第30話 太朗推理

 ハカセさんの提案で、

 ぼくはキッチンへグラスに水を注いで、

 リビングのテーブルに放置していた鎮痛剤を口に入れた。


「全然効果がないですね」


「すぐには効かないよ。

 その薬、白さんにも持っていってあげたほうが良さそうだね」


「あ……はい」


 ぼくたちはリビングを出て、

 キッチンで再びグラスに水を注いで、

 中央間に向かい階段を上る。

 カッカッっとぼくたちの足音だけが叫ぶだけで、

 不気味なくらい静まりかえっていた。


「じゃあ僕の部屋はこっちだから。

 ゆっくり休もう。

 それと毛布運んでくれてありがとう」 


 ハカセさんは優しく手を振ると、

 左へ曲がり、

 あねごさんの部屋を通過して自室に入る。

 ぼくは右へ曲がり、

 奥の白ちゃんの部屋のドアをノックする。


「白ちゃーん」


 一応叫んでみる。

 ぼくの声色はわかっていると思うんだが。

 もし反応がなかったら眠っているはずだ。

 ……そう考えたい。


 キィーっとドアが開くと白ちゃんが小首を傾げる。


「あ、これ薬と水。

 ほらさっき飲むの忘れていた鎮痛剤だから」


 すると白ちゃんは身体を少し傾ける。

 どうやら部屋に入ってって意味らしい。


「ううん、ゆっくり休んで。

 ぼくも一眠りするから。

 何かあったら隣の部屋にいるから、叩き起こして構わないよ」


 横に手を振りながら白ちゃんの部屋を離れて自室へ戻る。

 ドアを開けてすぐさまベッドへ身を委ねるた。

 コロンと仰向けになり、

 床板がぎっしりと詰まった天井と対峙たいじする。

 室内はカーテンを閉め切っており、

 埃っぽい臭いがふわふわと舞っている。


 これからどうするんだろう?


 橋が壊れてしまい、ぼくたちは袋小路に。

 通信手段もなく、

 外部から助けが来るのを待つしかなかった。

 けれど、このまま指をくわえていても仕方ない。

 食糧的な問題もあるが、3人も死んでいる。

 どれも他殺の可能性が濃密だ。

 熊さんの殺害に至っては、

 みんなアリバイがなかった。

 つまり誰でも犯行が可能。

 ヒメに至っては全員犯行が不可能。

 およそ8時間で殺害してバラバラにして隠す。

 おまけに橋を爆弾で壊すなど時間的に無理らしい。

 やはり第3者の8人目の仕業のような気がするんだが、

 あねごさんは完全否定する。

 熊さんを殺害した人物と、

 ヒメを殺害した人物が一緒とは思えない。


 ……一緒? 

 同一人物なのだろうか? 

 誰も一緒なんて言ってない。

 仮に何らかの理由で熊さんを殺した犯人をヒメだとしよう。

 そしてその犯行を誰かに見られて、

 口論になりヒメは殺されバラバラにされた。


 ……だめだ、ぼくたち4人の中では犯行は無理だ。

 殺しただけだったら時間的実行可能なんだが、

 バラバラにするとなると。


 そもそもなんでヒメの遺体をバラバラにしたんだ? 

 恨み? 

 運びやすさ? 

 身元を不明にすること? 

 どれも動機に一致する。

 バラバラ殺人の動機、

 恨みなら例えバラバラにしなくても、隠す必要がない。

 運びやすさにしても、谷底に放り投げて隠したほうが早いはず。

 ってことは、身元不明にすることなのだろうか。


 その時、ぼくの脳天から稲妻が走った。


 そうか! 犯人はあらかじめバラバラの遺体を用意していた。

 そして熊さんを殺害した次の日に、

 身体の部位をランダムにまき散らす。

 そして頭は瓜二つにメイクして冷蔵庫へ。

 自分はかさず身を隠す。

 こちらは動揺して細部まで見破れないはずだ。

 こんなことが実現できる人物はひとりしかいない。


 8人目はあいつだったんだ。

 だが、決定的な動機がわからない。

 これまでの経歴を考えてみるとした。

 書斎の机にあった人体実験の書き置き。

 それと車内のラジオの後で耳にしたハカセさんの発言。

 確か、


『ここにいる全員が犯罪者かもしれない』


 つまりぼくたちは、記憶を失う前に、

 犯人に何らかの危害を加えたのかもしれない。

 それも殺人に値する何かを。


 もう1つ考えられることは、

 儲け話があるとかで、

 屋敷に集められて薬を打たれる。

 そして恐怖を与えるようにひとりずつ消していくパターン。

 これは動機に当てはまらないか? 

 どちらにせよ一晩でひとりずつ消していくに違いない。

 早くこのことをみんなに知らせないと。


 飛び起きたぼくは「待てよ」と踏み止まった。

 疑いたくはないが、

 共犯者が存在するかもしれない。

 仮に密告みっこくされたら真っ先にぼくが狙われる。

 もし共犯者がいなくても、

 この屋敷は犯人のテリトリーだ。

 あらゆるところに、

 盗聴器や監視カメラが仕込んであってもおかしくはない。

 要するに、ここは知らないフリをしておこう。

 そして今晩、犯人が動くのを待つんだ。

 捕獲して洗いざらい吐いてもらおう。

 真相を知るのは怖いけれど、

 ぼくが生きる道は他になかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る