第5話…余った年賀状ハガキ
楽しみにしているお昼のドラマを観ている彼女。
いつも以上にメロドラマに感情移入してしまい、
「そうね、わかるわ」と、ふつうの声で独り言を言っていた。
余韻を楽しみながら自室にもどり、パソコンを立ち上げる。
パソコンを立ち上げている瞬間がこんなにもワクワクと楽しみなのもアフィリエイトにハマっていた時くらいだろう。
受信トレイにメールがあることがまず嬉しく、さらに、
「やった♪」
昔の彼氏からのメールが入っていたのが嬉しい。
先日、彼からのメールを読んでいる時によほど身体に力が入っていたのか、内腿あたりが筋肉痛になったほどだ。
普段は自分はクールだと思いたい彼女にとって、筋肉痛になった自分が可愛いやら情けないやらで夫の前で危なく微笑しそうになった。
昨日は、夫と久しぶりに会話をした。
「おい、年賀ハガキ余ってるけどいるか?」
「いらないわよ」
「あ、そう」
ただそれだけの会話である。
夫は意外な顔をしていた。吝嗇な彼女だったら「置いておいて」と言って、もらっていただろうにと……。
「昨日は鏡開きなのに今更年賀ハガキもらったって……」
パソコンに向かって昔の彼氏との世界に浸りたいのに夫のことを考えている自分に嫌気が差し、もう一度元彼からのメールを読み直した。
確かに書いてある。
「今夜会おうよ」と。
急に、
(どんな服を着ていこう)
(どんな会話をしようかしら)
と不安におそわれ、頭の中でファッションショーとイメージトレーニングが始まる。
妄想は尽きない。
下着の色まで考えている自分が可笑しい。
彼と会うとなったらまた彼からの年賀状を取り出して彼との思い出に浸ろうとするのであった。
しばらくしてから不意に冷静になってハガキを見つめると、彼からの年賀状も『お年玉年賀ハガキ』だったのである。
「あ、昨日やっぱり夫からお年玉年賀ハガキをもらっておけばよかった。3日後に当選が確認できるかもしれないのに……」
と、思い出したように独り言をつぶやいた。
余ったお年玉年賀ハガキ。
夫は何に使うことになるのであろうか?
その時の彼女は知る由もなかった。
つづく。
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