第126話 ある賑やかな休日
「よぉ~し、今日こそお布団干すぞ~。」
晴れた休日には必ず布団を干すようにしているのだが、ここしばらく休日のたびに曇りがちで干すに干せなかった。なにも布団を干すくらいなら平日でも出来るのだけど、布団を干すのに都合の良いところがちょうど店の入り口の真上にあって、お店のある日は干すわけにはいかないのだ。気分の問題だけど、お客さんに自分の布団の下をくぐらせるわけには、ねぇ。
「ん・・・よし、っと。じゃぁ、今日はゆっくりしますか。」
今日は何もしない日、と決めた。
「ん~、空が広いって良いわねぇ・・・。」
海の上の空は広い。建物が無いのだから当たり前と言えば当たり前だが、この広さを体感できるということがどれだけ贅沢な事か、少し前の私なら想像することしか出来なかっただろうね。
「こんな贅沢・・・なかなか無いわよね。」
堤防の突端に椅子を出し、広い海と空を眺めながら・・・瓶コーラを飲む。
「ふふふ、いいじゃないコーラだって、ねぇ。」
誰に言うでもない独り言。
「なんだぁ、ヨーコ。昼間っから吞んでんのか?」
そこに船で通りかかった漁師。
「え?あぁ。コーラよ、コーラっ。」
今日は漁も休みの日だが、なんだかんだ船を出して遊んでいる漁師もいる。
「なんだぁ、味気ねぇなぁ。なぁ、今から行っていいかぁ?」
「今日は休みよ~。」
「分かってるけどさぁ。良いサワラが釣れたんだよ。」
「えっ、ホント?分かった~、準備しとく~。」
美味しいものにありつけるなら話は別。
干していた布団をバタバタ叩いているとこに、先ほどの漁師がやってきた。
「ヨーコぉ、ほらぁ、こんなの~。」
釣果であるサワラを見せつけてくる漁師。
「おぉ、いいじゃない。入って待ってて~。」
慌てて布団と洗濯物を取り込んで、降りてゆく。
「へへ~、見事なもんだろ~。」
「ホント立派ねぇ・・・売ったらいくらになるのかしら。」
「お、おいぃ。そんな野暮なこと言うなよ・・・あぁ、船の上で絞めといたからそのまま捌いてくれ。じゃぁ、みんな呼んでくっから。」
「ふふ、分かった。いつも感じね。」
休みの日だってのに釣りに出かける漁師。そこで大物が釣れるとみんなを集めての宴会。これじゃ普段と変わらないじゃない。まぁ、そういう私もおこぼれに
「さぁて、お刺身と焼きと・・・あとは?」
なんて考えながら手早く三枚におろしていく。大きな魚を捌くのも、もう慣れたもの。
「あ、ご飯無いや・・・ま、誰か持ってくるかな?」
こんな「人任せ」が許されるのも、休みの日ならでは。かな?
「ヨーコちゃん、なんか手伝おうか?」
宴会が始まったころ、においを嗅ぎつけた(?)素子さんがやってきた。
「あぁ、素子さぁん、助かります~。」
「へへ、良いサワラがあるって聞いたもんだからさぁ。」
「ははは、そうなんですよ。見て、この立派なの。」
すでに半身だけど、この堂々たる姿。
「まぁ、ホントっ。美味しそうねぇ。」
「これ、あとでから揚げにしようと思うんですけど、どう思います?」
「うん、良いじゃないっ。絶対美味しいわよ。」
そんなこんなで、宴会は進んでいく。まだ昼間だけどね。
「はぁ~い、焼けたわよぉ。」
刺身の次は焼き。塩ふって焼いただけだけど、これで充分「料理」になってくれるんだから新鮮な魚というのはありがたい。
「このあとから揚げが出るからねぇ。お酒残しときなよ~。」
「はぁ~い。」
良い返事。酒のまわった漁師たちは、5歳の男の子のように素直だったり急にすねたり・・・と。ちょっと面倒だけど、結構かわいい。
「ヨーコも一杯どうだぁ?」
「ん?私はいいわよぉ。」
「そんなこと言わねぇでさぁ、たまには、なぁ。」
「ふふ、もう。私が呑んじゃったら誰が後片付けすんのよ。」
素子さんもすっかり・・・。
「あ、それもそうだなぁ・・・。」
「ね?」
呑んで食って時々歌って・・・そんな盛り上がった宴会も、日のあるうちにお開きとなる。明日に響かぬように、かあちゃんに怒られないように・・・。
夜。昼間干した布団を広げ、そこにボフッと体を預ける。
「んん~・・・きもち~ぃ。」
ちょっと久しぶりの「太陽の香り」のする布団。一日の終わりにこれが待っているのだから、予定の変わった休日というのも悪くない。漁師たちが楽しいそうに呑んだり食べたりしている姿、馬鹿な話に盛り上がる姿・・・今日は素子さんとの昔話が面白かったなぁ。地元の人たちにとっては、いつまでも「お姉ちゃん」なんだね。
「むふ、ふふふっ・・・はぁ、今日はゆっくり眠れそう。」
ふっくらとした布団に包まれ・・・。
「あ、いや、その前に歯磨かなきゃ。」
これも大事な日課。
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