第77話 大豆と醤油のハーモニー
「うんうん、思った通りっ。こっちの方がパリッとしてて美味しいっ。」
油揚げを焼いて食べている。普段はフライパンで焼いているのを、今日は魚焼き器で焼いてみた。程よく油が落ちるのと直火で焼くことによる香ばしさが合わさって、最高の食感と大豆の旨味を引き出している。
「う~んっ、近所に美味しい豆腐屋さんがあるって・・・むふっ、幸せっ。」
生姜醤油で食べるのが最高・・・なのだけど。
「うん・・・このパリッと感が、少し失われる感じするわね・・・。」
醤油でしんなりさせてしまうのが、ちょっともったいない。
「う~ん、しょうがないわねぇ・・・。」
思い立ったが吉日。いや、思い付いたが・・・かな?やってみないと気が済まない、そんな性分。
「ん~、まずは・・・塩ふってみようかな。」
醤油をかける前のものに、塩だけふって食べてみる。
「はむ・・・うん・・・ん。まぁ、これじゃ物足りないわよね。」
これは想定内。コショウ・ケチャップ・マヨネーズ・・・ちょい足しの定番達。
「うん・・・そうよねぇ、だいたいこんな感じよねぇ・・・。」
どれも似たり寄ったり。香ばしさやパリッと感との相性がイマイチ。
「ふむ・・・こっちの方面じゃないわね。」
やっぱり醤油の風味が必要ね。この香ばしさやパリッと感に醤油の風味をまとわせる感じかなぁ。
「となると・・・ん?ふふっ、そうね。」
油揚げを短冊に切って、折り曲げながら串に打っていく。一本の串に二つでちょうどいいサイズ。
「ふふ、いい感じじゃない。」
焼き鳥の皮みたいにして焼いたら良いんじゃないか・・・なんて思ってしまったのよね。
「よ~し、やってみよう。」
焼き台に乗せると、じきに油が垂れてきた。と同時に、油の焼ける良い匂い。
「ん~っ、ふふふ・・・いいじゃない。」
醤油を塗る。油が抜けたところに醤油を染みこませるイメージ。醤油の焼ける良い匂い。
「そうよ・・・ふふっ、この香りよねぇ。」
きっと日本人のDNAに刻み込まれている、あの匂い。
「お、とっと・・・うん。こんな感じかな?」
焼き過ぎるとパサつくので、程よいところで引き上げる。
「うん、上出来上出来っ。」
見るからにパリッと仕上がった表面と、何よりこの香り。食欲が別腹を連れてやって来る。
「では・・・むふ、いただきますっ。」
見た目通りのこの食感と、焼けた醤油と大豆の風味の見事なハーモニー。それと、折り曲げたことにより守られた内側のふっくら感。
「んん~っ。うん、なんだか・・・罪な一本ね。」
これはお酒にも合いそう。
「ふふっ。あとで棟梁にも出してあげよ。」
私のお昼ご飯なんて、いつもこんなもんです。
「ヨーコちゃん・・・困ったなぁ、こんなの出されちゃぁ・・・。」
「どう、かなぁ?」
「いやぁ、どうもこうも・・・も~、お酒が進んじゃうよぉ。」
「ふふっ、それなら良かった。」
気に入っていただけたようで何より。やはり日本人のDNAには・・・。
「ねぇ、七味も合いそうなんだけど・・・どう?」
「ん~・・・もう、困るなぁ。」
そう言いつつ、七味をひと振りしてからのひと口。
「ほらぁ~、止まんなくなっちゃうよ~。」
「ふふふっ。」
仕事終わりの棟梁の、至福の時間。二本目のお銚子が、下を向く。
「あぁ~。ヨーコちゃん、もう一本っ。」
「今日はこの辺にしておいたら?ねぇ。さっき『明日朝早いんだよぉ』って言ってたじゃない。」
「あ~、そうだったぁ・・・。」
図らずも、お銚子を持って万歳する格好になった。
「ぷふっ。も~、かわいい顔しちゃって。もっと時間のある時にゆっくりね。」
「んん・・・はぁ~い。」
うん、良い返事。
ちょっとした思い付きも、やってみると思いのほか上手くいくことがある。もちろんそうじゃない時の方が多いけど、やってみて分かることもあるから、必ずしも「失敗」という訳じゃないのよね。上手くいっても、上手くいかなくっても、人生は前進あるのみ・・・なんてね。
「あ・・・っ、ねぇ棟梁?それ、甘辛い感じにしたらどうかなぁ?」
「甘辛い感じ?」
「うん。お稲荷さんとか、みたらし団子みたいな感じに。」
「あ、あぁ~・・・も~、困るなぁ~。」
「んふふ・・・。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます