第35話 潜入

 領都の中央にそびえ立つ一周りの堀と跳ね橋を備えた簡素な石造りの城が領主とその一族郎党が住まう館である。昔は俺もあそこを遊び場にしたものだが今から考えると恐ろしいことをしていたものだ。


館の顔なじみの門番と何とか館の中に入れないものかと話す。

「久しぶりだな赤月、冒険屋になったって聞いたがどうしたんだ?まぁ領主様のこと以外ないだろうけどな」

「そういうことだ、ちょっと通してくれるないか?」

「指名手配されてる奴が言う台詞じゃないな。まぁお前なら誰も文句は言わないだろうしな、通っていいぞ。ちゃんと鎧と兜はつけて見つからないようにな」

 門番は橋を下げた後、周囲を見回し小さな声で付け足した。

「…そうだ補佐様には気をつけろよ、中央から派遣された上に神経質なお方だからな見つかったら一発で牢獄行きだ」

「ありがとう気を付けるよ」


 城内は領主が暗殺されたこともあってかピリピリとした空気が漂い、戦場のような雰囲気であった。

「おい、お前はそこで何してる?この時間に橋を下げる話は聞いてないぞ」

「はっ、指名手配犯が街に出たとの報告を受け巡回へ出ましたが発見できず戻った次第です」

「すまない。巡回に出ていたのかご苦労だった。休憩の後、持ち場に戻るように」

 なんとか誤魔化せたようだ、厳戒態勢にあるとはいえ普段は平穏なところなのだ油断するのも仕方ないというものだろう。今後の問題はあるが今回ばかりは助かった。

 古い記憶で目的の部屋を探す。城の内部は変わりようがなく、目的の現場となった領主の部屋は問題なく見つかった。

 執務室と書かれた扉の前に立ち中を伺う。人の動く気配があり、数舜の後怒声が飛んできた。

「むっそこに居るのは何者だ。誰も近寄らせるなと言ってあったはずだが!?」


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