第七部 第八章 第七話 神々の役割
「ところで……今の話ではレフ族はロウド世界に取り込まれ変化したことになりますが、随分と中途半端な気がしますね」
寿命は魔人や竜人以上にして魔力は半魔人と同等。魔力知識を理解する知能はやはり魔人と同等ながら、身体能力は人間とそう変わらない。
元・神の眷族にしては何ともバランスの悪いものだとベルフラガは思った。
『その辺りは神同士の協議の上で調整されたのだろう。【博愛の神】が自分の眷族達に何を残したいのか協議を行ったと考えるべきか』
長い寿命と高い知性は、ロウド世界にての変化後でもいつか再び神格に至れる可能性を高める為だろうとプレヴァインは推論を述べた。肉体性能が人寄りなのは恐らくロウドの神側が脅威存在輩出を避けた為。結果、レフ族は人種として確立しロウド世界に根付いた。
「……。メトラ師匠。レフ族の中からまた神格に至った人って居るんですか?」
「居るには居るぞよ。一人だけじゃがの」
「どんな人なんですか?」
「この世界の四代目の神じゃな。名をピアースと言っての……何かを先読みして行動している節のある不思議な男じゃった。今思えば皮肉なもんじゃのぅ……」
ロウド世界五代目の神・アーヴィーンは【天の裁き】を行使した神……。つまりはレフ族の王朝を滅ぼした神とも言える。その先代がレフ族という事実は確かに皮肉じみている。
それもまた神の道理なのだろうとプレヴァインは口にした。
「アーヴィーンて名前、アービンさんに似てるな……」
「レフ族が元・神の眷族……そしてアービンとやらの先祖もレフ族なんじゃろ?」
「というか、先祖がベルフラガのお母さん?」
「ええ。アービンは私の兄の子孫ということになりますね。まだ存命の筈です」
ベルザー家は少々ややこしい家柄だが、要はベルフラガの母ソフィーマイヤが純粋なレフ族で皆その子孫ということだ。
「フム……ならば恐らく語源は同じと見るべきかの。神代の言葉は今やほぼ廃れてしもうたが時折名前のような形で残っておる」
「因みにアービンはどういう意味ですか?」
「“アーヴィ”が不屈、“ビーイン”が信念じゃな。天使や竜、古い王家には名残として名前に意味を持たせておったりとしておるぞよ?」
例えば同居人の天使アリシアは“アーリー”が恵み、“シア”が愛を意味している。同じ語源と思われるデルセット出身の魔人少年アーリンドは“リンド”が世界を意味し『世界の恵み』という意味になる。これは常に世界から恵まれ幸ある様に……という願いが込められている。
「話を元に戻すぞよ?ピアースは神となったがレフ族を眷族にはせなんだ。つまりレフ族はこのロウド世界に融け込む道を選んだと見るべきじゃろ」
「そもそも何故、慈愛の神はロウド世界に眷族を託したのでしょう?」
「さて、の……。慈愛の神が自らの世界を離れる故と聞いたが……」
プレヴァインはここで小さく唸った。
『私の知る限り【愛】を名乗る神は世界成長の為の試練には向かぬ。その為、多くは神の世界……〘根源なる神の世界〙に存在している。創世神であってもやはり【愛の神】には違いないのでな……世界の維持の為に他の神へ主星を提供することはある』
「それじゃあ『提供した愛の神』はどうなるんだ?」
『愛の神は性別問わずその美しさ故に引く手
「へぇ〜……神様も結婚するんだな」
『各世界の【人】は神の産物でありわざと似せて創られている。当然、人間が発展し考え付くことは全て神が持ち得たものに過ぎぬ。生きとし生けるものは全て神の子……到底理解できぬこともあるが似通った部分も多い』
「……あ。それ、少し解るかも」
大聖霊は神の写し身なれど人と暮らすことも議論することもできる。常識では測れずとも歩み寄りもできるのだ。
【真なる神】ともなればそのスケールは計り知れないが、考えてみれば創生した者を愛おしいと思っていたことはロウド世界の『創世神ラール』を知る者が口を揃え語っている。
