第七部 第七章 第十二話 強くなる縁
手合わせが終了となり結界を解いたライは、ジャックの肩に手を置いて回復魔法を発動。だが、疲労は今一つ癒えない様子だ。
「……。ジャックさん。最後の動き……アレは一体……」
ライの回避を予測していたかの様な滑らかな追尾……。辛うじて転移で避けたとはいえジャックの体の運びが尋常ではなかったのだ。
例えるなら予備動作を切り飛ばし万全の体勢で出現した……とでも表現すべきもの。しかし、あれは魔法でも神具効果でも無いとライは理解している。
そして、それを行った当人たるジャックは……。
「済まない、私にも良く分からない。無我夢中だった」
「う〜ん……。と、なると……」
「何か分かるのか?」
「多分ですが、最後のはジャックさんの存在特性かもしれません。存在の力を使うと回復魔法でも疲弊が癒えづらいんですよ」
「存在特性……?私の、か……?」
「はい。実は……」
波動氣吼伝授の為に手合わせを行っていた事を聞いたジャックは困った様な表情で溜め息を吐いた。
「そんなことをしていたのか……。結局は実力差があり過ぎた、という訳だな」
「いや……そうでもなかったですよ?神具との相性の大切さもかなり参考になりました。………。スミマセン。教えちゃうと緊張感が弱まると思っていたのでコッソリと……」
「いや……確かに私が弛んでいたのも確かだ。丁度良い刺激になったよ。だが……本当に存在特性なのか?」
「恐らくですけどね。トキサダさん……ディルナーチでの師匠の一人から聞いたんですけど、存在特性はそれを感じる程に目覚めやすくなるらしいんです。波動は存在特性の余波で、波動氣吼は神衣の変形……それを追い込んだ状態で知覚させていた手合わせでしたから……」
この場合ジャックは、本能的に波動氣吼ではなく存在特性を求めたのだろう。事実、それがライに届き手合わせの終了へと繋がったのだ。ある意味波動氣吼に目覚めるよりも正しい順序とも言える。
「しかし、私には自覚も無いんだが……」
「俺の時もそうですよ。でも、ジャックさんの系統は何となく予測は付きます」
「本当か?」
「ええ。アレは【必中】とかですね」
因果干渉系の存在特性だろうジャックの力……。槍の尖端が常にライへと向いていたこと、そして掠り傷とはいえライに届いていた事を考えれば可能性としては高い。
「解析してる間も無かったんで確定じゃないですけどね。槍の効果って貫通ですよね?」
「ああ。『捕食者の槍』の機能は【貫通】と【射出操作】だ。込めた魔力で撃ち出す速度と距離、そしてその後の操作が調整できる」
「初めからそれを使われたら結構ヤバかったんじゃ……」
「いや……どちらにせよ届かなかっただろう。それに君相手に初見殺しは使えないし」
「ハハ……ハ……」
初見の敵なら容赦無く撃ち込まれていたのかと思うと、今更ながらライの背筋に嫌な汗が滲んだ。
「ところで……その槍少し貸して貰っても良いですか?」
「構わないが……」
「ありがとうございます」
手渡された槍をチャクラにて《解析》。結果として幾つかのことが判明した。
「やっぱりラール神鋼……。星具以外にも神具があったんだ」
「それ程のものなのか?」
「これも多分ですけど、星具を除いたらラール神鋼の神具はコレだけじゃないですかね……。物凄い貴重品ですよ」
「カラナータ師匠、そんな素振りはなかったんだが……」
「確かに素材は至上かもしれませんが武器ってそれだけじゃないでしょ?その性質がジャックさんに向いていたから託したんですよ、きっと」
「……。私は良き師に恵まれたんだな」
「そうですね」
解析で分かったことはもう一つ……ラール神鋼製ではあるが星具では無かったという事実。
星具ならば核となる星命珠が備わっている筈……。形状偽装を行っている恐れもあった為 《解析》を行ったものの、星具との対面は今回空振りに終わった。
