎日届けてくれる。

「あ、おはよう。」

「ねぇ、ヨーコちゃん。本当に持ってきたけど、良かったの?」

「うん、ありがとう。」

「ホントに?10キロだよ?」

「へっへっへっ、あとでおいで~。美味しいもん作るから。」

「あ、あぁ・・・ぅん、分かった。」

 ショウガが10キロやってきた。ちょっと試作したのが思った以上に美味しかったもんだから、いっぱい作ってみんなに食べてもらおう・・・なんて思ってしまったのでね。

「よぉし。じゃぁ、早速やりますか。」

 ショウガを洗ったら皮は向かずにスライスしていく。繊維を断ち切るように、やや厚めにスライス・・・スライス・・・スライススライススライス・・・っ。

「ん~、やっぱり10キロは多かったかしら。」

 ショウガだけで鍋がいっぱいになりそうに・・・いや、絶対に入りきらん。

「うん、この辺にしとくかっ。」

 4分の1くらいか?それでもかなりの量なのだけど・・・。

「じゃぁここに、味噌ダレをねぇ・・・と。」

 味噌・酒・みりんに今日は砂糖やや多め。そこに、たっぷりのアラでとった出汁も入れる。普段はサバから水分も旨味も出るから入れる必要はないのだけど、今回は本当にショウガだけでやるのでね。

「あとはコトコトやれば・・・むふふふ。」

 想像だけでご飯がいけそうなんだが・・・。

「んん~、当面ショウガ祭りね。」

 ショウガ、山。


「へぇ~、味噌煮ねぇ・・・。」

 感嘆の声の主は八百屋さん。

「本当は明日あたりの方が良く染みて美味しいんだろうけどさ、どう?悪くないでしょ?」

「うん・・・ご飯欲しい。」

「ふふふ、ねっ。」

 こういう「ご飯を呼ぶおかず」は我ながら得意分野なのかもしれない。

「パックにして売ったら、結構売れるんじゃない?」

「ん?ん~・・・うん、やるんならレシピ教えるわよ?」

「も~、商売っ気無いなぁヨーコちゃんも。」

「え~、だって私『ハマ屋』で手一杯だもん。」

「あ~・・・それもそうかぁ。」

「んふふ、ね。こうやって手の届く範囲でやるのが精いっぱいでさ、商売広げる余裕なんてないのよ。」

「もったいないなぁ・・・美味しいのに。」

「ん・・・ふふ、レシピなら教えるわよ~。」

「ぅん、分かった。こっちでなんか提案してみる。」

 八百屋は八百屋で、いろいろとつながりを持っている。

「んふふ、じゃぁ『サバ味噌のサバ抜き』でお願い。」

「は?はははっ、さすがにサバの名前を出すわけにいかないけど・・・なんか気の利いたの考えるよ、その時はねっ。」

「ふふっ、お願いね。」


「はははっ、晴子ちゃんも変なこと言い出すねぇ。」

 棟梁の晩酌に出してみた。

「これ、もっと染みてきたらお茶漬けにしても美味しいのよ。」

「あ・・・も~、またそうやってぇ。そうしちゃぁ食べすぎるんだからなぁ。」

「んふふ、じゃぁそれは明日ね。」

「え、あ・・・ぅん。」

 提案しておいて直前で取り上げる・・・ちょっと意地悪だったかなぁ。

「まぁ、そうじゃなくっても・・・ふふ、山ほどショウガがあるんでさぁ。しばらくは嫌でもショウガ料理食べてもらうからねぇ。」

「あ~、じゃぁ、ジンジャーエールみたいのも作れるかい?」

「ん?あぁ~、そっち方面もねぇ・・・うんうん、サイダーあるし・・・ハイボール的なやり方もあるわねぇ・・・ふんふん。」

 ちょっと考え方を変えるだけで、アイディアというのは次々と出てくる・・・時もある。

「んふふ・・・ヨーコちゃんはいつも楽しそうだねぇ。」

「・・・ん?今のは・・・嫌味?」

「あ、いえ、決してそういう訳では・・・・ぁ。」

 こんな常連さんや港の人達、広い意味での「仲間」がいるおかげで、私は今日もこの『ハマ屋』に居られるんだな。


 あっ、「ジンジャー煮エール」って名前はどうかなぁ・・・?え、イマイチ?うん・・・そうよね。

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