第七部 第四章 第十五話 因縁の果てに得たもの
ライとベルフラガの戦いは終わりを迎えた──。
空から落下するベルフラガを支えたライは、全ての戦闘体制を解除。竜鱗装甲との融合は解け、アトラは朋竜剣と共にペンダントに戻った。小太刀は既に鞘に納められている。
「アンタは本っ当に怖いなぁ……。特に最後のヤツは冗談抜きでヤバかった……」
「ですが、破られてしまいましたね」
「いや……ア、アレ躱したら周囲が大惨事だからね?」
ライが張った空間結界など瞬時に撃ち破られただろう創世魔法……流石のライも冷や汗と動悸がまだ止まらない。
だが、ベルフラガはククッと笑う。
「大丈夫ですよ。結界内を越えたら霧散するようにしていましたから……。私の大切なテレサも近くの街にいるのでね」
「………。そういうことは言ってよ……それなら転移で躱したのに」
「いいえ……知っていても貴方は多分そうしなかった。実際にもそうでしょう?撃ち破ってみせることで貴方は私の
「……まぁ……ね」
光の漂う中を下降し着地したと同時、ライが展開した時空間結界も崩れ去る。
大地に座り込んだ二人の元に近付いたリーファムは、腰の小物入れから瓶を取り出しそれぞれに投げて渡した。
「なんですか、コレ?」
「回復薬よ。それも凄い強力なヤツ……貴重なんだから後で対価を要求するわよ?」
「アハハ~……はい……」
「冗談よ。何だかんだと、あなたからは対価を越えたものを貰っているしね」
リーファムの魔導騎士・焔とその装備、そして現在開発中のリーファム用竜鱗装甲は、到底回復薬一つ二つでは埋め合わせできるものではない。
だが、ライはその件に関し苦笑いで答える。
「今度は同居人になるんですからその辺りは……」
「でも、流石に……」
「家族からはお金とれないでしょ?支え合いですよ、支え合い」
「全く……あなたって子は……」
呆れるようにライを見るリーファム。そんな様子にベルフラガはふと思い出した様に語る。
「そう言えばあなたの島を沈めてしまいましたね……。これは何かで償いをしないと……」
「そうね。でも、あなたが原因ではあるけど島は私が自分で沈めたようなものだし……」
ベリドの出現は結果としてリーファムの島『四季島』を沈めたことに繋がる。が……それを選択し弟子に命じたのはリーファム自身である。賠償となってもバランスが難しいところだ。
「その辺りは追々話し合いましょうか。私はあなたの魔法知識も欲しいところよ」
「そうですね。私としても火葬の魔女には色々聞きたいこともあるので……」
魔導師二人は計算づくな表情でニタリと笑う。こんな状況でも知識欲と対価……魔導師、恐るべし。
「それにしても、貴方の最後の力──あれはもしや【破壊者】の力ですか?」
「いや……う~ん……そうであってそうでないんだけど、説明が難しいな」
「……?」
「【破壊者】が使ってたのは【神衣】って言って神格に至る纏装?みたいな力なんだ。できるならアンタにも修得して欲しいと思っている」
ライは破壊者バベルと神衣、そして波動魔法の修得に至るまでの流れを簡略的に説明。ベルフラガは黙って聞いている。
「……。デミオス……闘神の眷属神の話では、これから間も無く闘神が復活する。その際、闘神の配下が軍勢でやってくる可能性が高い。だから備えが……世界の団結が必要なんだ。アンタには改めて力を貸して欲しい」
「………。あなたは本当に『真なる神』に勝てると思っているのですか?」
「勝つよ……そうじゃないと全て失う。と言っても、闘神が話が分かる相手ならその必要も無いんだけど……無理だろうなぁ……」
何故、闘神が来訪したのか……その理由は未だ分からない。しかし、異世界にて封じられ三百年──真なる神がそれを屈辱と考えぬというのは
「どうやらバベルは三百年前から色々と動いていたらしくてさ?」
「その一つが【破壊者】という訳ですか……まさか魔法式とは」
「他にも未来視で予見していた神様がいたっぽいよ……俺の剣の大師匠が依頼されて編み出されたのが、あの剣技・天網斬り」
ベルフラガは思った……。まるでロウド世界が一つの流れに向かっているかの様だ、と。
「……。ともかく、私はテレサさえ救われれば良い。その後は貴方に従いましょう」
