第121話 行かなきゃいいのに・・・

 日が沈んだ頃、美冴ちゃんがしょんぼり帰ってきた。

「あぁ・・・終わった・・・。」

「あら・・・ふふ、ごくろうさま。」

 贔屓の野球チームの今シーズン最後のホームゲームを観戦に行った美冴ちゃん。結果は聞かなくても分かる。

「はぁ、今シーズン終わった・・・。」

 この負けでシーズン最下位が決まったのだそう。

「ふふ、だから『めておけば?』って言ったのに。」

「でもぉ~・・・っ、せっかくのデーゲームだし、最後くらい応援したかったんだもぉん。」

 美冴ちゃんが応援に行くと、このチームは必ず負ける。いつもいつも、そして今回も。

「でも結局負けるんだから、行かない方がまだ勝てたんじゃない?」

「あ~っ、もうヨーコさんもヒドイこと言うなぁ。まるで私が疫病神みたいに・・・。」

「でも・・・ねぇ。」

「も~っ、私が応援したせいで負けたわけじゃないもんっ。」

 でも「野球はデータのスポーツだ」って言うし・・・。

「ふふふ。はいはい、分かったわよ。で、なんか食べる?ご飯まだなんでしょ?」

「ん~っ、食べるっ。なんかガツンとしたの作って。」

「ふふ、はいよ。」


 まるで育ち盛りの少年のようにガツガツと食べ続ける美冴ちゃん。お腹が空いてたのもあるのだろうが、負けのストレスの方が大きいのかもしれない。いわゆるヤケ食い。

「ぷはぁ~っ、ごちそうさまぁ。」

「ふふ、お腹いっぱいになった?」

「うん、やっと落ち着いたぁ。」

「うん、なら良かった。ねぇ、美冴ちゃん。今日一人で行ったの?」

「うん、最近はいつも一人。」

「ふ~ん、誰か誘っていったら少しは・・・。」

「あ~っ、もう。また負ける話?」

「ふふふ、誰かと一緒だったら少しは緩和されるんじゃないかなぁ・・・って。」

「も~、別に私が負けさせてるわけじゃ・・・ん~、お母さんと行ってた時も勝てなかったんだから・・・。」

「うん・・・じゃぁ、家族以外ならどうなの?」

「えっ?ん~・・・どうなんだろ?分かんない。」

「ねぇ、今度誰か誘ってみたら?」

「え~?誰かって、誰?ヨーコさん一緒に行ってくれる?」

「私は『ハマ屋』があるから行けないけど・・・。」

「え~、じゃぁ誰?」

 なんて言ってるところに素子さんが入ってきて・・・。

「美冴~、おかえり~。どうだった?」

 聞くまでもないことを聞く母親。

「も~っ、またその話するのぉ?」

「え、じゃぁやっぱり負けたの?」

「ま~け~た~の~っ。」

「あぁ、じゃぁ最下位決定だぁ。」

「も~、なんでお母さんそんなに嬉しそうなのぉ?」

「ははは、わが娘ながら立派なをお持ちで・・・。」

「んも~っ、そんな力持ってないもぉん。」

「ふふふ。だからねぇ素子さん。誰かと一緒に行ったら少しは弱まるんじゃないかって話してたとこなんですよ。」

「あら、それ良いじゃない。」

「だから~、誰を誘えって言うのよ~。」

「え、あの子は?ほら、ときどき源ちゃんの手伝いに来てる子。最初に連れてきたの美冴よね?」

「あ~、そうだけど・・・えぇっ?アイツ?」

「うん。あの子なら美冴の言うこと聞いてくれそうじゃない?」

「え、あのね~。私はが欲しい訳じゃ無いの~。」

「でも、いた方が良いでしょ?」

「それは、そうだろうけど・・・。」

 なんだか話があらぬ方向へ行きそうな・・・。

「うん。いいんじゃない美冴ちゃん。あの子は源ちゃんの弟子みたいなもんなんだし、しもべじゃなくても仲良くなっておく方が後々楽なんじゃない?ねぇ。こっちへの移住も考えてるみたいだし。」

「え、そうなの?」

「うん。聞いてない?」

「聞いてないっ。」

「なら尚更良いじゃないっ。今のうちに手懐てなずけといてさぁ・・・。」

「もう、だからぁ・・・しもべじゃないって~。」

 素子さんとタケさんの関係性を、少し思い出してしまった。

「ふふふ。でもホントに、今度行く時に誘ってみたら?」

「え~・・・アイツぅ?」

「まぁ『二人きりで行け』って言ってるわけじゃないけどさぁ。」

「え~・・・?」

「で、負けて帰ってくるのよねっ。」

「あ、も~っ、お母さぁんっ。それじゃぁな~~んの意味も無いもぉんっ。」

「ははは。そっかそっか。」


 春までホームの試合がない以上、美冴ちゃんの神通力(?)の出番も無い訳で、それまでの間に何か変わるのか、何も変わらないのか・・・。

「じゃぁ、今度相手のチーム応援してみたら?」

「え~っ、ヤダぁ~。そんな裏切るようなことできないもぉんっ。」

 素子さんも、意外と人が悪い。

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