第149話 キャベツ祭りですってよ
(今回はいつもとは違った視点から・・・)
道の駅への出荷を終え、すっかり通いなれた道を行く。あの海へと降りる坂を下れば、そこは「雫港」だ。
「ん・・・?今日は静かねぇ・・・。」
いつもならまだ漁師たちが片付けやら明日の準備やらで忙しくしている時間なのに。
「あれ?って事は・・・。」
使い込まれた軽トラを『ハマ屋』の前に停める。
「あ~・・・やっぱり休みだわ。」
いつもは
「ぅんしょ、っと。」
軽トラを降りて店の前に行くと、一匹の猫がすり寄ってきた。
「ん?よう、大将・・・じゃなかった、幸一だったっけ?」
「ミャ~お。」
「もう、ゴロゴロ言わしちゃってぇ、お前さんも可愛いなぁ。」
ワシワシ撫でてやると一層気持ちよさそうにゴロゴロ鳴いている。
「なぁなぁ、お前さんのご主人様はどこ行ったんだい?」
「ぐぅ・・・ミャ~お。」
仰向けの状態から姿勢を戻した幸一の視線を追うと、堤防の先で釣り糸を垂らす人影が見えた。
「お・・・あ、いたっ。」
「ミャ~お。」
その人影の方へ向かおうとすると、再びのスリスリ・・・。
「ん?なんだい、お前も行くかい?」
「ミャ~お。」
「も~、しょうがないなぁ・・・っと。」
後ろから抱え上げるように持ち上げて、堤防の方へ向かった。
「お~い、ヨーコさぁ~ん。」
(・・・)
休みの前の日だから・・・と、港のみんなが大宴会を開いたせいで、今日食べる私のおかずがない。そんな時はこうして糸を垂れて、自ら調達するしかない。だって、冷蔵庫の底まで平らげるんだもん。
「ふ~ん・・・ちょっと潮が良くないかしらねぇ・・・。」
なんて分かったようなことを呟いてみる。まだ釣果は無い。明日の朝の分まで調達したいのだけど・・・。
「お、ん?食ったか・・・ふふん、よ~し。このまま・・・このまま・・・。」
今日の一匹目はメバル。
「ん、まぁ悪くないんじゃない?」
沖で揚がるほどの大きさではないけど、食べきりサイズとしては充分。
「よし、もう一匹くらいは欲しいわねぇ。」
と、そこへ・・・。
「お~い、ヨーコさぁ~ん。」
「ん?あら、イズミさん・・・ん、なによ幸一、横着しちゃって。」
「へへ~、連れてきちゃった~。」
「ミャ~お。」
後ろから抱えられ、されるがままの幸一。借りてきた猫。
「ぅんしょっと。へへへ、なにか釣れた?」
「あ、うん。今メバルが揚がったとこ。」
「ミャ~お。」
「アンタの分じゃないわよっ。」
「え、ヨーコさんのおかず?」
「そうなのよぉ。ふふっ、自分の食糧確保しとくの忘れちゃってねぇ。」
「へぇ、それで現地調達を?」
「そうそうそう。」
「ミャ~お。」
「はははっ『僕の分は?』って。」
「んふふ、もう。仕方ないわねぇ、アンタの分もとるわよぉ。」
「ミャ~お。」
「へへ~ん、やったなぁ大将・・・ぃやぁ幸一だ。」
「大将?」
「あぁ、昔ウチで飼ってたのがさぁ、よく似てるんだよねぇ。色味とか体型とか・・・ふふっ、あの後ろ姿とか。」
ご飯にありつけることが分かって安堵したのか、ひとり帰路に就く幸一。現金なヤツ。
「ふふふ、大将ねぇ・・・あ、で、今日は?」
「あ、そうそうそうっ。今日はねぇ、ヨーコさんを誘いに来たんだぁ。」
「・・・デート?」
「ん?だと良かったんだけど、今回はねぇ・・・フェスっ。」
「フェスっ?」
「うんっ。今度ウチの連中でさぁ『キャベツの美味しい時期にキャベツフェスやろうよ』って話になっててさぁ、そんならヨーコさんも誘わなきゃってんで。」
「へ~『キャベツフェス』ねぇ。うん、面白そうじゃない。」
「おっ、料理つくりに来てくれる?」
「うん、もちろんっ」
「やったぁ。ヨーコさんがいればもう、百人力だわ。」
「はははっ、それは持ち上げすぎよぉ。」
「はっ、ヨーコさんっ。」
「ん?」
「引いてるっ。」
「おっ、おぉ、とっとっと。」
意外と強い引きに驚いたけど、揚げてみればカレイだ。これも食べきりサイズ。
「ふぅんっ。今日はこんなもんでいいかなぁ。」
「幸一の分は?」
「ん?骨と頭。」
「あ・・・なるほど。」
「足りなきゃネズミでも取って食うさね。」
「あぁ、んだなぁ。」
「ふふふ・・・ねぇ、なんか食べてく?」
「あ~、ごめ~ん。今日は時間ないんだわぁ。」
「あらぁ。」
「ぅん。だから、また今度ねぇ。そん時は日程とかも持ってくるから。」
「あ、うん。楽しみにしてるっ。」
「ん~、私も楽しみ~。んじゃぁ、また。」
こうしていつも陽気なイズミさんは帰っていった。
「ふふ~ん、キャベツフェスねぇ・・・。」
大きな鉄板でワッシワッシと焼きそば作ってる姿しか思いつかない。
「ふっふっふ・・・。」
筋肉痛になる準備は出来ております。
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