「ですが……そうなると眷族をわざわざロウド世界に連れて来る必要は無いのでは?」
『一つの世界が内包できる神の眷族にも数の上限があるのだ。〘根源なる神の世界〙であれば別だがな……若い眷族ではまだ【神の世界】へ辿り着けなかったのだろう』
結果、【博愛の神】の眷族は主の負担にならぬよう異世界渡りを願い出てロウド世界に身を委ねた……ということになる。
『神格持ちが無制限に存在すれば法則にも影響が出るからな……。【博愛の神】はそれを避け知己の者の世界を頼った可能性がある。或いは……』
「……?」
『【真なる神】にも成長があるのだ。神の世界であっても更に上位の世界が存在する。神々はその世界を目指していると言っても良い』
【真なる神】が成長し〘神の世界〙での役割を終えた後は更なる上位存在となるべく果てなき旅に出る。
目指す先は最早概念や道理さえも超越した世界……どのようなものかは狂乱神ネモニーヴァでさえも知らないという。そして役割は神々によって違う。だからこそ神は己の存在理由に従い思うままを行うのだとプレヴァインは告げた。
「つまり……神の意志自体が役割なのですね?」
『そうだ。博愛の神は役割を終え先の世界へ向かう為に親しい神の元へ眷族を委ねたことも否定はできぬ』
「……。では、闘神はどうでしょう?」
『闘神が何故ロウド世界に来訪したのかは私にも分からぬな。先に述べた様に理解の及ばぬ反面、同時に人にも近い部分もあるのが『真なる神』。私のような至極個人的な理由の可能性も否定はできん』
「う〜ん……。結局、闘神当人に聞くしかないのか……。話し合いは……」
『恐らく難しいだろう。最初の来訪でこの世界の神との戦いになっているのならば少なくとも楽観はできまいな。目的は世界の滅亡か
場に鎮痛な空気が広がる……。
「クソ……。結局、出来ることは戦いへの備えだけか」
『それでも……諦めぬのだろう?』
「当たり前だろ?アンタがネモニーヴァさんを諦められないのと同じだよ。この星には俺の大切な存在が居るんだ」
『フッ……。愚問だったな』
ベルフラガにはプレヴァインの声が少し楽しそうに聞こえた。
「プレヴァイン……。もう一つ疑問があります」
『何だ……?』
「七千年前……貴方ならば当時のロウド神に会って交渉することもできたのでは?」
『フッ……。役割とはいえ散々この世界を乱し命を奪ったのだぞ?どの面を下げて……』
「ですが、ネモニーヴァを取り戻すには最善だった筈……」
『…………』
沈黙のプレヴァインの代わりに答えたのはメトラペトラだ。
「七千年前の戦いにはロウド神は参加しておらんからのぅ……。居場所が分からなかった……違うかぇ?」
『…………世界を支配する神は戦いに加われぬのが【終末の三神】の試練。確かにロウドの神は参加していない。だが、居場所の推測は付いていた。この世界の天界は月にある……違うか?』
「半分正解じゃな。正確には月そのものではない」
『それも理解している。月は異空間への門……といったところか』
「お主……そこまで知っていながら何故天界へ向かわなんだ?」
『必要が無かったからだ。何度も言うが役割を終えた私がこの世界に残ったのは個人的な我儘……ネモニーヴァ様の遺骸を取り込まれぬならば探し出すだけ。流石にこれ程見付からぬ事態になるとは思わなかったがな』
ライはプレヴァインの反応に何か思うところがあった様だが敢えて口にしなかった。
「メトラ師匠。天界ってどっちの月にあるんですか?」
「そういえば教えておらんかったが……予想は付いとるじゃろ?」
「まぁ、何となくは……」
ロウド世界の空には二つの月がある。うち一つはもう一つの月よりも大きく明るい為、日中でも微かに見ることができる。日夜人々を見守ることから思いやる意としてその月を『
余談ながら小さい側の月は夜間に青白く光ることから『
「天界かぁ……。確か今ロウドの神様ってティアモントっていう天使なんですよね?」