「……。でも、ジャックさんの存在特性が本当に【必中】なら神具との組み合わせはトンデモないですよ?あらゆるものをブチ抜いて必ず当たるんですから……」
「だが、まだどちらも使い熟せていない……やはり私も修行が足り無いな。存在特性……次はその修得を目指す」
「今回の手合わせで波動氣吼の感覚は少し伝わってる筈です。もし存在特性を優先するなら蜜精の森でデルメレアさんに会って下さい。それで幾分習得が早まると思います」
ライの居城に滞在しているデルメレアは【破壊者】を宿した影響により存在特性を発現している。そして能力は【受容】……他者の宿す力を任意で借り受けるもの。ジャックが存在特性を発現していれぱその正確な種類も判明する。更には貸与と返還を行うことで些細な違いから切っ掛けを掴めるかもしれない。
加えて聖獣達、そしてライの同居人の概念の力を感じられれば存在特性習得も捗るだろうとライは考えた。
「『フォニック』役なら王都滞在ですよね?なら、是非ともそうして下さい。可能ならレグルスとオーウェルの存在特性開花の手伝いもして貰えると助かります」
「ああ。そうさせて貰うよ。だが、それは円座会議後だな」
と……ここで黙って見ていたガウルが不満タラタラでライの肩に手を置いた。
「おい……。ジャックだけ優遇されてんのはズリぃだろ……」
「え?いや……アハハ〜」
「勿論俺にも何かあるんだよな?んん……?」
厳ついガウルはウィンクを何度もライに向けている。まるで苦痛で痙攣している様にしか見えない……。
「そ、そうですね〜。じ、じゃあ、神具を造って置いて行きま……」
「ああ?道具は所詮道具だろうが?俺にも『存在特性』か『波動氣吼』ってヤツを教えろ」
「えぇ〜……。じ、時間あんまり無いんですけど、後でジャックさんに……」
「教えろ」
「だ、だから……」
「お願いします!教えて下さい!」
ガウルは体育会系のノリで土下座の動作を見せたのでライは慌てて止めることになった。
ジャックに視線を向けると両手を広げ肩を竦めている。どうやら諦めるしか無いらしい。
とはいえ、ガウルの実力はジャックよりも一段落ちる。だからこそ力を欲したのだろうがあまり時間を費やす訳にもいかない。
しばし迷ったライは、自らの腕輪型空間収納庫から小さな虹色の石を取り出した。
それはパーシンの臣下であるレイスからライが預かった『存在特性を僅かな間発動できる』という神具……の複製品。ラジックとエルドナによる合作試作品である。
「じゃあ、ガウルさんにはコレをあげます」
「ほぉ〜……これで存在特性を使えるように?」
「ええ。但し、湯が沸く程度の時間しか使えない上に一度使うと粉々になりますけど」
「おい……泣くぞ?」
「ま、まぁまぁ。落ち着いて」
不満げなガウルを宥めライは話を続けた。
「普通ならあまり役立たないかもしれませんが、ガウルさんは獣人……感性が並よりずっと鋭い。一度使用すればその時の感覚も掴めるんじゃないですか?」
「む……。まぁ……確かにな……」
「で、念の為にもう一つ……」
聖獣契約印を用いて喚び出したのは
「何だ、その白毛玉は……」
「コイツはワタマルっていって運勢を少し操作できます。なので、しばらくガウルさんに付けて存在特性の修得を手伝って貰おうかと。そうすれば概念力も感じられる様になるかもしれませんし」
「へぇ〜……お前、小さいのに凄ぇんだな」
その賛辞に気を良くしたワタマルは、ガウルの頭上へと移動し毛玉から飛び出した尻尾をピコピコと揺らしている。
「一度感覚を掴んだらなるべく繰り返し使って下さい。ただ、存在特性の疲労は中々取れないので程々に。それと……ジャックさんもですが、強い意思で力を制御するようにして下さい。じゃないと暴走もあるらしいので」
「お、おお……」
「ガウルさんなら大丈夫ですよ……多分」
ニッコリとわざとらしい笑顔を向けるライにガウルは苦笑いだ。
「と言う訳で少しの間頼んだよ、ワタマル」
