第3話…年賀状で仕組んでおくこと
Eメールのデジタル的に慣れてしまっている現在において、年賀状と言うアナログ的なアプローチはある一定の効果をもたらす。
少々でも手間がかかっている分、思いやりが感じられ、送ってから時差がある分、じれったさが思いを高揚させる。
そして何より、筆跡や行間から人となりが伺えるのである。
何べん昔の彼から返信されてきた年賀状を彼女は見たことだろう。
見るたびに結婚する前の自分に戻れ、触れていたい彼との思い出に浸れるのであった。
「やはり、彼の世界に触れていたいんだわ」
正確には、今の仮面夫婦としての閉塞的な世界から抜け出したいといったところであろうか…。
相当、昔の彼を美化していることだけは間違いない。
彼からの年賀状の隣にもう一枚、夫の竜彦宛で女性からの年賀状がある。
「竜彦さん、久しぶりね。この前はありがとう。あなたのさりげない優しさ、惹かれる人も多いことでしょう。奥様がうらやましい……。またお会いできるのを楽しみにしています」
送り主が書いていない夫への年賀状。
彼女は微笑を浮かべながらこの年賀状も何べんも見直している。
夫の竜彦は、まだこの年賀状の存在を知らない。
彼女は、今日にでもリビングの机の上にわざとらしく置いておくつもりだ。
夫がどんな反応をするか楽しみである。
なぜなら、
その年賀状は彼女が書いたものだから……。
つづく。
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