第140話 花の香りも味のうち
「ふぅ~ん、エディブルフラワーねぇ・・・。」
エディブルフラワーとは食用花の事。
「だからさぁ、ヨーコさんにも活用法考えて欲しいなぁって。」
イズミさんが農家仲間から「販路を拡大したい」と託されて、私のところへも持ってきた。
「たくさん美味しい使い方があるってのが分かれば、みんな使ってくれると思うんだよね・・・。ね、お願い、何か考えてっ。」
「う~ん、美味しい使い方ねぇ・・・。」
「ホームページにレシピとか載せたいんだ。」
「うん・・・考えてみるけど、ありきたりになっちゃうかもよ?」
「ふふ~ん、またそうやって謙遜しちゃってぇ。じゃ、また来ますから。お願いしますねぇ。」
「う、うん・・・。」
バケツ一杯置いてった。どうすんのよ、この量・・・。
「ふ~ん、色々あるのねぇ・・・。」
とりあえず味見をしている。酸っぱいのがあったり、ほのかに甘いのがあったり、香りが強いのがあったり・・・と、色とりどり。見た目同様、味も様々。
「う~ん、酸っぱいのはお酢の代わりになるかしら?」
ちらし寿司のようなものが思い浮かぶけど・・・。
「ん~、こんなのみんなやってるわよねぇ。」
他にパッと思い浮かぶのは・・・天ぷら、おひたし、刺身のつま・・・そんなところかしら。
「ん~・・・っ、どれもありそうよねぇ。」
食材としての魅力はもちろんだけど、この見た目も活かした使い方をしたい。
「この辺を何か上手く・・・ん~、これなんかちょっとレモンっぽいのよねぇ・・・。」
誰に言うでもなくブツブツと・・・ん?レモン・・・?
「あぁっ、はちみつレモンっ。」
ちょうど先日、棟梁のお師匠さんから新しいハチミツが届いたところ。甘みと酸味のマリアージュ。
「よ~し、やってみるか。」
ひとつ思いつくと「似たアイディア」が続いて出てくるもので、砂糖漬けとオイル漬けも一緒に作る。砂糖漬けは上手く水分が出ればシロップのような使い方もできるだろうし、オイル漬けは花の香りがオイルに移れば料理に新たな
「んふふ、なかなかイイんじゃない?じゃぁ、あとは・・・。」
塩を振ってしんなりとさせたら、押し寿司にでもしようかと思う。華やかさを活かせるようにね。
数日後。研究発表会(?)。
「はぁ~い、じゃあまずは押し寿司ねぇ。」
一番上には塩を振ったものを乗せて華やかに。間には昆布締めにしたスズキを。
「へぇ~、きれいねぇ。」
「あぁ、美味しそうだ。」
棟梁も一緒。
「ちょっとありきたりだけどねぇ。まぁ、食べてみて。」
「はぁ~い。」
「いただきます。」
今日は良いスズキが入ったので、このあともメインの食材はスズキ。
「どう、かなぁ?」
「うんっ、美味しいっ。」
「あぁ、この酸味が良いねぇ。昆布締めとも良く合ってるよ。」
「んふふ、なら良かったぁ。」
「ふん・・・ふんふん、これは採用ですっ。」
「あら、早速ありがとうございます。ふふふ。」
「へぇ、お花って美味しいんだねぇ。」
「ねぇ。ちょっと驚きよね。」
「ううん。ヨーコさんの腕が良いのよ。」
「ん?ふふっ、もう。なにも出ないわよ~。」
「んひひっ。じゃぁ次っ。」
「あぁ、はいはい。次はねぇ・・・。」
飲み物。砂糖漬けにしたものから、良い具合にシロップが出てきたので、それを活かしてのサイダー割。ジンジャーエール的な・・・。
「やだぁ、おしゃれ~。」
「おぉ、南国気分だねぇ。」
「へへへ。結構ねぇ、香りもしっかり出てくれたんでこういうのも良いかなぁって。」
「んん~っ、爽やか~っ。」
「ほ~、しっかりお花の香りがして・・・美味いねぇコレ。」
「ゼリーなんかにしても良さそうなのよねぇ。」
「あぁ、イイっ。それも採用っ。」
「あら、んふふっ。」
採点甘くない?
「じゃぁ次は、お魚焼くわね。」
ムニエルの要領で、粉を振ったスズキをフライパンで焼いていく。本来バターを使うところを、お花を漬けたオイルを使う。華やかな香りをまとわせて。
「へ~、こんなのもあるのねぇ。」
「んふふ、ガラにもなく洋風なものをね。」
「いやぁ、いいねぇ。こういうのも、たまにはいいねぇ。」
感心しきりの棟梁。まだ「酒くれ」とは言ってこない。
「やっぱヨーコさんにお願いして良かったわぁ~。どれも美味しいし、お花が活きてる。あとで改めてレシピ教えてくれる?」
「えぇ、もちろん。」
「お花の農家さん連れてくるから、そん時写真も撮らせてね。」
「え、私の?」
「ん?料理のっ。あっ、ヨーコさんの写真も撮ろっか?海をバックに色香漂う・・・。」
「はははっ、私そんななの~?」
「そうだよ。ヨーコちゃんに色香を求めちゃ・・・。」
「あ~っ、棟梁ひど~い。」
「そうよ~、ヨーコさんにだってそれなりに・・・。」
「それなりに?」
「あ・・・あははっ。ねぇっ。」
笑ってごまかすイズミさん。それが許される性格。
「も~・・・はい、じゃぁ最後、デザートねぇ。」
「あら、デザートも?」
「うん。特別にねぇ、真輝ちゃんに豆乳プリン作ってもらったんだぁ。」
「へぇ~。」
「それにね。こうやって、ハチミツに漬けたやつをねぇ・・・乗せたらどうかと思って。ほいっ。」
「あら、可愛い。」
「ねっ?甘さ控えめで作ってもらったから、結構合うと思うのよ。」
「どれどれ~・・・。」
「ほぉ~。」
各々口に運ぶ。
「どうかな・・・?」
「ん・・・むっふっふ。採用っ。」
「あぁ、花の香りにほのかな酸味、ハチミツの甘さと豆の旨味・・・最高なんじゃない?」
棟梁からもお褒めのお言葉。
「んふふふ、良かった。真輝ちゃんにお願いした甲斐があったわ。」
「あ~、じゃぁ真輝ちゃんの写真も撮らなきゃ。」
「ヌード?」
「棟梁っ?」
「さすがに今のは・・・。」
「あ、あはは・・・。」
「笑ってごまかさないのっ。」
それが許されない性格。
後日。お花の農家さんを連れてきたイズミさん。料理の写真を撮ったり、レシピの確認をしたり。
「ホントにホームページに載せるんですか?」
「えぇ、是非っ。あぁ、もちろん『ハマ屋』の事も載せますので・・・。」
「へへ~、どうするヨーコさん?お客さん殺到しちゃうよ~。」
「え~、そうかなぁ?」
「そうそうっ。『色香漂う美人女将が・・・』って。」
「ははは、やめてよ~っ。そんなんガラじゃないもん。」
「は~い、じゃぁもう一枚行きますよ~。」
「あぁ~、ちょっと待って・・・。」
カメラを向けられると、ついピースしちゃうのよね。
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