第4話…迷惑メール(年賀状)なのか
「年賀状の消印は、1月7日までに出されたものには押されない」
そんな郵便局の約款が、彼女の偽装工作に役立っていた。
彼女は、自分が偽装して書いた竜彦宛の年賀状を早速リビングのテーブルの上に置き、夫が帰ってくるまで自室のパソコンの前で過ごした。
「あら、まだ彼からメールがきていないわ……」
昔の彼からの年賀状には彼の新しいメールアドレスが書いてあった。アナログの伝達からすぐにデジタルの伝達に引き込もうと彼女は、年賀状のお礼兼がね、近況をメールしていたのだ。
デジタルから次はリアルへ。
相手からメールが返ってこなくても、思い出話や思わせぶりな言葉を多用した近況を送り続けることで、けなげさや一途さを演出できる。
まさに詰め将棋をするかのように『会おう!』と言わせる計略である。
か弱さを見せつつも、自分を安売りしすぎずさらに相手を立てる。
この間、電話は一切しない。
この距離間を楽しみながら、また新しく彼にメールをしたためる彼女であった。リアルに会うためならどんな努力でも今ならできるのであろう…。
いつの間にか、もう夜になっていた。
『バタンッ!』
彼女は、「チッ!」と無意識にも舌打ちをしていた。
夫が帰ってきた時の忌々しい音、彼との世界を邪魔する侵入者来訪の音とも言える。
「はっ!年賀状!!」
彼女はパソコンの画面だけ消して、リビングに急いだ。
夫は、ジッと年賀状を見つめていた。
彼女が入ってきたのを待っていたかのように一言。
「年賀状にも迷惑メールと言うのがあるんだな……」
と、言って生ゴミのゴミ箱に捨ててしまったのである。
夫の対応のうまさに、思わずまた「チッ」と舌打ちをして、自室に戻ったのであった。
翌朝、夫が出かけてから
「お年玉年賀ハガキだったんだから、モッタイナイ!」
とゴミ箱から拾い上げてみると、インクはにじんで、【文字化け】のようになり、生ゴミの臭いが移って、まさに【迷惑メールのリアル版】になっていたのであった。
つづく。
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