第4話 先生の新作(今度こそ。)

姿勢を正して読む態勢に入る源ちゃん。

一度入口の方を確認する仕草を見せ・・・

「え~、改めまして・・・」


 夕暮れ散歩


 日課の散歩が

 心と頭をほぐしてくれる


 空を見上げれば

 空が語りかける

 「限界は無い。

 意識という境界線を越えれば、

 その先には無限の世界が広がっている。」


 空に浮かぶ雲達は言う

 「浮いた存在ってのも、

 案外悪くないぞ。」


 小鳥が2羽横切った

 「時には視点を変えてごらん。」

 「上から下から前から横から~ってね。」


 電信柱がこっちを見ている

 「置かれた場所で踏ん張るのが、

 男ってやつじゃないのかい?」


 川を渡る


 橋は言う

 「踏ん張れ。

 踏ん張ってないと、流されるぞ。」


 川は言った

 「重力には、逆らえん。」


 木々が風にゆれている


 風が語りかける

 「旨い、旨すぎる。」


 柿が実をつけている

 「旬の時期は、人それぞれ。

 実りの前に、腐るんじゃないよ。」


 真っ赤な自動販売機は威勢よく

 「24時間っ! 年中無休っ!

 いつでもあなたをお待ちしておりますっ!」


 マンホールが見上げてくる

 「上だ、上を見るんだ。

 踏みつけられても、上だけを見るんだ。」


 最後の角を曲がる


 夕日に照らされた野良猫が

 誇らしげに言った


 「にゃぁ~」



「『にゃぁ~』っ!?」

と素っ頓狂な声を上げたのは、

美冴ちゃんだ。


「何っ?お兄ちゃん、に・・・『にゃぁ~』って・・・」

「何って・・・ほらここ、」

原稿を確認した美冴ちゃんが、今度は先生に

「何?先生『にゃぁ~』ってぇ・・・」

「ははっ、一気に現実に引き戻される感じがいいでしょ?」

「ぇ、ぅにゃ・・・いいですけど、それまでいろんなのに格言めいたこと言わせておいて、最後にいきなり『にゃぁ~』って・・・」

満足げな先生。

「そうですよぉ、先生。いきなり『にゃぁ~』ときたら美冴ちゃんじゃなくてもビックリしますよぉ。」

「そ、そうよねぇ、ヨーコさん。」

「それに途中で饅頭屋さんのCM挟まってたし・・・」


・・・

あれ?・・・伝わらない?


と、大輔が

「ぁ・・・僕は、あの柿のところ、好きです・・・。」

「まぁ、どうもありがとう。」

ますます上機嫌な先生が、

「それにしても、やっぱり兄妹なんだねぇ、リアクションが全く一緒だったよ。」

「えぇっ!?うそぉっ!ぃやだぁ!ほんとぉ?お兄ちゃんと一緒!?」

「うん、全く同じだった。」

「いやぁ!絶対いやっ!」

「おぉ~ぃ美冴ぇそんなに嫌がるなよぉ、二人っきりの兄妹だろぉ。」

「ぃやぁ~、お兄ちゃんと同じレベルなんて絶対いやぁ。」


こうして、賑やかに明るく、それでいて穏やかに雫港の日々は流れていく。


半月ほどして大輔さんからハガキが届いた。

お父さんが亡くなったそうだ。

ここでの話をすると

「そうかぃ、二代目が出来ていたかい・・・。」

と、嬉しそうにしていたそうだ。


 追伸

 今度妻を連れて伺います。


はぁ、私の春は遠い。

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