第122話 レバーに似ている・・・
「え~っと・・・お醤油とお味噌とお酒を少々に、ニンニクなんかがあると良いんだけど・・・あぁ、七味でいいか。」
仲買さんからの「預かりもの」の下ごしらえをしている。
「で、コイツを入れてしばらく置く、っと。」
焼き肉のようなものをイメージしているんだけど・・・上手くいくかしら?
「うん、お昼のお楽しみね・・・。」
思ったような仕上がりになってくれると良いんだけど・・・。
朝、港で仲買の人達なんかと話してて「血合」の処理の話になった。
「ほらぁ、ウチの方は扱う魚が大きいだろ?そうすっとさぁ、やっぱり血合なんかも大量に出るわけよぉ。」
「あぁ、そうだろうねぇ。」
「そりゃぁまだ鮮度が高けりゃ良いんだけどさぁ、ちょっと経つとすぐ生臭くなるんでねぇ。
「う~ん、そうよねぇ・・・。」
ん?この話の流れは・・・?
「ヨーコちゃん、なんとかならねぇかい?」
やっぱりそうなるのね。
「ん?ん~、そうねぇ・・・。」
この「血合」に対しては、前から思っていたことがある。
「ねぇ、血合って・・・レバーに似てると思わない?」
「え?レバーって、あの肝臓のレバーかい?」
「うん。色合いとか食感とか・・・匂いとか。」
「あぁ・・・言われてみると、似てる気もするなぁ。」
「ねぇ、やっぱりそうよねぇ。」
「あぁ・・・。あ、じゃぁヨーコちゃん、あとで持ってくから頼むね。」
「あ、うん。なんとかしてみる。」
港での交渉事(?)は、だいたいこんな感じで話が進む。
私のお昼ごはんは、お昼の忙しい時間を乗り切ってから。
「ふぅ~・・・ふふふ、どんな具合かなぁ・・・。」
その身はしっかりとタレを含んでプックリとしていて、別に串に打って塩を振っておいた方も、余計な水分がしっかりと抜けている。これなら準備万端だ。
「よしっ。じゃぁ、焼いてみるか。」
串に打った方を遠火にかけてから、漬け込んだ方をフライパンで焼いていく。
「おぉっ、いい音するねぇ。」
やっぱり、見るほど血合はレバーに似ている。これならレバニラ的なものも作れそうね。
「ん~、この香りっ。もう、たまんないわよねぇ。」
焼肉屋さんの、あの匂い。ご飯が欲しくなるヤツ。タレの調合は適当だったけど、この匂いなら問題無さそうね。
「うん、このくらいでいいかな。」
血合は生でも食べられるものなので、生っぽさが残る具合にした。
「むふっ、ちょっと味見っ。」
我慢できず、ひとつ摘まんだ。
「ん~っ、ご飯ご飯、ご飯よっ。」
丼に半分くらいご飯をよそい、その上に豪快に乗せる。
「ふふふ、これよ。もう、これよ。」
なんだか体育会系の食事みたいだけど、これが「最適解」というヤツよ。
「え~っと・・・。」
串の方はもう少しかかりそうだ。こちらは良く焼きたい。
「よしっ。じゃぁ、いただきますっ。」
ガツガツ食べるのは少々はしたないけど、止まらないんだからしょうがない。七味のピリ辛が良いアクセント。
「ん~・・・これは、クセになりそうね・・・。」
懸案だった「生臭さ」も全く無い。この辺は鮮度が命のところね。
「こっちの方はどうかしら~・・・?」
串焼きの方も良い具合に仕上がった。少々焦げ目があるくらいが美味しい。
「では、こちらも実食~。」
ハフハフしながら一切れ食べる。生臭さ・・・無し。塩加減・・・薄味。なにより・・・
「ん~・・・パサパサだわぁ。」
焼きすぎたのか、それとも塩を振ってから置いたのが悪かったのか・・・。思ったような仕上がりにならない時もある。
「これは・・・追試だな。」
落第にしないあたりが、生来の食い意地を表して・・・って、余計なお世話よ。
「ん、味噌付けて食べちゃおっ。」
最後まで美味しくいただきました。
夕時、呑みに来た仲買さんに丼にしたのを出してやった。
「おぉ、こうなったんだ~。」
上にネギを散らした。見た目も大事。
「ねぇ、ほら早く。感想聞かせて。」
自信作により、少々急かせています。
「あぁ、うん・・・いただきます。」
一口頬張ると、箸が止まらなくなる。
「ぅふん・・・うん、うん。美味いよヨーコちゃん。もう、止まんないもん。」
「ねぇっ、イケるわよねぇ。」
「あぁ、コレ売れるんじゃないの?」
「うんうん、それなんだけどさぁ。ウチでやるのも良いけど、これ自分とこで売ってみない?」
「は?ウチで?」
「うん。さくのまんまタレに漬けて真空パックにしたら、商品にならない?冷凍にでもしてさぁ。」
「あ・・・あ~、なりそうだねぇ・・・。」
「でしょ?」
「うん・・・ちょっと、かぁちゃんに話してみる。」
「ふふふ、ね。」
美味しいものを美味しい時に美味しいまま食べる・・・って、なかなか難しいけど、工夫次第では多くの人に楽しんでもらえるようになると思うのよね。
「あ~・・・じゃぁ、商品名は『ヨーコの血合漬け』で。」
「えぇ?なんで私の名前が出るのよぉ。」
「ダメか?」
「当たり前でしょ~。よりにもよってそんな血生臭い名前。」
「じゃぁ・・・じゃ『血合だ、血合だ、血合だぁ~!』ってのは?」
「ははは、面白いけど・・・ねぇ、それ注文のたびに電話口で叫ぶの?」
「あ・・・そういうわけにゃいかねぇか。」
「ふふふ、ねぇ。」
真面目なような不真面目なような・・・これでも話が進むときはちゃんと進むんです。
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