第七部 第七章 第四話 同居人達の成長
「ヤレヤレ、仕方無いのぅ……。お主らは疲弊しとるじゃろうからワシが送ってやるぞよ」
そう言ってメトラペトラは各地への転移を手伝ってくれた。確かに戦い通しのライは体力はともかく精神や存在力への負担が気掛かりだったので、素直に甘えることにした。
最初に向かったのはアロウン国。シーン・ハンシー率いる『青の旅団』に事情を話し魔物を託すことに……。
「ウチには『魔物使い』も居るから相手をするのは問題は無いだろう。……。それより、大丈夫なのか?」
勇者会議に参加していたシーンは『世界の敵』とされたライをずっと心配していたらしい。
「ちょいちょい心配掛けちまって悪い。それに、修行もつけられなくて……」
「仕方無いさ。だが、無理はするなよ?」
「ああ」
「それで……この魔物は何という種族なんだ?」
「あ……考えてなかった。メトラ師匠、命名頼んます」
「仕方無いのぅ。では『黒獅子』とでも付けてやるかの」
すると魔物達は仄かな橙の光を放つ。黒獅子と種族名を決められた魔物達は甲殻の様な部分にメトラペトラの大聖霊紋章に似たものが浮かび上がった。
「な、何だ……?」
「えぇ〜……。し、師匠、何が起こったんですか?」
「う、うむ……と、どうやらワシが名付けたからワシの眷族……ということになったようじゃな。こういうのは極稀にしか起こらんのじゃが……」
高い知能と『猫科』という共通点でメトラペトラの眷族になった……ということらしい。眷族化は相性や共通点で起こる。これは海王リルの『海の眷族』や空皇レムペオルの『空の眷族』が分かり易い例として挙げられる。
大聖霊であるメトラペトラの眷族になれたということは、それだけ高い力を宿していることを意味する。これは前例が無いのだとフェルミナは驚いていた。
「やったね、オヤビン師匠!子分が増えたね!」
「オヤビン……。こ、子分では無いんじゃがのぅ……ま、良いわぇ」
眷族化は従うべき相手の力の影響を受け入れる変化。『黒獅子』は更に成長の可能性を手に入れた……とも言える。
その後、ライは過去に『青の旅団』に贈呈した神具諸々を改修……次の地への移動と相成った。
次の地はスランディ諸島・アプティオ国。丁度会議中だった様で知人達が揃っていた。その中にはスランディ島改革の際に出会った者達が幾人か加わっている。
「大丈夫だったの?ライちゃん」
「アウラ……。アハハ〜……御心配をお掛けしてます〜……。レフティス、それに皆さんもお久し振り……と言う程でもないのかな?」
「まぁ……そうかもね」
長い様だがひと月は経過していない期間での再訪……最後にライが訪問したのは勇者会議の前日のことだ。
「臣下増やしたんだな、レフティス?」
「うん。有能な人材はどんどん起用しないとね」
「ハハハ。頼もしくなってくなぁ……」
新たな臣下として会議に加わっていたのはスランディ島の元代表の一人モウディスと商人代表だったトルパリック。
そしてもう一人……元トシューラ密偵。スランディ島に派兵された中ではかなりの実力者で、鍛錬の中で覇王纏衣を習得した人物である。情報収集や調査能力に秀でており、更に危機察知にも優れているとのこと。外交や防衛に大きな役割を期待されている臣下だ。
「それで……大体用向きは予想が付くが……」
アプティオ騎士団長プラトラム、そして副団長のアスレフが窓の外をチラリと見やれば、獅子型の魔物が大人しく座っている姿が確認できた。
「任せて大丈夫ですかね?」
「寧ろこっちか大丈夫なのか聞きたい……というだけ野暮か。貴公が危険を連れてくる訳もない」
「そう言って頂けると。ただ、アレ……黒獅子と言うんですが、人間並みの知能があってもまだこの世界をあまり知らないんです。だから……」
「人と共に暮らして学ばせたい……ってか。全く……お前らしいな」
アスレフはライの背中をバシリと叩く。その背に伝わる感触からアスレフも力を増したとライは感じていた。
「あれ?そう言えばヴォルヴィルスさんの姿が見当たらないんですけど……」
