階段をゆっくりと上がってくる音が聞こえてくる。

 ようやく彼女も準備が整ったようだ。

「落ち着くかと思って、コーヒーをお持ちしました」

 お盆にコーヒーカップを一つだけ載せて部屋に入ってくる。

「先ほどは、怒鳴ってしまってすみませんでした」

「いいえ。真実さんのおっしゃる通りです。もっと早くに言うべきでした。すみません」

「……コーヒーいただきます」

 カップの持ち手をしっかりと握り、ゆっくりと口元に持っていく。

 カップの縁に唇をつけたところで幽霊に耳打ちされた。

 それを聞いた僕は、飲んだふりをしてカップを机に戻す。

「あ、れ……」

 視界がぼやける。そう思った途端に体の自由が効かなくなった。

 急に眠気が襲ってきて、まぶたが重い。

 頭が左に右に揺れ、最後には、あかねが眠っている布団に崩れ落ちる。

 

 起きないと……。


 そう思っても体は言うことを聞いてくれない。

 そのうち抗いようのないほどの睡魔が襲ってくる。

 それから自然とまぶたが落ちていく。そして完全に閉じてしまった。

 暗闇の中で僕は、絶対に聞き逃すまいと耳を澄ます。








「自分から来るなんてバカな人……。また、あかねを助けてもらうわよ」









 それが聞けて良かった。

 少なくとも、あかねを助ける方法があると分かれば十分だ。









「【魔女】」










 目を開けた僕は、あかねの母親、お手伝いさんのレッテルをハッキリと告げる。

「え?」

 彼女はひどく困惑している。

 まさか僕が起きるとは、少しも思っていなかったのだろう。

「どうしてあなたがそう呼ばれているのか、ようやく分かりましたよ」

「え、真実さん、なぜ。どうして、あの、どうなさったんですか」

「ここからが本番だ。気を抜くなよ、真実」

 幽霊の言葉に、僕はしっかりと頷いてみせた。


 さあ、【魔女】退治を始めよう――。

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