第29話 賢者

「久方ぶりであるな、人を見るのも」

 大地の遠い底からしわがれた声が響き、どんどんと近づいてくる。

「強化魔法があるとはいえ私のダガーで切り裂けるほど柔らかくなるのはおかしいと思ったんですよ、化身であるなら全体的な能力が劣るのは納得です」

「うむ、小娘。お前の言う通りだあれを我が力であると考え違いを起こすのは間違いというものだ」

 地を割り姿を現したそれはおとぎ話に謳われるドラゴンそのままの姿をした巨大な獣であった。厳めしく皺が刻まれた顔、赤茶けた火山の土のような鱗、鉤爪を備えた視界を覆うほど広いの翼。空を穿つとがった尾。おおよそ生物として存在し得ぬ特徴を備えていた。

「お前がドラゴンか?」

「そうだ、諸君ら人が恐れ敬う。最近ではそうでもないが、ドラゴンだ。最近我の名を騙り悪事を働くものがいると聞いて化身を地上に出せば殺されたではないか。人にもかようなものが現れたかと思って興味を持って出てきたのだ」

 おとぎ話のドラゴンは一部を除けば人語を解し言葉を話すなどということはなかった。その語り口は伝説の獣ではなく賢者であるような印象を受けた。

「じゃあ、俺たちが掴まされた情報は…」

「まぁ嘘じゃろうな、その様子だと我が何か人を害したというようなことを聞かされたのであろう?そんなことは古からはかりごとであると決まっている」

「そうだとすれば叔父上が…」

 リーダーは驚いた表情を浮かべた後、考え込み始めた。誰かが謀ったのだとすれば一番可能性が高いのは依頼を出した領主、それを許可する権利をもつギルド長か?

「一つ聞きたいことがある!」

 俺にはドラゴンの存在を知った時から聞きたかったことがある。

「なんだ?質問を許可しよう」

「ありがとうでは、お前はいつから存在している?」

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