第7話 海が荒れた日は
海が荒れると漁師は休み。
漁師が休みだと港も休み。
だから今日は『ハマ屋』も休み。
・・・とは行かない。
「あの~、まだ準備中なんですけど~?」
朝から「ほぼ全員集合」している。
「しょうがねぇだろぉヨーコぉ、この天気じゃ海にゃ出らんねぇんだから。」
「こら源、『ヨーコさん』だろ。」
今日は船長も一緒。
「そりゃぁねぇ源ちゃん、漁師のみんなは分かるよ。でも、棟梁は・・・?」
いつもの席で『熱いの』を待っている。
「今日は雨が降るっていうから、昨日のうちに片づけといたんだ。」
「へぇ~、呑気な商売だねぇ。」
ほどほどに構いながらも仕込みの手は休めない。
「こんな時くらいどこかに出かけるとかしないの?」
「出かけるったってどこへ行くのさ。」
「あらっ源ちゃん、デートの相手くらいいるんでしょ?」
「あっひでぇ!いないの知ってて訊いてるだろ。」
そう、いないのを知ってて訊いている。
すこしイジメてやりたい気分なのだ。
「・・・そ、それになぁ、こんな平日の昼間っからデートできる人がいると思うかぁ?」
「あら、休日ならいるの?」
「だ、だからいねぇ~って。」
棟梁に熱燗を出しながら、
「漁師町で漁師とくれば若い娘達にキャーキャー言われるもんなんじゃないの?」
「そ、そりゃぁ船長が若いころならそうだろうけど、今ココに『若い娘』がいるかぁ?」
「ん?いないことは無いんじゃない?」
「た、例えば?」
「美冴ちゃんなんてどう?」
「み、美冴は妹っ!ヨーコだって知ってるだろぉ。」
「源、『ヨーコさん』だろ。」
船長はこの辺のことに厳しい。
「ねぇ~そんなに暇なら、アレやってみたら?」
壁に貼られたポスターを指さす。
『雫港 川柳コンテスト』
漁協の鈴木ちゃん渾身の企画で、これをきっかけに「雫港の魅力を全国に発信するぞぉ!」と息巻いている。
「あ~!それなら、ひとつ考えたのがあるんだ。」
「えっホント?源ちゃんが『考える』なんて珍しい!」
「ぉっ、俺だってたまには頭を使うんだぞっ。」
「『たまには』な。」
船長から強めのひとこと。
「もっと頻繁に使ってくれると助かるんだがなぁ。」
「も~船長ぉ、俺だって無い頭を必死にひねって頑張ってるんすよぉ。」
源ちゃんの困り顔も見ていたいけど、
「で?源ちゃん、どんなのが出来たの?」
助け舟を出してみる。
「ぉ、おぉ!聞いてくれるかい?」
と、なぜか立ち上がり・・・
仕事終え
雫港に
日が沈む
一瞬「おっ!」と思ったのだが、
「ねぇ源ちゃん、日が沈むの山の向こうよ。」
東向きの雫港に『日が沈む』ことは無い。
「そうだぞ源、お前は漁師のくせに西も東も分からんのか?」
「え・・・ぁ・・・むぅ・・・ん、すいません・・・。」
だんだん泣きそうな顔になってきたので、
「ね、ねぇ棟梁はなにかないの?」
「あっ俺?俺はほら大工だからさぁ、数字にはちっとは強いけど、文才の方はからっきしでさぁ。」
「あらぁ、意外ねぇ。」
「え、そうかい?」
「えぇだって『趣味は俳句』って顔してるもの。」
「・・・ん?そんな顔してるかい?」
顔をアチコチ触ってみている。
「船長はなにか無いの?」
「うむ、何か考えてみるか・・・」
・・・
どうやら長考に入ったようなので、仕込みに専念する。
しばらくほっといても怒ったりしないのが、常連さんの良いところ。
というか、まだ開店前。
小一時間経ったころ、
「ふむ。」
動いた。
「あら船長、何か浮かんだ?」
みんなの視線が集まったところで・・・
へいお待ち
旬のハマチ
ハウマッチ
・・・
・・・
ガラガラっと戸が開き、
「まいど~!」
豆腐屋のタケさんだ。
「あぁっタケさん、助かったぁ。」
「ん?助かった?」
「ぁっ、ううん、こっちの話。」
心の声が漏れてしまった。
「はいこれ、いつもの絹ごしと、がんもにお揚げさんね~。」
「いつもありがとね。あ、ねぇタケさん、明日は厚揚げもお願いできる?」
「あいよ、いくついる?」
「えぇ~・・・」
店内を見渡し、頭数を数え・・・
「6つあればいいかしら。」
「厚揚げ6つね、あいよ、じゃまた明日ぁ。」
いつものように爽やかに去っていった。
ほどなくして、先生が入ってきた。
(つづく)
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