「ん?ああ……アイツはちょっと島を出てる」
「……?」
「お前と同じで落ち着かない奴なんだよ」
アスレフは呆れたように肩を竦めた。レフティスの話では、ヴォルヴィルスはラヴェリント国へと向かったのだとか。
「ラヴェリントか……一応この後に向かう予定ではあるけど」
「ヴォルの父親は元々ラヴェリント国に住んでたんだ。それがリーブラ国に流れてきてヴォルだけが残った」
「……どういうこと?」
「ヴォルはラヴェリントの王族なんだよ」
ラヴェリント国の女王はヴォルヴィルスの伯母になるらしい。
ラヴェリントは女王継承という独自の体制で成り立っている。ヴォルヴィルスの父ヴォルタークの歳の離れた妹が現女王イリスフェア。
「何か複雑そうだな……」
「そうだね……。もしかすると戻らないかもしれない。ヴォルは型に嵌らないから」
少し寂しそうだが、レフティスは覚悟を決めている様だった。
「大丈夫ですよ、レフティス様。アイツはリーブラ……いや、アプティオの騎士です。アイツが戻ると言ったんですから」
「……うん。そうだね、アスレフ。僕はヴォルを待ってるよ」
少しだけ行動を共にしたが、ヴォルヴィルスには人を惹き付ける雰囲気がある。それが何か……実のところライは気付いていた。
ヴォルヴィルスには【勇者】の素養があるのだろう。決して折れぬしぶとさ、周囲に希望を与える快活さ、そして誰かの為に身体を張れる覚悟……。
そして帰る地はアプティオということは理解している筈。この混迷の最中にかつての故郷へと足を運んだことにも恐らく考えがあると思われる。
「レフティス。黒獅子を任せる代わり……という訳じゃないけど、ヴォルヴィルスさんとも話をしてくるよ。まあ、取り越し苦労だと思うけどね?」
「ゴメン。ライだって大変な時に……」
「何言ってんだよ。ついでなんだから気にすんなって」
「うん。頼むよ」
「あ……それでさ?一応神具なんだけど……」
ライがアプティオで渡した神具はそれなりの数である。流石に全ては改修している時間が無いので、レフティス、アウラ、プラトラム、アスレフの装備を優先。レフティスの新たな臣下にも手持ちの神具を改修し譲渡した。
「ライちゃんも本当に慌ただしいわねぇ……。もっとゆっくりできると良いのに」
「ハハハ……自分でもそう思う」
「またね、ライ。姉上を頼むよ」
「うん、わかってる。でも、今は俺が頼ってる側かな……」
「そうじゃな。オルネリアは【御魂宿し】になった訳じゃしの?」
メトラペトラの予想外の発言に会議場は静寂に包まれた。一同は目が点になったまま固まっている………。
「……。えっ!?マ、マジですか、師匠?」
「あれ?言わんかったかぇ?」
「聞いてないですよ!」
「ハッハッハ。まぁええじゃろ。大した話でもあるまい?」
「いやいや、大した話なんですけど……」
「と、いう訳じゃ。ではのぅ?皆の者!」
「師匠!話の途ぅおぉぁぁ───」
会話を端折り《心移鏡》を発動したメトラペトラ……ライとフェルミナは足元に展開された鏡の中へと落ちて行った。
「………」
「………」
「………。何か凄いことさらっと言って言ってたわね……」
「ま、まぁライと同居している訳だからね」
「……。俺達も負けてられないな、団長?」
「えっ?ああ……そ、そうだな」
ライの同居人になると常識から外れてしまうのか……アプティオの友人達は改めてそう認識させられるのであった。
一方、転移先では……。
「師匠!詳しく!」
「面倒臭いのぅ……気になるなら城に戻り確認すれば良いじゃろうに」
「くっ……い、いや、確かにそうなんですけどね」
「仕方無いのぅ……」
肩を竦めヤレヤレと首を振っているメトラペトラ。鼻で笑われた為イラッとしたライだったが我慢して話の続きを待った。
「お主、魔王アムドを捜しに行った後の状況をどの程度把握しとる?」
「えっ……っと。父が捕まって……ニースとヴェイツが母をカジームに避難させたことは。後は各国の様子とリーファムさんがベリドと交戦したのは見守ってました。あ……蜜精の森も一応は……」
