第17話 第2の被害者

 用を済ませたハカセさんとぼくは中央間に戻る。


「まずは1階から潰していこう。

 太朗くんは書斎を。

 僕はあの2つの部屋を巡回していくから」


「はい」と返事して書斎のドアノブに手を。

 昨日まで遺体があった部屋に、

 熊さんがいるわけがない。

 そーっとドアの隙間から覗く。

 中は厚いカーテンで光を遮っているため、

 夜と勘違いするほどに暗かった。

 熊さんと思しき人影もなく静かにドアを閉めることにした。


「こっちにはいませんよ」


 振り向くとちょうどハカセさんが、

 ぼくが最初に倒れていた部屋から出てきた。


「僕は隣の部屋を見るから、

 太朗くんは2階へ回ってくれないか?」


 素直に返事をして中央階段を駆け上る。

 2階の部屋は全部で6つ。

 真ん中を挟んで3つずつ別れている。

 うろ覚えだが、確か6つとも同じだったはず。


「熊さーん、どこですか?」


 まずは呼びかける。

 だが返事は返ってこない。

 どうしよう? 

 ヤマカンで左に回り端から順番に調べることに。


 1番左端の部屋。

「熊さーん」

 呼びかけて、コンコンと軽く裏拳ノック。

 返事はない。

 ドアノブを握る。


 「えっ?」

 さほど力を入れてないのにポロッと折れた。

 その反動でギギギギとドアが手前に迫ってくる。

 左半身だけ中に入ると、

 ベッドに毛布の山が出来ている。


「熊さん、朝ですよ」


 反応はない。

 部屋に入ると熊さんは、仰向けになって目を閉じている。


「朝食の準備できましたから、起きてくださいよ」


 優しく肩をさする。

 冷たい。まさか!


「熊さん? 熊さん!」


 必死に体を揺らしても応答がない。

 ふと自分の手を見る。

 べったりと赤く染まっていた。

「えっ?」

 一瞬状況が読み取れない。


「なんで……」

 熊さんを見る。

 腹部に1カ所だけ尖っていた。

 恐る恐る毛布をはぎ取った。

 首から下は紅一色でお腹には包丁が。


「うわあああああああ!」


 尻餅をついたまま後退り。

 ドアにしがみついて大声で、


「誰か! 誰か!」


 もうわからない。

 心臓がバクバクと激しく脈打って、

 口の中の唾液は枯渇し、

 喉はカラカラ。


「太朗くん!」


 ゆっくりと中央階段を上ってきたハカセさんの足が急に速くなった。


「何かあったのかね?」


「熊さんが、熊さんが」


 ぼくは血だらけの指で夢中に部屋を指した。

 ゴクンと息を呑んだハカセさんは、

 ゆっくりと入っていく。

 熊さんの手首を掴んで、


「脈がない、死んでいる」

 静かに下ろした。


「落ち着いて太朗くん。立てるかい?」


 ぼくの両肩を優しく包んだハカセさんは、

「せーの」の合図で持ち上げる。

 すらっと立ち上がったぼくは、

 ビルとビルの間を綱渡りするように、

 足がガクガクと震え続けていた。


「その足では歩けなさそうだから、

 僕がみんなを呼んでくるよ。

 もし異常があったら叫ぶか、何かを叩いて知らせてくれ」


 ハカセさんがみんなを連れてくるのには5分もかからなかった。

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