第七部 第五章 第十話 神衣の重要性
新たな魔物三十体との戦いに単身で挑むライ。その様子にエイルは自らも参戦を希望する。
しかし……ベルフラガはその行動を制止した。
「何でだよ、ベルフラガ?」
「ライが単身で挑んだのは貴女方を危険に晒さない為ですよ」
「小型魔獣程度の相手ならあたしの相手じゃないぞ?」
エイルの言葉にベルフラガは小さく首を振った。
「エイル……貴女は存在特性が使えるのですか?」
「いや……使えないけどさ」
「存在特性はとても厄介なのですよ。纏装や魔法では防げない場合も多く、しかも相性まである。ライは自らの存在特性を使える以外にも波動という力も使える……この差は大きい」
「存在特性って概念力のことだろ?それならコウの力があるぞ?」
「コウの力は【物理】系でしょう?【因果】や【精神】系統とは相性が良くない可能性もあります」
「??」
エイルは聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「フム……丁度良い機会ですね。少し存在特性についての知識を教えます。アービン……貴方も戦闘を見ながら聞きなさい」
「それは……難しいですね」
「これも修行ですよ」
ベルフラガは先ず存在特性の種類についての説明を始める。
存在特性は大きく分けて【物理】【精神】【情報】【空間】【因果】の五種。後に挙げたもの程高位の力になるが、それが全てではない。
「存在特性は相性──こればかりは単純な法則はありません。何故なら、その力の種類は驚くほど多彩ですからね……」
例えばベルフラガの存在特性、『空間内魔力情報改編』は【空間】が基でありながら【情報】が含まれる複合型。ホオズキの『共感』の場合は、【情報】と【精神】が複合しているが戦闘特化ではない。
ライの師の一人である華月神鳴流師範、カヅキ・リクウの存在特性は【無空】──接近のみの【空間】転移というアンバランスなものである。
原則的には生まれ持ったものが生涯の存在特性とされるが、稀に変化し能力が進化する記録もあるとベルフラガは述べた。
「それならフェルミナとかの大聖霊はどうなんだよ?」
「私達の概念力は根源の力なの。だから特化はしているけど元は同じ【創世】なのよ?」
【創世】は世界を構築する力──それを分けた大聖霊は【創世】の性質を維持しつつ何かに特化させている。生命という概念全てに干渉できる幅の広さは通常の概念力では有り得ない話なのだ。
「概念力は色々な縛りがあるのですよ。距離や効果、それに質と量、時間……。そもそも概念とは世界の法則。そこに触れ力を引き出すのが存在特性です。当然、使用できる者は稀になります」
「じゃあ、ディルナーチの民はどうなんだよ?」
「あれは『異世界渡り』の副産物ですよ」
異世界から渡ってきたディルナーチの民は、事象の地平線を越える際にその世界に適応するよう変化が起きた。つまり、ロウド世界の概念に触れたので存在特性に覚醒し易くなった。
それは魔力の無い世界から渡ってきた者達の必然でもあった。今は代を重ねロウド世界に馴染んだ為に存在特性に覚醒する者は減少したものの、血の濃い王族は使用できる者が多い傾向にある。
「さて……今回ライに任せる理由は判りますか、アービン?」
「複数の存在特性が相手では我々では荷が重い……ですか?」
「正解です。対多数の存在特性との戦いはロウド世界の者にとって未知なのです。一個体一つである以上、一対一ならば『能力の一つ』として相手を出来ますがね……。多数相手ができるのは私やライ……あとはディルナーチの民くらいだと思いますよ」
存在特性は魔法より上位の力。種類によっては非常に厄介なものとなる。対抗するにはやはり存在特性、膨大な魔力、若しくは超常たる肉体を必要とするだろう。
或いは『御魂宿し』や『竜鱗装甲』ならば渡り合えるかもしれないが、数種となると不安が残る……故にライは先行し排除に向かったのだ。
「今までの説明も踏まえてライの戦いを見ていてください。ライの存在特性は幸運──【因果】干渉系です。大概のものには対抗できるでしょうからね」
必要ならば自分も出る──そんなベルフラガの言葉に、一同はほんの少しだけライの戦いが見やすい位置まで移動し見守ることになった。
そして、先行したライは……存外な苦戦を強いられていた。
(やっり辛っ!?まさか、こんなに……)
確かに、数の上では魔物の方が有利である。分身一人辺り三体と対峙したが、それでも戦闘力ではライが勝っていた筈だった。
その有利を崩したのはやはり存在特性──魔物は連携を以て能力を駆使してきたのである。
先ずは分身の一人の視点へ──。
「お~い!俺はお前らの御主人様と話がしたいだけなんだ。通してくれないか~?」
ほぼ全ての分身が同時に呼び掛けたその言葉は魔物の攻撃により虚しく掻き消された。
最初は魔法による遠隔攻撃。神格魔法ではなく通常の雷撃魔法……分身はそれを難なく吸収する。
「戦うつもり満々かよ……。仕方無い」
戦闘体制に移行したライは最初の魔物へと迫る。外見は全て同じなので区別が付かない……そこで間近な魔物へと迫ったのだが……。
「ぐっ!?」
突如発生した見えない壁に阻まれたライ(分身)は顔を激突させ停止した。
「クソッ!魔法……じゃないな?いきなり存在特性かよ!」
見えない壁に向かい思いきり殴る。すると、衝撃の末砕ける感触が伝わった。
「それ程強固な壁じゃない……けど」
恐らく壁は複数展開できる。打ち砕くのは簡単とはいえ、巧く使われるとかなり厄介……ライは直感でそう感じた。
しかし、攻めねば何も始まらない。そのまま攻撃を続けるつもりで再度魔物へと近付くのだが……。
