第七部 第七章 第二十六話 頼れる強者達
ラヴェリントにて一夜を明かしたライとフェルミナ。まだ日が昇ったばかりの時刻……久々の快眠に気持ち良い朝を迎えたライはベッドから身体を起こした。
隣に寝ているフェルミナはやはり疲弊していたらしくまだ目覚めていない。
(ハハハ。フェルミナの寝顔、久々に見るかも……。それだけ異空間では頑張ってくれたんだな)
波動氣吼法との相性が良かったとはいえ慣れぬ力には違いない。更には剣技でプレヴァインと渡り合うこともまた精神的、肉体的に負担になった筈だ。
(神衣程じゃないにしても当然難しいんだよな、波動氣吼法って……。俺も形にするまで結構苦戦したし、それ以前に波動の知覚までかなり大変だったからなぁ。そう言えば、普通の人間の場合はどのくらい影響するんだろ……?)
修得が困難な技法をライの助力で獲得しやすい様にしてはいるが、波動吼自体が人の成長に与える影響も良く分かっていない。そもそも波動はティルナーチの師の一人であるトキサダとライしか使えなかったのだ。
トキサダは既に人ではなく、ライもまた半精霊格に至っていた状態での波動吼獲得。当然、他に体現した人間が居ない為に詳細は判らない。
(波動を使うと肉体の強化もできる訳だけど、元が存在特性なら存在の在り方にも影響するのかな?だとすると、存在格も変化する可能性も……いや……存在特性は元から持ってるものだから違うのか?)
もし存在の力の引き上げになるならばアービンやジャックが半精霊格に至ることも有り得る。ともなれば波動吼の伝達自体にも大きな意味が生まれる……が、今はどのみち確認のしようがない。
続いてライはフェルミナが目覚めるまでの間、これまでの考えを纒めることにした。
(エイルは【神衣】を使える様になった。と言っても多分使い熟せる訳じゃないだろうけどね……。しばらくは修錬が必要な筈だけど得たものは大きいよな)
エイルはライとの魂の繋がりを得て一気に精霊格まで存在の力を引き上げた。その影響から契約聖獣であるコウも大きく変化を果たしている。神衣を使用せずとも大抵の脅威存在に遅れを取ることは無いだろう。
そしてエイルが神衣を使えるようになれば同居人達にも影響を与えるのは間違いない。それはつまり、同居人の誰かが神衣、波動吼、波動魔法等に目醒める可能性も生まれたことになる。
(取り敢えずエイルが居れば城の方は大丈夫そうだけど……何日くらい眠りが必要だろう?)
エイルの力の安定は恐らくは一週程は時間を要するというのがライの見立てだった。エイルの変化が大きい分安定までの時間も必須となる。それでも一週という見立てはライとの魂の繋がりによる干渉で負担は抑えられていることを鑑みたものだ。
城の守りは万全……アムルテリアも居る筈なので目醒めるまでは安心して休息できるだろう。
(次は……アービンさんとジャックさんか……。頼れそうな戦力が増えるのはありがたいよね)
アービンは波動吼と波動魔法、ジャックは存在特性と波動気吼法。上手くいけばマーナやルーヴェストに並ぶ実力者へと成長し得る急成長株……ライとしてもかなり期待している。
ジャックは居城にいるデルメレアやカイン、更には王都のレグルスへ。そしてアービンはシュレイドを通じマレクタルへ……そうして技能が伝わって行けば良いとライは思った。
と……ライはここでもう一人の人物を思い出す。
(ガウルさん、獣人だけあって勘が良いから予想外に伸びてくるかもな。その辺りはワタマルとの相性次第だけど……)
獣人族は非常に感性が鋭いのでガウルが波動吼を獲得すれば次々に続くかもしれない。それは大戦力組織の誕生を意味するが、獣人達の平和を好む気質を知るライは全く気にはしてはいない。
そして……。
(……今、一番頼れそうなのはやっぱりベルフラガだよな。知識と判断力、技術、それに力……。改めて頼むことになるけど、大きな情勢なら俺より正確な判断ができると思う。テレサさんには少し悪いけどね……)
二百年以上の時を経た再会……恋人たる二人の障害だった呪いは既に取り払われた。本来ならしばらくそっとしておきたいところではあるものの、ベルフラガ程の才能を放置できる程に今の世は平穏ではない。