『分かりました』
「黒獅子達もここの人達と仲良くな」
『わかった』
「じゃあ行こうか、フェルミナ」
「はい」
「ガウルさん、ジャックさん。それじゃ、また」
フェルミナの手を取ったライは神具機能の転移にて姿を消した。
ライを見送った後、ガウルとジャックはしばらく動かなかった……。ようやく、といった様子で先に口を開いたのはガウルだ。
「………。アイツ、大丈夫なのか?ちっと元気無かった気がしたが……」
仮にも長である故か、それとも人狼故か……機微に敏いガウルは去り際のライの様子に違和感を感じていた。
「……。魔王の嫌疑が掛かっている以上、かなり無理をしているかもしれないが……。私程度ではどうすることもできない」
「それは俺も同じだな……。アイツぁ自分からは明かさねぇタイプだしな。だが、お前は『フォニック』としての立場を使えんだろ?なら、せめて国の問題の方は減らしてやれねぇのか?」
「わかってはいる……。しかし……」
一筋縄では行かない……とジャックは嘆息した。
今回の内紛はシウト国の今後が確定する事案。どんな結果となろうとも王位に立つ者により国は統一される。それは次の世代まで変わらない。政治に疎い者が絡んだところでこの嵐が弱まることは無いのだ。
そして実のところ、ジャックは獣人族庇護の為の行動を役目と考えている。
ピエトロ公爵の派閥の中には未だ獣人への根強い反発を持つ貴族も存在していて、この混乱に乗じて何かを仕掛けてくる恐れがあった。元はクローディアからの依頼であるが、交流によりジャックは己の意志からも必要なことと判断した。
「……。ま、アイツは規格外だから余計な心配か。さて……それじゃあ今度は俺と手合わせ頼むぜ、ジャック?」
「せめて人前ではフォニックで通して貰いたいのだが……」
「ハッハッハ。じゃ、やるか!」
この来訪もまたライの
ライとフェルミナが次に転移を果たしたのは、小国ラヴェリントの国境手前の森の中──。邪教討伐前に一度だけ来訪したことがあったものの、大戦前となる現在は最優先で結界が張られているらしく転移の座標指定ができなかったのだ。
「……。さて、どうするかな……。あ、もしかしてフェルミナなら入国許可とかあったりする?」
「いえ……。私は来るのも初めてです。女王とも面識はありません」
「そっか……」
「クリスティーナなら面識があるんですが……」
マリアンヌが『ロウドの盾』側の役割を担ったことでフェルミナはストラトでの滞在が増えた。特にライがディルナーチ大陸から戻り居城を手に入れてからはそこを守るのが役割と考えていたのだろう。
実際、マーナとマリアンヌのみでも十分過ぎる戦力である。同居人達は他国を回る必要も大きく減った為に各国の事情には殆ど干渉していない。
「まぁ、わざわざ呼ぶのもね……。一応俺は捕まっていることになってるし、急ぐ必要もないからゆっくり行こう」
「はい」
結界が張られているとなると入国用の門が存在する。そうでなければ流通が滞る。門と言っても文字通りの構造物ではなく、結界を抜ける為の神具が置いてあるだけの簡易関所だ。
そして関所は国境を繋ぐ街道に兵と共に配置されていると思われる。ライか千里眼で確認した結果、その推測が正しかったと分かった。
二人はゆっくり飛翔しやがて街道へと辿り着き徒歩で国境へ…。関所は結界の内側にあり、兵站が三つ程張られた簡易的なもの。そこではラヴェリント兵達が通行人の確認を行っていた。
ただ……一つだけ見慣れない光景として天使兵が二人程、離れた位置で見守っている。
(天使達は結界装置の操作と護衛……か。俺、エクレトルに拘束されてることになってるんだけど……ま、大丈夫だろ)
ライとフェルミナはラヴェリントへ……。そこで二人はある勇者の物語を知ることとなる。
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