「ぐあっ!?」
今度は背後からの纏装斬撃……幸い纏装を常時展開しているライにはダメージは無い。慌てて周囲を確認すると半透明の魔物が姿を現した。
「『透明な壁』の次は『自身の透明化』か……。それにしても、存在特性をいきなりこんなに使い熟せるの?俺の苦労は一体……」
森の中という環境とは非常に相性が良い透明化の存在特性。魔物達は己の能力を理解し存分に使用してくる。
「常道ならもう一体は寧ろ目立つ役割なんだけど、裏をかいて全部透明系だったりして……魔物の知能が上がっているから何とも言えないな」
そう呟くや否や森の木々が枝を伸ばしライを捕らえようとする。
「植物操作?いや……これは魔法……?もう一体は何処に……」
感知纏装を拡大し捉えたのは地下。どうやら地下に潜る存在特性らしいと気付いたライは、地に朋竜剣を突き刺し創造魔法効果を発動──《物質変換》を行う。土を岩へと変換させたが、どうやらそれすら透過しつつ地中を移動している様だ。
「むむむ……次から次へと……。良し!そういうことならちょっと本気出す!」
ライは最近アトラにも実装した特殊魔法 《共魂身転換》を神具効果として使用し、分身と本体を入れ替えた。
「さて……加減が難しいけど我慢してくれよ?」
近場に居る分身達を退避させライが発動したのは、大地魔法……但し、只の魔法ではない。
【波動魔法 ・《封印隆起塔》】
地中の土を隆起させ岩山を生み出す魔法は、《岩槍》という大地魔法を基礎に封印術を加えたオリジナル。それを波動魔法として使うことで、大地は捻れながら上へと伸びて行く。
地中の土のみならず近くの樹々、そして魔物さえも巻き込み森から大きく突き出た岩山は、やがて黒く固まり停止した。
結果、八体程の魔物は岩山に封印されることとなる。
「うわぁ~……デカくしすぎっちった。やっぱり加減がムズいな、波動魔法は……。でも」
波動魔法ならばこの異空間にても発動が可能という仮定は正しかった。それに存在特性でも防ぎきれないという狙いも……。更には封印式を混ぜたことで再創生を防げるだろうかという試しも兼ねたものだが、そちらも上手くいったらしい。
「フムフム。封印しちまえば再創生は出来ない訳ね。といっても波動魔法だから封印できたのか?」
不馴れと負担故に乱発は出来ない波動魔法……魔物全てを封じるのは、あまり現実的ではない。
「となると……別の封印を試してみるか。朋竜剣の神格魔法属性ならギリギリ行けるかもしれない……。そうと決まれば、先ず魔物の居場所を把握しないとね」
額のチャクラによる《千里眼》発動。魔物の位置を把握した状態でライは次なる手を試そうとした。
その時──ライの頭の中で警鐘が鳴った。
これまで培ってきた戦闘の勘。更には威圧や空気の流れ等理由は様々だが、自らの心に従い自然と身体を動かしていた。
反射的に飛び退いた瞬間……ソレがライが居た位置に突き刺さる。金色に光る大きな円錐形の杭は表面に黒い紋様が描かれていた。それを視認した瞬間、爆発が起こりライを吹き飛ばす。
「ぐおっ……!?」
ライは吹き飛ばされつつ体勢を立て直す。
「アトラ。今のはマリーと同じ……?」
『はい。魔力物質です』
マリアンヌの半精霊化能力の一つ『魔力の物質化』──。先程射出されたのはそれと同様のもの。勿論、魔物の能力で間違いないだろう。
物質化された金属はエネルギーの塊。しかも圧縮魔力でもあるので纏装の防御を貫く可能性もある。この存在特性はかなり攻撃性が高い。
「マリーみたいに魔法展開とかがあると厄介だな……」
『現時点では何とも言えません。ですが、恐らくそこまでの多様性は無いと思われます』
「理由は?」
『魔物では霊位格が低いですから』
「成る程ね」
マリアンヌの様に多様性を扱うには魔物では能力が足りないというのがアトラの分析だ。具体的には『魔力物質化』『遠隔操作』『魔法式連携』といった情報を同時に処理できる程の精神力を持っていないということらしい。
故に魔力物質の射出のみが存在特性の可能性が高い。
もし【魔力物質操作】という能力でマリアンヌと同等の力を宿していた場合、存在力の疲弊により一、二度で行動不能となる筈だとアトラは考察した。
「……結局大きい能力は扱うのには器と努力が必要で、生まれたばかりの魔物には荷が重い訳ね」
『そうです。ですが、存在特性は自ら選択できるものでも無いでしょう』
「確かに……」
魔物の中には戦闘向け存在特性を持たぬものも居ると思われる。最初に封印された中にもそういった個体が混じっていても不思議ではない。
「……となれば、射出してくるヤツを特定して無力化すれば良い訳か」
『主。あまり波動魔法は使用しない方が良いと思われます』
「ん……?」
『波動魔法は負担が大きい筈ですよ?現に……』
展開していた十体の分身の内二体がいつの間にか消えているとアトラは指摘した。
ライは自分でそれに気付かなかったらしく、かなり驚いている。
「マジか……」
『波動魔法の構築に集中しているので、分身維持の意識領域も使用していたことに気付かなかった様ですね』
「うむむ……」
『数を相手にするならば分身の方が効率が良いでしょう。何故なら……』
「存在特性は感知できないから……だよな。分かってる」
そう……存在特性最大の特長。それは知覚できないことである。発動も展開も、種類によっては全く見ることも感じることもできずに受けてしまうのだ。
それを概念力で防ぐにも確実性がない。相性があると言われているのはまさにその点を意味しているのである。
唯一の例外が【
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