第54話 煙のような話
モクモクと『ハマ屋』の前に煙が上がっている。
「で?これでどのくらい置くの?」
「え・・・っと、一時間くらい・・・ですか、ね?」
「いや、鈴木ちゃん『ですかね?』って言われても私困るけど。」
「と・・・と、取り敢えずそのくらい置いてみましょう。」
「う、うん分かった。取り敢えず、ね。」
言い出しっぺは鈴木ちゃん。
「生でも焼いても揚げても美味しいんだから、燻製でもいけるはずです。」
それに乗っかったのは棟梁。
「おぉ、面白いねぇ。桜のチップは難しいけど、杉やヒノキなら用意出来るよ。」
結局、一斗缶を改造した簡易的な燻製器も棟梁が作った。
「え、いいけど・・・ねぇ、店の中じゃダメよぉ。やるんなら外でやってちょうだい。」
そんな訳で、モクモクと『ハマ屋』の前に煙が上がっている。
「結構、いい匂いがするもんねぇ。」
今回棟梁が用意したのはヒノキのチップ。店内までその香りが漂ってきている。
「えぇ、結構な『いい匂い』ですねぇ。」
見届け人(?)は先生。
「でもさぁ・・・スズキはいいとしても、アジは生の方が美味しいような気がするのよねぇ。」
実験台にされたのはスズキとアジ。
「いえ・・・アジは、フライが一番です。」
「ん?ははっ、先生はそうでしょうねっ。」
「はい。余計な香りは付けない方がいいと思うのです。」
今日は幾分熱量が高め。
「ふふっ、うん。そうですよね。」
それは私も同感。
「ねぇ、鈴木ちゃ~ん。棟梁が帰るまでに仕上がりそう?」
「え、えぇ。上手くいってくれる・・・と、思いますぅ。」
日頃のデスクワークを早く片付け、残りを明日に回してまでして鈴木ちゃんが「火の番」をしている。コチラの入れ込み度も熱量高め。
「『思います』って、もう・・・。まぁ、私としては美味しいものが出来てくれたら、それでいいんだけどねぇ。コレが上手くいったらここの名産品にしようとしてるのよ、鈴木ちゃん。」
「あぁ・・・やっぱりそういうことですかぁ。」
「ふふふ、えぇ。」
「そしたら、またヨーコさんの仕事が増えてしまいますね。」
「あ・・・それは、困るわねぇ。ねぇっ、ちょっとぉっ、鈴木ちゃんっ。」
ヒョコっと顔だけコチラに向ける鈴木ちゃん。
「はいぃ・・・なんでしょう?」
「それって・・・ねぇ、私が作ることになるの?」
「え?あ~いえ・・・あの、ちゃんと事業化する時には、人を雇うとかなんとかするつもりです。」
「え、人を雇うったってさぁ・・・。」
そんな予算どこにあるのよ。
「ん~・・・そもそも・・・本当に事業化できるの?」
「あ~それに関しては・・・えぇ。もちろんいきなりは出来ませんけど、一応・・・あの、あそこの『道の駅』で試験販売させてもらえるように話はつけてあるので・・・えぇ。」
「う~ん。それなら、良いんだけどさぁ。」
あとで聞いた話では、真輝ちゃんと明音さんの洋菓子も物が出来次第置いてもらえるように話してあるのだそうだ。しっかりと仕事もしている鈴木ちゃん。
「あ・・・でも、その試験販売用のは・・・結局私が作るのよねぇ?」
「あ、えぇ・・・みなさんにお手伝いいただくことになるかと・・・。」
む、上手く言い換えたわね。
「ふ~ん・・・ってことは、先生もお手伝いするのよ?」
「えっ?僕もですか?」
「えぇ。せめてキャッチコピーくらいは考えてもらわないと、ねぇ。」
「え・・・いやあの・・・僕は『味見役』ということで・・・。」
「ん?それは棟梁がやるもの。」
「ん~・・・こ、困りましたねぇ・・・。」
「ふ~ん、先生は手を貸してあげないんだぁ・・・。」
「んっ・・・。」
「先生って、意外と冷たい人だったんだぁ・・・。」
「あっ・・・も、もうっ。分かりましたよ、その時には何か考えますよぉ。」
「ふふふっ、そうでなくっちゃ。ねぇ、鈴木ちゃ~ん。先生がキャッチコピー考えてくれるってよ~。」
「あぁっ、ホントですか?それは助かります~。先生、ありがとうございます。」
「あぁ、いえいえ・・・。」
「ふふふふ・・・。」
「ヨーコさん?これは高くつきますよ?」
「ん?ふふ、イイじゃないイイじゃない、減るもんじゃないんだしさ。それに、ほら。これが評判になればさ、先生の株もグッと上がるってもんじゃないの?」
「ん~、そうでしょうか・・・?」
「うん。『評判になれば』ね。」
「んん~・・・。」
今回のように「鈴木ちゃん発」の構想が、私の所へ度々やって来る。ただ、実際に事業化される「打率」を考えると・・・なんだか「煙のような話」にならなきゃいいけど。
「どう?棟梁?」
「ん~・・・あれだ・・・うん、駄目だな。ただの煙臭い刺身だこりゃ。」
「ふ~ん・・・だってよ、鈴木ちゃん。」
「ひ~ん・・・。」
改善の余地あり。
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