第114話 豆大福と友との時間
「・・・で、これが?」
「はい、豆大福です。」
「ということは、こっちも?」
「はいっ、豆大福ですっ。」
明音さんがお土産にと豆大福を持ってきた。それも三種類も。
「あ、お赤飯もありますよ。」
「あ~、和菓子屋さんのお赤飯って美味しいわよねぇ。」
「えぇ。最後に寄ったお店の方が、私が妊婦だって聞くとオマケしてくれたんです。」
東京にいる明音さんの友人が、妊娠中の彼女を気遣ってか「動けなくなる前に遊びにおいでよ」と声をかけてくれたんだそうだ。
「巣鴨のあたりなの?」
地蔵通りは豆大福のメッカ。
「えぇ、あの辺なんです。そしたらもう、お店の人が『寄ってけ寄ってけ』って言うもんだから・・・ふふっ、こんなにいっぱいになっちゃいました。」
「それで三店舗も・・・。」
「はい。あ、それぞれ少しずつ違ってどれも美味しいんですよ?」
しっかり検証済み。抜かりない明音さん。
「あぁ、そうなのね・・・。」
それは分かるけど、私ひとりじゃ食べきれるもんじゃない。かと言って日持ちするもんでもないから、どうしたものか。とりあえず・・・食べるか。
「はむっ・・・。」
ふっくらと柔らかい食感、少々塩気の強い粒あんに豆のアクセントが楽しい。由緒正しい豆大福は裏切らない。
「うふっ、やっぱり美味しい。」
「あら、ヨーコさんもお好きですか?」
「うん、こういう昔からあるものって、やっぱり好きなのよねぇ。」
「ふふふ、日本人ですものね。」
「これは・・・食べちゃうかもなぁ。」
結構な量だけど、食べきれてしまう気になれる不思議な「魔力」のようなものがある。
「焼いて食べても美味しいんだそうですよ?」
「え、焼くの?」
「えぇ。硬くなっちゃったものを平たくつぶして、フライパンで焼くんですって。」
「へ~、なるほどねぇ・・・うん、絶対やるっ。」
これは美味しいに決まってる。
「うふふ、私の分も焼いてくださいねっ。」
「ん、えぇ、もちろん・・・でも、その前に・・・っと。」
もうひとつ頬張る。先程のとは違うお店のを。美味しいものは美味しいうちに。
「あっ、じゃぁ私もいただきます。ふふふ。」
日本の甘味。世界に出しても絶対負けない。
「ふむ・・・ふんうん・・・うん。はぁ、お赤飯も美味しい。」
なんだかんだで、結構食べてる。
「ふぇ・・・おいひぃでふね。」
口の中が「美味しい」でいっぱいな明音さん。
「・・・どうやったらこんなにモチモチなのに重たくない感じにできるんだろう?」
「ぅん?」
「いやぁねぇ・・・私も、お赤飯炊いたことはあるけど・・・なんかさ、もっとさっぱりした感じにしかならなくってねぇ。あれ、
「あら・・・ヨーコさんの研究熱心に火が?」
「ふふふ、まぁね・・・ほら、これが自分でも作れたら、いつでも食べられるじゃない?」
「あぁ、いいですねぇ、それ。」
「ふふふ、ねっ。」
蒸し器はあるんだから、材料さえ揃えればいつでも試作はできるのよね。
「・・・あ、でねヨーコさん?」
「ん?」
「彼女『生まれたら真っ先に見に行くから』って。」
「あら、いいじゃない・・・え、泊り?」
「いや、さすがに日帰りさせますっ。」
「ふふふ、そうなの?ちょっと残念。」
「え、残念?」
「えぇ。だって、せっかくならココの日の出を見せてあげたいじゃない?」
「あぁ、そうですけど・・・多分無理です。」
「無理?」
「えぇ。あの子、朝弱いんで・・・。」
「あら・・・。」
「会社のそばに部屋借りてるくらいですから。なので、日の出を見せてあげることは出来ないと思います。」
「まぁ・・・。」
だからって、叩き起こすのも気の毒よね。
「ふふふ、夜はどこまででも付き合ってくれるんですけどね。それこそ朝まで。」
「あら、じゃぁそのまま日の出を迎えるのも・・・?」
「あ・・・それもいいですね。ふふふっ。」
妊婦に無理はさせられないけど、こういう「友との時間」はいつでも作ってあげたい。
後日。夕暮れに棟梁と。
「たまにはこういう『おこわ』も良いねぇ。」
「え、えぇ・・・でも、モチモチが・・・。」
お赤飯だと変に祝い事かと思われるので、おこわでの試作、あるいは思索。
「ふん、うんうん・・・美味いじゃない。ねぇ、サザエなんか乗せちゃってお洒落で・・・。」
「でもねぇ、モチモチがもうちょっと、こう・・・ねぇ。」
「・・・ん?」
まったく・・・どうやったら「モチモチだけど重たくない」になるのよっ。
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