そろそろ男の正体をしっかり調べないといけない。

 そう思っていた矢先のことだった。

「まさか能力のことがバレるとは、思いもしませんでしたよ」

 ふて腐れたようにつぶやいて自分の席に座った。それからため息も一つ。

 男は、教壇に立ったまま笑う。

「俺は最初に会った時、こいつはもしかしたらって思ってたぜ。そして二度目に言葉を交わした時、確信に変わった。こいつは俺が見えている……ってな」

 最初に会った時にすでに気づかれていたのか。

 しかし、最初に会った時なんてぶつかりそうになったくらいのことしかない。

 その後も【不良】らしき女の子がいるなぁと眺めていた程度だ。委員会の会合があった時もぶつかりそうになったところを避けて、少し言葉を交わしてだけ。まさか図書室から出たふりをして、僕の独り言を聞いていたのか。

 そもそもこの能力は、使っている時と使っていない時で僕の見た目に変化はない。目を開けていれば、常に能力を使っているようなものだから。能力を使うと目が真っ赤になるわけでも、髪の毛が逆立つわけでもない。だとすると、やはり声に出していたのがいけなかったかもしれない。

「三回目の今日は、僕がどのクラスにいるのか探していたってところですか」

「ああ、その通りだ。それで、俺の頼みを聞いてくれるか?」

「いいですよ。そのかわり、僕の能力のことは他言無用でお願いしますよ」

「ああ。といっても、俺がいくら言葉を発しても誰も気づいちゃくれないがな」

 何だろう。彼の話と僕の話がかみ合っていない気がする。

「しっかし、見える奴なんてすぐに見つかると思ったけど、意外といないんだな。テレビじゃその手の番組がバンバン放送されているのに。ようやく協力者が見つかってよかったぜ」

を持つ人間なんて、そういないと思いますけどね」

「は?」

「え?」


 どういうことだ。何か間違ったことを言っただろうか。

 疑問符が頭の上に二つ三つと浮かぶ。

 その間に謎の男がゆっくりとこちらに近づいてくる。

 しかし、その動きはおかしいとすぐに感じた。

 本来なら教壇から降りて歩いてくるところ、彼は真っ直ぐ教卓に向かってくる。

 けれど男の体はぶつかることなく、教卓をすり抜けた。

 生徒の机も椅子もすり抜けて、ふわふわとこちらに飛んできたのだ。

 床に足はついておらず、常に体が浮いている。

 まるで夢や幻を見ているような気分だ。











「我輩は幽霊である。名前はまだない。というか、覚えていない」


 何がおかしいのか、謎の男はニヤリと笑ってみせた。


「笑えない……」


 そこで僕は、ようやく自分の勘違いに気がついた。

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