第3話 先生の新作・・・(序)

「ところで先生、新作ってどんな感じなの?」

「えぇ、それならもう源ちゃんが読んでくれたよ。」

「そう、それでさぁ、最後の・・・」

「あっ、ねぇせっかくだから源ちゃん読んでよ。」

「ぃや、だから俺はもう読んだって・・・」

「『読み上げる』の。」

源ちゃんの『キョトン顔』は、なかなか愛らしい。

「えっ、俺が?・・・みんなの前で?」

「そう。」

「それは良いですね~。」

先生がひと押し。

「僕も・・・聞いて、みたいです・・・。」

大輔が遠慮がちに口を挟んだ。

大輔なりに『父の思い出の場』に馴染もうとしているのだろう。

「ほらぁ、大輔さんも聞きたいって。」

「と、棟梁は?」

「おぅっ、やっとくれぇ」

と熱燗に手を伸ばす。

最後の逃げ場に逃げられてしまった。

「も、もう・・・しゃ~ないなぁ。」

と、なぜか立ち上がり

「ゴホンっ」

とワザとらしく咳ばらい。

「では、読ませていただき・・・」

ガラガラっ!っと勢い良く戸が開き、

「あ~お兄ちゃんやっぱりここにいたぁ。」

源ちゃんの妹の美冴ちゃんだ。


美冴ちゃんには、忙しい時に手伝ってもらっている。

とは言っても「ハマ屋が忙しい時」なんて無いので、ほぼ「源ちゃんのお目付け役」である。


いつもと少し違う雰囲気に、

「何、お兄ちゃん・・・立たされてるの?」

「そ、そ~宿題忘れちゃってさぁ~、今ヨーコに怒られてたとこ・・・って違うわい!」

「はははっ、美冴ちゃん違うのよぉ、先生の新作をね・・・」

この二人のやり取りは、いつ見ても面白い。

「そ~、こうやって朗読するという大役を仰せつかってだなあ~」

「え~っ?お兄ちゃんが?」

「そ~ゆ~ことっ。」

と偉そうに胸を張る源ちゃんに、

「大丈夫?漢字読める?」

「よ・・・よ、読めるわいっ!」

やはり美冴ちゃんが一枚上手。

「それじゃぁ・・・」

と源ちゃんの目の前に座り、

「お手並み拝見と行こうかなっ。」

「むぉお、猛烈にやりにくい・・・。」

「さぁ、源ちゃん。」

少し急かしてみる。

「ぉっ・・・で、では改めまして。」

姿勢を正して読みだした。


(つづく)

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