ただ、ベルフラガが安心して行動できるよう配慮はしようと考えている。その為にはテレサの身の安全は最優先……ライの居城ならば安全は確保できる。
(プレヴァインから色々聞くにも俺だけじゃ気付かないこともあるよな。でも、ベルフラガなら頼れる。……。さて……もうそろそろ皆も動き出す頃かな。ヴォルさんとイリスフェアさんに挨拶してこよう)
フェルミナを起こすのは可哀想なので先にイリスフェア達に挨拶を……と考えていた丁度その時、寝室のドアを叩く音が響く。
「ライ殿、フェルミナ様。少し宜しいですか?」
「イリスフェアさん?ええ、大丈夫ですよ」
「失礼します」
部屋へ来訪したイリスフェアは渡した腕輪の効果で若返る前の姿。その表情は困っているように見える。
「……。何かあったんですか?」
「はい……。実はヴォルが……」
「……?」
「とにかく見て頂いた方が早いですね。あの……フェルミナ様は……?」
「少し疲れが出たみたいでまだ寝てまして……」
「……う〜ん……ライ……さん……。朝ですか……?」
「あ……丁度起きたみたいです……
ベッドへと向き直りフェルミナに声を掛けようとしたライは硬直した。フェルミナは一糸纏わぬ姿だったのだ。
「フ、フェルミナさん?ふ、服はどうしたの?」
「勿論、脱ぎました。直に肌で触れ合った方がお互いの紋章の効果が高まって回復が早まると思ったので……」
「へ、へぇ〜……そうなんだ〜……」
ここでハッ!としたライは“ギギギ”と軋んだ音がしそうな動きでイリスフェアを見る。イリスフェアは何故か申し訳無さそうだ!
「こ、これは、その……」
「お楽しみのところを失礼してしまいましたか……私としたことが気が回りませんでした」
「ち、違いますよ?ただ添い寝していただけですからね?」
「隠さなくても良いのですよ?英雄、色を好むと言いますし」
流石は大人の女性……理解が深い、と一瞬感心したライだが客人として泊まった先で誤解されるには少々こっ恥ずかしい誤解。何とか訂正したいところである。
そこへ救いの手?を差し出したのはフェルミナだった。
「イリスは勘違いしているわ。ライさんはそういった面では筋金入りの甲斐性なしなのよ?」
「ぐふっ!?」
「まぁ……そうなのですか?」
「ゴハァ!?」
イリスフェアの憐憫に似た視線がライを射抜く!ライの精神がガリガリと削られた
否定しようとしたことで却って精神ダメージを負うことになったライは綺麗なスピンを描きつつ崩れ落ち膝を突く。これもまた様式美か……。
「ぐっ……。そ、そそ、そんなことより、ヴォルさんの話を……」
「そ、そうでした!ヴォルが……ともかく来て頂けますか?」
「わ、分かりました」
素早く服を着たフェルミナと共にイリスフェアに誘われたのは同じ階にある部屋。どうやら其処はヴォルヴィルスの部屋らしい。
イリスフェアが
「いつも朝早くから鍛錬しているヴォルが今朝は起きてこなかったのです。試練もあったので疲れているのかと思ったのですが、アルミラに食事だけでもと部屋を覗いてみたらこんなことに……」
部屋のベッドの上には人が入れそうな大きな卵が乗っていた……。
「……。コレ、覇竜王の竜鱗……だよな。お〜い……もしかしてアルミラか?」
『はい〜。アルミラですよ〜』
「てことは中にヴォルさんが居るのか……」
『御主人様は眠りに入りました〜。なのでアルミラ、こうして起きるまで守ってます〜』
「あ〜……やっぱりか」
やはり昨日の『竜人への変化』による負担は大きくヴォルヴィルスは深き眠りに落ちていた。
安定の為の深い休眠に入るとその身体は無防備になってしまう。その為に結界等で守りを固める訳だが、ヴォルヴィルスの場合はオウガの守りが展開された様だ。
「……。アルミラ。ヴォルさん、どのくらいで起きそう?」
『多分、五日くらいです〜』
「五日かぁ……。そうだよ……確かにそうなるのが普通だよなぁ……」
ライは困った顔で頭を掻いた。変化に因る休眠は確かに起こるとは思っていたが昨日の様子で思考から外していたのだ。
