第43話 しおまねき

「え、『しおまねき』?・・・ふふっ、うん。可愛らしくて、いい名前じゃない。」

 真輝ちゃんと明音さんが計画中の洋菓子店。お店の名前を『しおまねき』にするつもりなのだそうだ。

「よかったぁ。ヨーコさんにそう言ってもらえると・・・ぅふっ、とても心強いです。」

「えぇ、これで安心して準備に専念できます。」

「棟梁さんにも看板をお願いできますしね。」

 明音さんは棟梁のことを「さん付け」で呼んでいる。私も、もう少し棟梁のことをリスペクトしなきゃいけないかなぁ。

「で、なんで『しおまねき』にしたの?」

「最初はね、明音さんが『ねまきにしません?』って言いだして・・・。」

「え?『ねまき』って、パジャマの『寝間着』?」

「えぇ、それもありますけど・・・一応『明音』と『真輝』で『ねまき』って・・・可愛くていいかなぁと思ったんですけど、真輝ちゃんが・・・。」

「確かに可愛いですけどぉ・・・なんか新手のメイドカフェかなんかだと思われないかなぁって・・・ほら、パジャマで接客しなきゃいけなくなるんじゃ・・・とか思って、ねぇ。」

 こんな可愛い女性二人が、パジャマで接客する・・・。

「ふ~ん、それはそれで見てみたかったけどなぁ。」

「え~っ、イヤですよそんな~。パジャマですよぉ?」

「ふふっ、私もちょっと見てみたかったです。」

 明音さんが時折見せる、この意地悪そうな表情。とは違う可愛らしさがある。

「も~っ。もしそうなったら、明音さんにもその格好してもらうんですからねぇ。」

「それはそれで・・・ふふ、楽しみです。」

「もぉ~、明音さぁん・・・。」

 困ったような、呆れたような。そんな真輝ちゃんも笑顔。

「はははっ。で、そこからどうやって『しおまねき』になったの?」

「あ、えぇ。真輝ちゃんに『ねまきはダメ』って言われちゃったので、いろいろ言葉を入れ替えてるうちに・・・あ、『キネマ』もいいかなぁって思ったんですけど『まねき』の方が可愛いし、お客さんを招いてくれそうで・・・招き猫みたいにね。それで『まねき』を軸に探して探して・・・で、『シオマネキ』に出会ったんです。」

「あの、ちっちゃいカニの?」

「えぇ、あの片方だけ大きな爪でこうやってこうやって潮を招いてる、あのちっちゃいカニさんです。海辺の匂いもするし、ちゃんと『明音』と『真輝』もいるので『コレはピッタリじゃないか』って。」

「えぇ。私もそれを聞いて『すごくイイっ』って思って、もう即『決定!』って。ね。」

 顔を見合わせてほほ笑む姿は、さながら姉妹。

「ふふっ、二人が気に入っているなら、それが一番ね。ずっと付き合う名前ですもの、ね。」

「えぇ。」


 そんな話をしながら私は何をしているかと言えば・・・。

「はぁ~い、出来ましたよ~。名付けて『おからあげ』。」

 新メニューの試作。もしくは思索。丸めたおからに唐揚げ粉を付けて揚げただけのシンプルなもの。お店に出す前に二人の意見を聞いてみたかった。

「おぉ、これですねぇ~。」

「うん。そのままでも美味しいは美味しいんだけど、お酒のアテにはちょっと物足りない気がしてねぇ。」

 カラシや七味、マヨネーズなどを添えて出す。

「はふ・・・ぅん・・・うん。あらぁ、おからって揚げても美味しいんですねぇ。」

 まずは何もつけずに食べた二人。

「う・・・ぅん。あぁ、確かに・・・お酒のアテには、ちょっと足んないですねぇ。」

 明音さんも真輝ちゃんも、概ね私と同意見。

「ねぇ、いろいろ付けてみて。」

「はい。」

「あ、なにか出そうか?」

「あぁ、では冷酒をお願いします。」

 意外との明音さん。

「あ、私も同じものを・・・。」

 もちろん真輝ちゃんも。

「はいよ。」


 この試作の『おからあげ』に、いろいろ付けて食べ比べるうち行き着いたのは・・・。

「う~ん・・・、やっぱりマヨネーズと紅しょうがの組み合わせかしらねぇ・・・。」

「えぇ、お酒との相性も良いです。」

「うん。それに、ちゃんと『ヨーコさんの味』がしてるし・・・。」

「ん?『私の味』?」

「えぇ。ね、明音さん。」

「はい。安定の『ホッとできる味』です。」

「ん・・・ん~、まぁ・・・それならいいけど。」

 私の味・・・ねぇ。

「うんっ。じゃぁ、次回は紅しょうがまぜて揚げてみようかなっ。」

「ふふ。では、その時にはまた声かけてくださいね。」

「えぇ、期待して待ってます。」

「うん、わかった。・・・あ、もう一杯いく?」

「あ、はい、お願いします。」

「あぁ、私も。」

「ふふふ、はいよ~。」

 こんな可愛い子達に慕ってもらえて、私は本当に幸せもんだ。これからも、よろしくね。

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