第31話 日記
さて、これからどうしよう?
屋敷内をうろつくにしても、
どこに目が光っているのかわからないし。
かといって、この部屋も監視されているとは言い難い。
言動には慎んでおこう。
だけど犯人に目星がついたとしても、
次のターゲットが予想できない。
ぼくかもしれないし、ぼくじゃないかもしれない。
どうやって太刀打ちすべきか?
護身用として武器は必要だ。
丸腰では話にならない。
そんなぼくは対犯人戦に備えて、
地下の武器倉庫に行くことにした。
地下の暗い階段を下りた。
ここはいつ来ても幽霊が出そうで薄着身悪い。
ましては初の単独行動。
武器があった部屋は一番奥。
ぼくがドアを引くと、
ギギギィっと鈍い悲鳴をあげた。
スイッチを押すと、
天井の蛍光灯が目を覚ます。
念のため部屋中を確認するが誰もいない。
ん? 気のせいだろうか、
棚に空白が見受けられる。
そこになにがあったのかは詳しく覚えてない。
ピストルだろうか、サバイバルナイフだろうか。
あれ、そういえば1メートル弱はありそうなライフルもない。
物騒だと感じて誰かが持っていったのだろうか。
そういえば他に小型爆弾があったような。
注意深く探してみるが箱ごと消えていた。
やはり橋を崩壊させるのに使ったと思われる。
残っているのは手のひらサイズのピストル2丁と、
サバイバルナイフ1本。
ピストルは使いこなせる自信がないので、
サバイバルナイフを選択。
個人的には防弾チョッキが欲しかった。
もし各自、武器を持参しているならば、
それなりにこちらも警戒しなくてはならない。
ぼくみたく護身用として持っているのなら構わないが。
でもなぜこんな武器倉庫を設けたのかがわからない。
単純に考えれば、
主のコレクションなのが1番しっくりくる。
だけど今の状況を思うと、
殺し合いの道具になりかねない、引き金1つで。
もしかしたら犯人の狙いの矛先は、
そちらに目を
なぜだか知らないが、
ひとりでいる時間が増えてしまって、
考えることが多くなってしまった。
他に何か必要なものは、情報くらいか。
すると書斎の引き出しに封印しておいた、
読みかけの日記を思い出した。
階段を上り長い廊下を渡ると中央間に到着。
右手に曲がり書斎に入る。
ずっしりと構えている本棚には、数冊ほどのスペースがあった。
もちろん、のろしのために拝借したのだ。
机の引き出しを開けると、
日記は無事に眠っている。
無心に数十ページほどめくっていくと、
ぼくの手がピタリと止まった。
それは新たな来客のことが書き綴ってあったからだ。
『7月30日、明日から一人娘のきりが私の研究の手伝いに訪れる。
夏休みと休暇を兼ねて取得し、
長期滞在するらしい。
きりには何度もこの記憶喪失の薬に携わってもらっている。
娘には犯罪による被害者のトラウマ体験を消すため
と依頼を受けていると言っているが、
実は私個人的な依頼なのだ。
あれは昨年の暮れ、中学の同窓会が行われた。
40年ぶりに再会した友人と昔話に花を咲かせたものだ。
お開きになり友人とプライベートで居酒屋で二次会をすることになった。
話は現在のことに変わっていた。
なんと彼は宝くじで10億円当選したらしい。
だが、その言葉とは裏腹に、
彼の顔はしわだらけで苦労を重ねていた。
日本では高額当選者の個人情報は守られているが、
彼の急な羽振りの良さにまわり友人や知人が嗅ぎつけてきたらしく、
ハイエナのように群がっていたらしい。
そして金が底に着くと薄情なことに皆去って行く。
どこかで聞いたような話だ。
そう、小学生くらいに国語で習った
そんな彼が私に相談してきた内容は、
記憶を消す薬を開発してほしいということ。
人間不信に陥った彼はエピソード記憶だけを消して、
地味に1から田舎でひっそりと暮らしたいらしい。
人間不信に陥っているのに、
なぜ私を信じて相談してきたのだろう。
このことを口にするのは止めておこう。
記憶力をアップさせる薬ならともかく消す薬なんて。
時間がかかるかもしれないが、と付け加えて私は了承した。
人間誰しも生きている限り、
ひとつやふたつ心の傷を持っている。
その傷を和らげられるとしたら、
どんなに嬉しいことか。
少々長くなってしまった。
完成した
そして、きりにすべてを打ち明けるとしよう』
……こんな目的で記憶喪失の薬が開発されていたなんて驚きだ。
真相を聞いたからって、
記憶が回復するってことではないんだが。
それよりも気になっていたんだが、一人娘のきり。
ぼくたちに薬を打った人物かもしれない。
要するに書斎の男性、
つまりこの屋敷の主が死んでしまった今、
薬を知っている人物はきりだけだ。
深掘りすると全員が記憶喪失ではなくなる。
あねごさん、ヒメ、白ちゃんの3人に絞られるはずだ。
いや待てよ、
大げさかもしれないが、
性転換をすればハカセさんと熊さんも一人娘に当てはまる。
ぼくは……記憶がないので例外だろう。
なにせ、自分自身に記憶喪失の薬を打つやつなんていないのだから。
他に当てはまるとしたら、
犯人のダミーでバラバラにされた死体の可能性もある。
こう考えるといくらでも憶測が湧いてくるから困ってしまう。
いずれにしろ、犯人を捕まえて吐かせるのが手っ取り早い。
ぼくは更にページをめくる。
1ページごとに流し読みながらめくっていくと、
手がかりになりそうな文章にたどり着いた。
『8月20日。
明日、きりの友人がこの屋敷に泊まりがけで遊びに来るらしい。
基本、この場所は関係者以外立ち入り禁止区域なのだが、
缶詰続きのきりにとっては、
気分転換になるのでその点に許すことにしている。
まさか男じゃないだろうな?
と、尋ねてみたが返事が返ってこない。
妻を亡くして手塩にかけた玉のような一人娘。
きりが認めた相手なら、私は喜んで迎えよう。
そういえば遂に記憶喪失の薬が完成した。
いくら頼みとはいえ、
悪影響を及ぼす薬は作りたくなかったので複雑な心境だ。
効果も一時的なのか半永久的なのかわからない。
まだマウスに注入して脳波は試していないが。
臨床試験をどうするべきか悩んでいたところだが、
明日解決しそうだ』
……おい、このおっさん怖ええよ。
ってことは、おっさんの死を利用して、
きりが忠告文を作成し、この机に置いた。
あたかもぼくたちの他に、誰かがいることを示すように。
その後はどうなったんだ?
ゆっくりとページをめくると白紙になっていた。
日記が途切れているってことは、
この後に何か大事件が起きておっさんが死んだことになる。
一体この屋敷で何が。
ぐぅー。
その時、不謹慎にもあらずぼくに胃袋が叫んだ。
こんな状況でも腹は減るんだな。
そういえばあねごさんに叩き起こされてから、
水と薬しか口に放り投げていなかった。
そんなぼくは、満腹を求めてキッチンへ足を運んだ。
もちろん誰もいなく、冷蔵庫のブォーンと
なにか食べ物は?
徐に手を伸ばしたのは冷蔵庫の中段の取っ手。
すると頭の中で数時間前の出来事が蘇り、凍り付いてしまった。
そう、生首がことんと落ちてきたところだ。
さすがにないと確信しているが、
トラウマに支配されてしまい、
開けることを諦めた。
戸棚に缶詰が残っているはずだ。
戸棚へ向かおうとすると、キッチンの扉が開いた。
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