第30話 幻影

「その問いに答える前に君の事を話そう、鉄鬼兵」

「鉄鬼兵?」

「そうだ、今のお前の名前。その身に起きたことだ。戦場で死んだお前は人造の肉体に脳を得て再びこの世に舞い戻った、兵器として」

 覚悟はしていたが思っていたよりも状況はひどいらしい、研究所の連中が俺に対してなにかやったのは知っていたが得体のしれない兵器にされているとは…違和感自体はあった、喜びや悲しみといった感情をあまり感じられなかったし、世界に対する思考が制限されている感覚はあったのだ。

「思い当たるところがありそうだな、それが答えだ。すべての人間が我を心から肯定し否定できぬので存在する、世界が改変された時そう定義されたのだ」

 世界に架空の存在を定義し、現実にする。まるで子供が魔法が本当にあったらいいなと夢を描く様だ。手段は乱暴で明らかに大人の手が加わっていることは確かだが。

「ひどい答えだな、架空の存在を強引に顕現させようなんて」

「だがな、架空を描く夢ほど純粋で力強いものはない。理想とするには十分な素質を持っているのだ」

 誰もが平和に暮らしていました。で始まるおとぎ話を力で作ろうとするのは間違っている、夢は夢でありいずれは現実という巨大な幻に吸われてしまう。その儚さゆえに人は憧れ、実現をしようと努力を積み重ねるのだ。

「さて、長くはなったがここまでの話が答えだ。君がその体になって保存され始めた頃、我は目覚めた。覚えているのは東の方で爆発があったこと、そしてそこを中心に我と似た存在が生み出されたということ」

 東…帝国の首都があった方ということは世界の改変を引き起こしたのは帝國ということか。

「行け鉄鬼兵、今の世を解き明かせ」

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