「蜜精の森の様子は外敵警戒だけじゃろ。それ以前から同居人達は色々変化しとるんじゃぞよ?余裕が無くて気付かんかったかぇ?」
「………はい」
「まぁ良い。ならば、取り敢えず同居人の現状からじゃな」
メトラペトラは把握している範疇で説明を始める。と言っても当然ながら同居人の状況はほぼ全て理解していた。
先ず、霊位格の高い精霊人クラリスと妖精ウィンディ。二人にはメトラペトラが魔法を伝授し、それぞれに合わせた特性の魔法を研鑽中だという。
更にクラリスには聖獣との契約をさせようとしたが今のところ相手が居ないらしい。妖精族であるウィンディは聖獣契約ができないとのこと。何でも精霊に近い存在なので聖獣との融和性が成り立たないのだとか。
蜜精の森を襲撃した傭兵達をウィンディが洗脳……もとい改心させ警備をさせていると聞いた時、ライは半笑いだった。
「傭兵どもは円座会議の際に白状させるそうじゃぞ?その後は奉仕活動の名目で傭兵街へ送る算段じゃとか」
「……それ、ティムの案ですよね?」
「流石に分かるかぇ?」
「ええ……」
通常なら処分を受ける傭兵団だが、悪党でなくなったならば罪に問うのは躊躇われる。そんなライの流儀に反しない妥協案……流石は親友ティムである。
「イグナースとブラムクルトはデルメレアとカインに“みっちりしごかれとる”わぇ」
「ハハ……。結局、あの二人のことも人任せになっちゃいました……」
「仕方あるまい。そもそもお主は師匠向けではないからのぅ……落ち着きが無さすぎての?」
「うう……返す言葉もない」
「まぁアレじゃ。デルメレアもカインも師としては不足は無いじゃろうから問題あるまい」
高名な勇者である『四宝剣のデルメレア』とそれに並ぶ実力を持つ剣豪カイン。その手解きを受けられるならば寧ろ彼等にとっては良いのかもしれない。
「トウカは魔法を学んでいる最中じゃからのう。レイチェルが続けて丁寧に教えておるよ」
「それなら覚えるのも早いですね」
「マリアンヌ、マーナ、シルヴィーネル、クリスティーナ、そしてエイルは五人で実戦形式の訓練じゃったが……エイルが抜きん出たようじゃから後々奮起するかものぅ」
今はシウト国内乱があるのでそれぞれ役割を果たしている最中。が……全てが落ち着いた時にエイルへの対抗意識が芽生えるのは確実だ。
特にマーナはエイルと張り合っている部分があるとメトラペトラはいう。それが良い結果となれば良いのだが……。
「で、問題はホオズキじゃ。アヤツ、半精霊化したぞよ?」
「………。は!?え?う、嘘だぁ……」
「本当じゃ。のぅ?フェルミナよ?」
「ええ。本当ですよ、ライさん?」
「………。な、何ですとぉぉ━━━っ!?」
流石のライも白目である。そもそもホオズキは同居人の中では最も訓練時間が少ない筈。それが半精霊化ともなれば尋常な才能ではない。
「ま、まさかホオズキちゃんが……」
「トンデモナイ天才じゃった訳じゃな。ラカンの奴、知っていて隠して居ったのやもしれんが……恐らくはコハクの影響じゃろう」
存在特性 《共感》を使えるホオズキは、魔物達との感覚共有を行える。その経験が霊獣コハクとの結び付きを更に強くした可能性が高い。
そしてコハクは魔力体にもなれる霊獣……その感覚をホオズキは無意識に覚えたのかもしれない。魔法の習得が順調なのもコハクの概念力 《千変万化》かあらゆる概念力を模倣できるからではないかとメトラペトラは肩を竦めた。
「その内、いきなり精霊化するかものぅ……」
「ハ……ハハ……」
「あ、そうじゃった。そう言えばランカも【御魂宿し】になっとったのぅ。アレには流石のワシも驚いたぞよ?」
「……………」
ライ、遂に白目!
知らぬ間に実力を伸ばしていた同居人達……、それはライの幸運が関わっているとはいえ、やはり驚くべき事態なのである。
しかし──ライの驚愕はまだ終わらない……。
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