つまり……予定していたヴォルヴィルスの行動もライが補う必要が生まれた……。
「う〜ん……こうなると予定変更か……。イリスフェアさん、ヴォルさんは試練の影響で数日起きませんけど特に問題は無いと思います。その上で少しお願いしたいことが……」
「何でしょうか?」
「取り敢えずヴォルさんとオウガの件は今から俺とフェルミナで代理をします。それと、ラヴェリントの第二勇者は私の知人を頼るので協力して下さい」
「それは……大丈夫なのですか?」
「ええ。信頼できる人ですよ〜……一応」
先ず念話を繋いだ相手はノルグー卿レオンだ。円座会議が近い為に王都ストラトに滞在中のレオンは、要件を伝えると直ぐ様キエロフと相談してくれた。結果、ライの行動の容認を得ることができた。
但し、ディルムはシウト騎士として特命を受け協力という形である。身の振り方は改めて当人の意志なども踏まえ後に協議……ということになった。
次に念話を繋いだのはノルグー領……。だが、相手はディルムではない。ライの念話はディルナーチ大陸から帰還した後に接触した相手としか繋げない。ディルムとはまだ顔を合わせていなかったのだ。
そこで選んだ相手はノルグー魔術師の本部『秤の塔』の現責任者、『ミレミア・リー・ラング』……。そう、あのラジックの叔母である。
そのミレミア……念話にて事情を説明すると楽しそうな声で快諾する。
『あらあら。それじゃあディルムさんに事情を伝えてお膳立てすれば良いのですね?』
「お願いできますか?」
『ええ。ただ、一つお願いがあります。私もラヴェリントに同行しても?』
「それは構いませんけど……大丈夫なんですか?今、円座会議関連で何かと物騒ですよね?ミレミアさんが不在だとノルグー魔術師は困るんじゃ……」
『大丈夫ですよ。メトラペトラ様のお陰でノルグー街は不審者の炙り出しは終えてますから』
「メトラ師匠が……。………。分かりました。それならお任せします。数日後に神聖機構のエルドナがラヴェリントに来ますのでそれに合わせて貰えると助かります」
『分かったわ。じゃあ、なるべく早く向かいますね』
『アナザー勇者計画』はライの手を離れることになるが問題があればミレミアかエルドナから連絡が入るだろう。
「イリスフェアさん。ディルムさんは血縁として試練を受ける為に来たことにして下さい。ヴォルさんは三日空けて試練を受けたことにして、その上で長引いた……とでも言えば姿が見えなくても問題無いと思います」
「承知しました」
「…………」
「あの……どうかしましたか?」
「いえ……」
ヴォルヴィルスが休眠に入った現在、、数日とはいえイリスフェアはまた一人で国を支えねばならない。どことなく不安に見える表情は気の所為ではないと思われる。
こうなるとやはりお節介心が落ち着かない。
「……。あのさ、フェルミナ……」
「はい。任せて下さい」
「……やっぱり流石だよ、フェルミナ。イリスフェアさん、しばらくフェルミナが一緒に居ますから安心して下さい。国政はともかく女同士として話したいこともあると思うので……」
「それは心強いですが……本当に宜しいのですか?」
「ええ。少しの間だけど宜しくね、イリス」
「はい。こちらこそ何卒宜しくお願い致します」
『ラヴェリントの勇者』には何とか目処が立ったもののイリスフェアを支える文官不足はまだ解決には至らない。しかし今回、じっくり対応に割けるだけの時間がライには無い。
(案外、ディルムさんかミレミアさんが改善策を考えてくれるかもね……。それでも駄目ならフェルミナを迎えに来る際に改めて考えよう)
最後にライとフェルミナは結界に穴を開けて貰い王都の外へと転移する。幻覚魔法にてヴォルヴィルスとアルミラに姿を変え関所を通過……目立つよう王都を練り歩き会話して回る。これでアルミラの存在も認知された筈だ。
そしてライは、フェルミナを残し単身でベルフラガの元へと向かうのであった……。
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