第27話 浴室へ

 ぼくと白ちゃんは屋敷に戻る。

 足取りは鉄球が結んでいるくらい重い。


「まずは地下室に行ってみようか?」


 白ちゃんは頷きもしなかった。

 無言で平行に並びながら、左に曲がり地下室方面へ。

 白ちゃんとは会話もしていなかったが、

 以前とは空気が違かった。

 地下室への冷たい階段を下り、

 倉庫、実験室、武器倉庫と順に調べる。

 異常はなかった。


「戻ろうか」


 だが頷いてはくれなかった。

 つらいのはわかるが、反応してくれないと、

 こっちもつらい。

 階段を上る。

 トイレと浴室がある。


「ぼくはトイレ見てくるから白ちゃんは浴室ね。

 何かあったら互いに知らせよう」


 本来ならこの状況で別行動は御法度なのだが、

 近場なので安心できるだろうと思っただけだった。

 深い意味はなかった。

 ついでに用を足して精神を落ち着かせようとしていた。

 白ちゃんが浴室のドアを開けるのを確認するつつ、

 ぼくもトイレに入る。


 洋式の水洗トイレ。

 バラの芳香剤が鼻に刺さるくらいで、

 特に異常はなかった。

 ズボンとパンツを下ろして一点集中。

 正直、こんな余裕はなかったが、

 どこかで気を抜かないと、

 頭がオーバーヒートしそうで嫌だった。


 ぼくたちが発見したのは、膝から下の両足。

 ハカセさんたちが見つけたのは右腕。

 確かに女の子の部位を保っていたが、

 まだヒメだとは判断できない。

 8人目の可能性もある。

 さっきまで、

 ヒメがいない=両足発見でヒメ、

 と結びつけてきたが、

 そうとは限らない。

 まだ顔を見るまでは。


 小便を放出。

 今日は自棄に黄色い。

 まるで栄養ドリンクを飲んだ後のようだ。

 パンツとズボンを装着。

 普段着のまま寝床に着いてしまった。


 そういえば昨日はお風呂に入ってなかった気がする。

 右腕を挙げて脇の下をクンクンと嗅ぐ。

 酸っぱい臭いこみあげてきた。

 まあいい、お風呂は後回しだ。

 くるりと反転すると、


「わあ、ビックリした」


 眉ひとつぴくりと動じない白ちゃんが棒立ちしていた。

 ひょっとして捜索と言いつつ、

 用を足していたことにイラッとしているのか? 


「ごめん」


 レバーを引いて水を流すと、

 白ちゃんは、ぼくの右手首を握って走り出した。


「ちょっと、どうしたの?」


 彼女の行動は尋常ではなかった。

 脱衣所に入り、曇りガラス戸の前で白ちゃんはブレーキをかけた。

 ここまで来たら鈍いぼくでも察しがつく。

 指先に集中させたガラス戸を右にスライドさせる。

 最初に入っていたのはシャンプーの淡い匂い。

 慎重に一歩ずつ前へ。

 浴槽に大根くらいの太さのものが浮かんでいる。


 更に近づく。

 それはぼくたちが見た膝の上の部位、

 つまり太ももの部位だった。


 手を伸ばして2つの太ももを抱きしめた。

 そしてガラス戸のところで立ちすくんでいる白ちゃんに

「戻ろう」と告げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る