第139話 焼いてほぐして合わせたもの

「ほぉ・・・んふふ、良い焼け具合っ。」

 白身の魚を焼いてほぐして味噌と合わせたものを、おにぎりに塗って焼いている。「みそ焼きにぎり」といったところか。

「もう、こんなのいくつでもイケるわよね。」

 匂いだけでおかずになりそうなほど、味噌の焼ける匂いは美味しい。

「ん~、やっぱり二つじゃ足りなかったかなぁ?」

 私のお昼ごはんなんて、大体こんなもんです。


 そんな「白身の魚を焼いてほぐして味噌と合わせてもの」をつまみに酒を呑む漁師。

「ねぇ、ホントにそれだけでいいの?なんか作るわよ。」

「いやぁ、いいんだ。これで充分なんだよ。」

「でも、味噌と酒だけよ?何か食べながらの方が良いんじゃない?」

「いやいや、コレだって立派な料理だよ。つまみってのは、こういうので良いんだ。」

 確かに魚の旨味も出ているし、そもそもの味噌が美味しいから「ご飯のおかず」にはなるけど・・・。

「お酒のアテには物足りないんじゃない?」

「いやぁ、そんなことは無い。ほらぁ、よく塩で日本酒を呑むだろ?そういう感じだよ。」

「そりゃぁ、塩舐めながら酒呑んでる爺さんとかいたけどさぁ。なんか・・・料理の作り甲斐が無いなぁ、なんてねぇ。」

「だから、これだって立派な料理だぜ?」

「そうだけどさぁ・・・それ、湯豆腐に乗せても美味しいのよ?」

「ん・・・?そうなの?」

「うん。どうする・・・?」

「んん・・・うん、お願い。」

「んふふっ、はいよ~。」

 結局、締めに「みそ焼きにぎり」も食べてった。


「はぁ~、美味しい・・・なんでヨーコさんの作るごはんって、こんなにも『お母さんの味』がするんでしょう?」

 そんな感想を漏らす真輝ちゃん。

「ん?そんなこと言ったらフミさん怒るわよ?」

「そ、そうだけど・・・なんか、お母さんより『お母さんの味』がするというか・・・。」

 これは、喜んでいいのかしら?

「私にも作れるようになるでしょうか?」

 真輝ちゃんは時折こうして「料理の勉強」を兼ねてお手伝いに来てくれている。まぁ、私が作る料理なんてそもそも家庭料理だから、どこまで「勉強」になるかは分からないけど。

「このお味噌。本当に美味しいです。」

 例の「白身の魚を焼いてほぐして味噌と合わせた」もの。

「ふふ、ありがと。でもホントに味噌と合わせただけなのよ?」

「本当に本当にそうなんですか?」

「ん・・・まぁ、厳密に言うと、もうちょっとやってるけど。」

「あ、やっぱり~。」

「んふふ、知りたい?」

「あ、当たり前ですっ。」

 やっぱり、そうなるのね。

「じゃぁ、簡単に説明するから覚えて帰ってね。」

「あぁ、じゃ、メモを・・・。」

「ダ~メっ。これぐらいのこと覚えられないと・・・料理中はメモなんて見てる暇無いからね。」

「は、はい・・・。」

 こういう「良い生徒」がいると、自分が「良い先生」になったかのように錯覚するから気を付けなければいけない。

「まずは、煮切ったみりんと・・・え~、みりんを火にかけてアルコールを飛ばして、そこにお味噌を入れて良~く溶き合わせていきます。」

「はい。」

「弱火にかけながらね・・・で、良く馴染んだところへ焼いてほぐした白身の魚を入れて、万遍まんべんなく混ぜ合わせる。」

「はい・・・。」

「・・・以上っ。」

「へ?終わりですか?」

「うん。やってることはそれだけ。あとは粗熱をとって冷蔵庫に入れるだけ。」

「へ~・・・。ん、分量は?」

「ん?う~ん・・・その日の気分?」

「は?」

「んふふふ、まぁその辺は『勘』というか『さじ加減』というか・・・まぁ目分量ね。案外適当でも美味しくできるもんよ。」

「そう、なんですね・・・。」

 不思議そうな顔で見る真輝ちゃん。

「でも、本当にそうなのよ。分量なんて量ったことないの。」

「え、一度も?」

「うん。まぁ、最初のうちは味見しながらね。それからは、大体の感じで大体上手くいく。」

「そう聞くとすごく簡単そうに聞こえますけど・・・。」

「なんも難しいこと無いわよ。自分で『美味しい』って感じるものを作ればいいんだから。」

「う~ん、そうは言っても・・・。」

 なかなか感覚がつかめないわよね。

「私、真輝ちゃんの作るクッキー好きよ。」

「え、あ、はい。ありがとうございます。」

「あれ、真輝ちゃんのレシピよね?」

「はい、一応・・・元になったのはありますけど。」

「でも、真輝ちゃんが『美味しい』って感じたものを作ってるのよねぇ?」

「は、はい・・・。」

「うん、なら大丈夫。ね、真輝ちゃんなら出来るわよ。」

「はい・・・ふふっ、やってみますっ。」

「うんっ。頑張って源ちゃんの胃袋つかまなくっちゃね。」

「え、え~っ。別にそういう訳じゃぁ・・・。」

「違うの?」

「う~・・・違わないですけどぉ。」

 思いは伝えたけれど、まだまだ「確信」の持てない真輝ちゃん。それもこれも源ちゃんの態度がはっきりしないせい。

「まぁ、どっちにしても『料理をする』って楽しいわよ。」

「あ、はい。そうですよねっ。」

 真輝ちゃんならきっと、良い妻になり、良い母になり、立派な「港町の女」になれると思う。


「さぁて・・・どうしようかしら。」

 さすがに「白身の魚を焼いてほぐして味噌と合わせたもの」では長すぎるので、何か適当な名前を付けたいのだけれど・・・。

「はぁ~っ。もう、なんも思いつかないわ。」

 そんな訳で、現在名前募集中です。

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