第134話 新鮮だけど煮魚
「コレでサバ味噌作ってくれ。」
朝港へ行くと「おはよう」の挨拶も無しに漁師がサバを持ってきた。
「え?サバ味噌?良いけど・・・。」
見ると、丸々と太った良い型のサバがいくつも並んでいる。
「コレ、やっちゃっていいの?」
「あぁ、頼むよ。みんなの分、足りるだろ?」
「うん、量は十分だけど・・・やっぱり、刺身にしない?」
サバを刺身で食べられるのは鮮度の良いうちだけ。しかも、これだけ丸々としていれば美味しいに決まっている。
「あ~、刺身も美味いけどさ・・・正直、飽きたよ。味の付いたもんが食いたい。」
なんと贅沢な・・・。
「あ、うん、分かった。美味しいの作っとく。」
「お~。じゃ、あとでな。」
「絶~対、刺身の方が美味しいのになぁ・・・ふふふ、ほらねぇ。」
サバ味噌にしてしまう前に、一部を拝借して刺身で食べてる。あ、味見よ、味見。
「さぁて、やりますか。」
この刺身に負けないサバ味噌にしなくては。
「ショウガと・・・あ、このネギの青いとこみんな使っちゃお。」
材料なんてたかが知れている。サバとショウガと今回はネギ、それに味噌に砂糖・みりん・お酒を加えた味噌だれ。うん、ざっとこんなもん。
下処理をしたサバは適当な大きさに輪切りにして、鍋に敷き詰めるように並べていく。ぎっちり詰まっていれば、簡単には型崩れしない。そこに水を入れ火にかけると、じきに灰汁が出てくる。それをキレイに取ったらショウガとネギ、それに味噌だれを入れて弱火でじっくり煮込んでやる。火加減さえ間違わなければ、あとは時間が美味しくしてくれる。
「ふぅ。さて、一休みしたらお昼の準備だ。」
「うんうんうん、やっぱりサバは味噌煮が美味いよなぁ。」
「そ、そう?それなら、良かった。」
生で食べられるサバを味噌煮にしてしまった罪悪感が、私の中には少々ある。
「そりゃ刺身も美味いし
ん?これって、褒められてる?
「こんなの誰が作ってもそんなに変わんないんじゃない?鍋に入れて煮るだけなんだから。」
「いやいや、そんなこともねぇんだよ。下処理とか分量とか火加減とか・・・なぁ、ちょっとの違いが大違いだろ?」
「そうかなぁ?結構適当よ?」
「ははは、料理のできる人はみんなそう言うんだ。ウチのおっかぁみてぇに大根煮てて焦がす人もいるくらいなんだからさぁ。やっぱり腕の違いってのがあるんだよ。」
大根煮てて焦がす、って・・・。火を使う時は、なるべくその場を離れないようにしましょう。
「でもさぁ、やっぱり生でも食べてもらいたいわよ。こんなに新鮮なんだもの。」
「そんなの分かってっけどさぁ。刺身なんてのはガキの頃から食ってんだから、いい加減違う食べ方しねぇと、仕舞いには嫌いになるからなぁ。はははっ。」
「ふふふ、もう。ホントに贅沢よねぇ。海なし県民には信じられないわ。」
「ははっ、そうかもなっ。」
そういう間にも『ハマ屋』には港の人達が次々と訪れ、一時の休息と空腹を満たしていく。そんなお昼も、私の日常。
「はっはっはっ、そのおかげでこのサバ味噌にありつけた訳だっ。」
夕方には仕事終わりの棟梁の舌を楽しませることになった我がサバ味噌。
「まぁ、みんなが美味しく食べてくれたから、それはそれで良いんだけどさぁ。やっぱり生でも味わってほしかったわよ、あんなに美味しいんだもん。」
そう言いながら棟梁の前に一皿出す。
「おっ・・・ん、〆サバ?」
「えぇ、さすがに〆たわよ。」
「ふふ~ん、いいねぇいいねぇ。」
「
きっと冷酒が合うと思うんだ。
「おぉ、いいねぇ。辛いのね。」
「はいはい、辛口のね。」
酒飲みの味覚だって理解できてきたもんね。
「あ、ねぇ棟梁?頭揚げたの食べる?」
「頭?」
「うん、サバの頭。」
「へ~、面白そうだねぇ。」
臭みと灰汁抜きで下茹でしておいたサバの頭。塩コショウしたら片栗粉をつけてじっくり揚げていく。鯖節なんてのがあるので分かるように、サバには濃い旨味がある。その旨味を、じっくりと揚げることで充分に引き出してゆく。
「はぁい、お待たせ~。骨までガリガリいけるわよぉ。」
「おぉ、ははっ、いいねぇ。いただきます。」
ガブっとかぶりつき、バリバリと、ムシャムシャと。
「ね?結構イケるでしょ?」
「はっはっは、野生の血が騒ぐよっ。」
「ふふふっ、もう一杯いく?」
「あ~、頼むよ。」
そうして冷酒をもう一杯。
鮮度の高い魚に火を通してしまうのはもったいない気もするのだけど、「刺身は飽きた」なんて言われると「何か考えなきゃ」という気持ちになるのも正直なところなので、またいろいろとネタを考えておかなきゃかなぁ・・・なんて。
「じゃぁ、今度はロールキャベツでも作ってやろうかな?」
急に洋風なのが出てきたら驚くだろうなぁ・・・ん、味噌風味でも合うのかなぁ。
「それなら、キャベツよりも白菜の方が合うんじゃない?」
そんなことを考えてしまう「寝付けない夜」が、私にもある。
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