第129話 貝だのイカだのタコだの

 棟梁と源ちゃんが何やら話し込んでいる。という事は、源ちゃんがのんびり進めている船宿の計画に何か進展でもあったか?

「はぁ~い、焼きうどんお待たせ~。」

「おぉ、すまねぇ。」

「あ~、ありがとねぇ。」

 源ちゃんの急なリクエストで作ったから色々と大雑把だけど、ウスターソースに醤油も足したから食欲そそる形には仕上がっているはず。

「お~、良い香りだねぇ。そんじゃ、いただきます。」

「ヨーコ、紅ショウガあるか?」

「ん?あ、ちょっと待ってねぇ。」

 男たちの小休止には、大盛が似合う。


「で?何の話してたの?イカだのタコだのって。」

「あぁ?いかだなっ。イカでもタコでもねぇ。」

「あ~、筏ねぇ・・・って、え?亡命でもすんの?」

「はぁっ?そんなんじゃねぇよっ。養殖の筏をだなぁ・・・あ~、もう。」

「はははっ。ほら、源ちゃんが貝の養殖をするって頑張ってるだろ?それに使う筏をさぁ、作れないものかって話をさぁ。」

「え?貝の養殖って・・・陸上養殖でやるって言ってたわよねぇ。」

「あぁ、それだ。」

「・・・やめたの?」

「やめねぇけどっ・・・やめねぇけど、いきなりじゃぁ上手くいかねぇ、から・・・。」

「ん?」

「あぁ、だからさぁ。源ちゃんが言うには『海で出来ねぇことが陸上でなんか出来るわけねぇ』ってことでさぁ。だから、小さな筏作って蓄養の実験をやろうって。なっ。」

「あぁ、そうだ。」

 ほとんど棟梁が説明してる。

「ふ~ん。ってことは、またハードル下げたのね?」

「そ、そういう言い方すんなよなぁ。こっちだって上手くいかねぇで悩んでんのに。」

「あぁ・・・そう、ね。」

 目標の到達点は変えないけど、その道筋は変更するってことかな?

「って事はなに、港に養殖筏が浮かぶの?」

「あぁ、そういうことになるなぁ。」

「そんな場所ある?ただでさえそんなに大きくない港なのに、そんなの浮かべたら邪魔にならない?」

「だからぁ、邪魔にならねぇ大きさで作ってもらおうって話をだなぁ。」

「あ~、そういうこと。」

「あぁ。」

「・・・ん?だったら今の生簀でもそんなに変わんないんじゃない?」

「いやぁ、そうもいかなくてな。ポンプの電気代だってかかるし、水を取り替えるのだって結構な手間だし、その上全滅じゃぁ・・・精神的にも金銭的に続かない。」

「あら、全滅だったの?」

「あぁ、気付いたらみんなカラだった。」

「あらま。」

「だからな。もう少し確率の高いところで経験積んでだな・・・ん~、まぁ、ひとつひとつな。」

「ふ~ん、時間かかるわね。」

「んだぁ、前にも言ったろ?死ぬまでには実現するって。」

「んまぁ、気の長いことで・・・じゃぁ、長生きしなきゃ。ねぇ、棟梁?」

「んぁ?お・・・おぅ。」

 少々お酒の入った棟梁は、すでにほろ酔い状態。

「ふふっ、もう。でもさぁ、源ちゃん。試行錯誤も良いけど、ノウハウのあるところで研修させてもらうって手もあるんじゃない?」

「あぁ、それは俺も考えてる。自力じゃ限界あるなぁ、って。」

「うん、そうよ。」

「それで、鈴木ちゃんにちょっと調べてもらってるんだけど・・・ねぇ。」

「ん、見つからないの?」

「いやぁ、そんなことはねぇけど・・・。」

「だったら話だけでも聞きに行ったら?」

「あぁ、やっぱり・・・そうだよなぁ。」

「そう。思い立ったが吉日。」

「あぁ、そうだな。鈴木ちゃんに話してみる。」

「えぇ。で、棟梁は?もう一本?」

「ん?あぁ、いや・・・揚げだしもらえる?」

「ふふっ、はいよ~。」


 陸上での完全養殖の目標は「海上での蓄養」までステップが下がったけど、今のままの海での漁だけでは将来が心配という危機感は変わらずに持っているようで、源ちゃんの覚悟のようなものはいつも感じる。のだけど・・・。

「貝ねぇ・・・好きな人はとことん好きなんだけどねぇ・・・。」

 この計画にどうにも気が乗らないのは、私ののせいもあったりする。

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