「正確には神の代行者じゃがの」
「エクレトルの一番偉い人でもあるんですよね。そう言えば何で邪教の騒動の時に手を貸してくれなかったんですかね……」
「恐らくバベル絡みじゃな。ティアモントはバベルと仲が良かったからのぅ。“俺の子孫には手助けなんかすんなよ?”とかバベルに言われていたのかものぅ」
「バベル……。そう言えばご先祖のことも曖昧なんですよねぇ。生きてるのか死んでるのかも分からないし」
「そこはワシも断言はできぬが……神衣に至っていることを考えれば生きとる可能性が高いわぇ」
至極不快な顔をしたメトラペトラ。バベルとはあまり仲が良い訳ではないらしい。
「メトラ師匠って御先祖嫌いですよね……」
「アヤツは態度がデカく身勝手だったからの……。良く喧嘩したわぇ」
(成る程……同族嫌悪ってヤツか……)
「んん〜?何じゃ?」
「イ、イエ。ナンデモ……。そ、そういえば、ベルフラガはバベルのことは知ってるのか?」
「名前は存じてますが会ったことはありませんね。無傀樹、暴竜、魔獣に魔王……世界を守った数々の功績を持つ大勇者『バベル・クレストノア』を当時知らぬ者は居ませんでしたよ。ただ、不思議なことに現代では殆ど誰も知らないのですね……」
「世界が改変されてるらしいんだよ。俺も御先祖の名前知らなかったくらいだからなぁ……」
『恐らくそれは闘神対策だろう。闘神という明確な神が復活するとお前の様に準備を行うことになる。それは闘志……つまり闘神の力の糧だ。闘志を持つ者が多い程闘神の復活は早まる』
「つまりギリギリまで引き伸ばすのが世界改変の目的?でも、覚えている人も居たんだけど……」
『それはバベルとやらと直接縁のある者だろう。或いは神格に絡む者か……』
言われてみれば確かにその節はある。竜や天使は天界に由来し、魔物である海王リルは直接の面識がある。人間でもエイル、トゥルク王ブロガン、そしてサザンシス一族もまた直接の知己……。
「う〜ん……。他にも世界の法則とか弄ってるらしいんだけど……」
『世界の魔力効率などは確かに成長している。改変とやらの目的はやはり闘神への備えと見るべきではないのか?』
「そうなのかな……。う〜ん……」
『現在の神の代行とやらに聞いてみれば良いだろう?お前ならば天界からも拒絶されまい』
「そうしたいけど今はチョイと立て込んでてね……」
『ならば早く用を片すことだ。残された時間もどれ程か分からぬからな』
「そだな……。じゃあ、アンタには改めて協力して貰うとして……メトラ師匠はプレヴァインの依代ってどうするつもりだったんですか?」
「簡単じゃろ?フェルミナにレフ族型の依代を頼めば済む話じゃ」
「え〜………。それってどうなんだろ?」
やはり倫理的な問題としてライは魂の無い生命を用意することに抵抗がある。ならばとメトラペトラは対案を提言した。
「ならばリーファムに与えたアレを真似れば良かろう」
「アレって……魔導騎兵のことですか?でも、竜鱗は全部渡しちゃいましたよ?」
「この際、材質は燐天鉱でも問題あるまいて」
「それなら確かに……。でも、ちょっと時間が掛かるかも」
「そうなのかぇ?」
「魔導騎兵自体は複製できてもプレヴァインに似せた波動を定着させるのが難しいそうでして……。やっぱりアムルかラジックさんから力を借りるのが最善かな。プレヴァイン、それまで待てるか?」
『構わぬ。それまで私は此処から動かねば良いだけだ』
「悪いね。なるべく早く用意するからさ……。同時にネモニーヴァさんの遺骸も探しとくよ」
『フッ……。一応、期待しておいてやろう』
それから幾つか打ち合わせをしてプレヴァインとの対話は終了となる。
この対話もまたロウド世界の未来にとって必然だったことをライ達は後に理解することになる。
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