第56話 豆乳ソフトの考察

「こんちわ~、お届けもので~す。」

「はぁ~い・・・。」

 午後になり、荷物が届いた。

「え~・・・鈴木明音さんですねぇ。」

「え、明音さんちは・・・。」

「あ、はい。ですが、お届け先がこちらになってますので・・・。」

「あぁ・・・そうなの?」

「はい・・・。」

 明音さんが?ウチに?何かしら。

「あっ、じゃぁそこらに置いといてくれる?」

「はい、ではこちらに置いておきますねぇ。」

「はぁい、ご苦労様~。」

 何やら大きな箱がひとつ・・・。


「はぁ、ただいま戻りましたぁ。」

 明音さんが休日の前の日は、鈴木ちゃんと二人で『ハマ屋』で夕食。鈴木ちゃんはスタンバイ済み。

「ねぇ、明音さん。なんか届いてるわよ。」

「あぁ、届きましたか。なんかすいません、届け先をコチラにしてしまいまして・・・。」

「ううん、それはいいんだけど・・・なぁに、これ?」

「あぁ・・・えぇ。これはですねぇ、ソフトクリームを作るマシンです。」

「え・・・なに?買ったの?」

「いえいえ、レンタルです。知ってます?ヨーコさん。今は何でもレンタルできてしまうんですよ。」

「え、えぇ分かるけど・・・どうするの?」

「ふふっ、それは明日になればわかりますっ。」

 そんな笑顔でそれを言われたら、

「そ、そうなのね・・・。」

 としか言えなくなるじゃない。

「あ、じゃぁ・・・はいっ、今日も始めましょうかね。ふふ、今日は『スズキ推し』で行くわよぉ。」

「あら・・・じゃぁ、今日は共食いですね。」

「あらぁ、そうなっちゃうわね。」

「ふふふ、いっぱい頂いちゃいますっ。」

 むぅ、今のはちょっとエロかったわねぇ。

「ふふっ、じゃぁまずはお刺身からねぇ。ねぇ、これちょっと酢醤油で食べてみてくれる?」


 翌日。

「う~ん・・・そろそろいいかしら?」

 明音さんが『ハマ屋』で、豆乳を使ったソフトクリームを作っている。

「うんうん。ふふ、いい具合です。」

 見た感じでは、良い硬さに仕上がっているようだ。

「は~い、ひとつ目は豆乳にお砂糖だけ加えたのものですね~。」

 少量ずつ、3パターン用意してきた明音さん。

「おぉ・・・うん、見た目は立派にソフトクリームね。」

「はい。では、早速どうぞ。」

「え、えぇ・・・。」

 スプーンですくい口に入れると、なめらかな食感はソフトクリームそのもの。マシンの実力。

「うん・・・あらぁ、美味しいじゃない。食感もいいし、甘さもちょうどいいし。」

 この辺のセンスの良さは、さすが明音さん。

「うふっ、じゃぁ私も・・・。」

 口に入れ、目を閉じ・・・じっくり味わう。

「うん・・・うんうん・・・ん?」

 表情が曇る。

「ん~・・・もっと豆乳らしさが・・・香りがあっても良いんですがねぇ・・・。」

「そう?ちゃんと豆乳を感じるわよ?」

「えぇ、そうですけど・・・やっぱり、出来たての美味しい豆乳と比べちゃうと・・・ねぇ。」

 まぁ、それを言われると確かに・・・。

「うんっ。まぁ、次行ってみましょう。」

 気を取り直して次に取り掛かる明音さん。ふたつ目は砂糖の代わりに水飴を使ったもの。

「う~ん・・・。」

 ウイ~ンウイ~ン・・・と動くマシンを見ながら、うなる明音さん。どうにも香りの弱さが気になる様子。

「ふふっ、明音さんも結構凝り性ね。」

「えっ?そうでしょうか・・・?」

「えぇ。」

「そうでしょうか・・・?」

 視線はマシンから外さない。


 ふたつ目。

「うんっ。私こっちの方が好きっ。甘さが柔らかくて良いわねぇ。」

「えぇ、そうですけど・・・。」

 やっぱり香りの弱さが気になっている様子。

「う~ん。多少は、仕方ないんじゃない?なんでもそうだけど、冷ますと香りって弱くなるじゃない?」

「えぇ、そうですけど・・・でも、あの香りを知っちゃってると・・・う~ん・・・。」

 唸りながらも、三つ目の準備をする。

「う~ん、熱を加えたのが良くなかったのかしらねぇ・・・。」

「え、温めたの?」

「えぇ。お砂糖をちゃんと溶かすには、その方が良いかと・・・。」

「あぁ、それで香りが飛んじゃったのも、あるかも知れないわねぇ。」

「えぇ、そんな気がしてるんです。」

「うん・・・で、三つ目は?」

「えぇ、あの・・・バニラエッセンスを、少々・・・。」

「ん?」

「はい・・・もっと豆乳感が強く出るものと思ってましたので・・・。」


 で、三つ目。

「うん。これは、もうバニラソフトね。」

「はい。豆乳、どっか行っちゃいましたね・・・。」

 遠くの方に、かすかに感じる豆乳感。

「やっぱり温めたのが、良くなかったんでしょうね・・・。」

「うん・・・ねぇ、温めない訳にはいかなかったの?」

「えぇ。やはりお砂糖が溶け残ってしまうんじゃないかと・・・。」

「うん・・・ねぇ、じゃぁさぁ。その砂糖の食感を活かしてみるのはどう?」

「お砂糖の食感、ですか?」

「うん。そのシャリシャリとした食感をさぁ、あえて出してみるってのは?ほら、ザラメのおせんべいとかあるじゃない?」

「あぁ、なるほど~。確かに、あの食感を活かすのは面白いですねぇ。」

「ねぇ、そうじゃなくっても金平糖を乗っけたパフェなんかも・・・。」

 と、ココまで来て思い出した。

「ぷっ、はは・・・はははっ。」

「ヨーコさん・・・?」

「はぁ~あ、私ったらバカねぇ。」

「ん・・・?」

「ふ・・・ふふっ。ねぇ、明音さん。」

「はい?」

「豆乳って、出来たては熱々よね?」

「はい・・・あぁっ。」

 明音さんも気付いた模様。

「あ~っ、そうですよねぇ。温め直すから香りが飛んじゃうんで、冷めないうちにやれば・・・あぁ~。」

「ふふ、ねぇ。香りが飛ばずに済みそうよね。」

「はいっ。あぁ、早速明日やってみますっ。」

「明日?気が早いわねぇ。」

「はい。思い立ったが吉日ですっ。それに、このマシンも一週間で返さなきゃですし。」

「ふふっ、じゃぁ・・・早起きしなきゃね。」

「あ・・・ふふ、はいっ。」


 そんな訳で、今日も明音さんはウイ~ンと唸るマシンとしている。

「お願いだから・・・美味しくなってちょうだい・・・・。」

 まぁ、いいんだけどさぁ・・・いつからウチはテストキッチンになったの?

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