「それなんだけど、テレサさんは約束通り助けるし、闘神と戦う為に力を貸して欲しいとは思う。でも、それは強制じゃなくアンタの意思でやって貰いたい」
「つまり、自由意思にして良いと……?逃げるかもしれませんよ?最悪、闘神側に寝返ることだって……」
「今のアンタならロウド世界の弱者には手を出さないだろ?少なくとも闘神が復活するまではロウド世界の味方として動いてくれる……ってのは俺の思い違いかな?」
「…………」
脅威が一つ減れば闘神との戦いの準備はかなり捗る。それだけでも大きな意味がある。
勿論、力になって貰えれば尚助かるとライは苦笑いで告げた。
ベルフラガは……盛大に笑い始めた。
「フッ……ハッハッハッハ!参りましたね……あれだけの戦いの後に私を放置という選択をするとは……。
「間違いなく後者ね。この子はロウド世界一のお人好しなの。私が保証するわよ?」
「フフッ……。……。貴方がもっと早く私の前に現れていたなら……いや、仮定の話に意味はないですね。良いでしょう……私は私の意思で貴方の助けになりましょう。改めてそうしたくなりました」
「ありがとう、ベルフラガ」
ライが突き出した拳にベルフラガは自らの拳を当てた。男の戦いには確実に意味があった……リーファムは少し羨ましそうにその光景を眺めている。
「さて……これでベルフラガも俺の仲間になった。手を出すなよ、アムド?」
「?……誰に話をしているのですか?」
「ちょっと『ロウド世界のラスボス』さんに忠告をね……。盗み聞き得意みたいだから」
恐らく魔王アムドもこの状況を見ている筈……ライはアムドがベルフラガに干渉しないよう念の為に釘を指しておいた。
ベルフラガは程無く知るだろう。今のロウド世界の勢力と状況を……。
「残るはベルフラガの脅威指定解除だな。え~っと……」
念話を使用した神聖国家エクレトルへの報告。相手は当然……。
「アスラバルスさん、聞こえますか?」
『ライか……どうした?』
「実は……」
全ての事情をアスラバルスに伝えベルフラガの脅威指定解除を依頼。対するアスラバルスの返答は少し待って欲しいとのことだ。
『流石の貴公の言葉でも今回は即答はできぬな』
「あ~……今の俺の立場、良くないですからね。それに牢にいることになってるんだった……」
『それもあるが、ベリドによる脅威は当人のみのものではないのでな……。だが、脅威指定解除までの猶予期間としてベルフラガへの干渉は行わなず監視とするように手配しよう』
「それだけでも助かりますよ。それと、ベルフラガには幾つか成果を出して貰うつもりなので解除の参考に」
『わかった。……。ライよ……無理はしておらぬか?』
「まぁ……何とか無事ですよ」
『ならば良い……では、またな』
アスラバルスは口にしなかったが、エクレトルも一枚岩ではない。それでも最大の配慮をしてくれたアスラバルスの心遣いに、ライは内心で感謝する。
「……。悪い、ベルフラガ。幾つかやって貰うことができた」
「わかりました」
「そ、即答?」
「私の立場を悪くしない為のものなのでしょう?ならば問題はありませんよ。それで……何をすれば良いのです?」
「ベルフラガは《物質変換》の神格魔法って使える?」
「変換するものに限りはありますがね」
「紫穏石は?」
「その程度なら可能です」
「良し……それなら助かる」
地下から迫る魔獣アバドン対策として紫穏石を用意するにも限界がある。わざわざ地下に埋めるのも一苦労なのだ。
ならば神格魔法である《物質変換》で地下を変化させるのが有効……。
とはいえ、ロウド世界中の大地となれば膨大な労力だ。《物質変換》を使える者も限定されるので、ベルフラガの助けはかなり有り難い。
そしてそれを為せばロウドの国々の防衛に大きく貢献することになり、ベルフラガにとっても幾分かの償いになる筈……。同時に立場の回復に繋がれば良いとライは考えた。
「……それじゃフェルミナに連絡するか」
大聖霊紋章を通じた念話を用いフェルミナとの対話を図るライは、同時に所在位置も把握した……のだが……。
「ん……?カジームじゃない?フェルミナ、聞こえる?」
『……ライさん!どうしたんですか?』
「フェルミナに頼みがあったんだけど……その前に今、カジームじゃないよね?何かあったの?」
『はい……実はエイルさんが……』
事情を聞いたライは少々驚きの表情になった。
闘神の脅威への備えと考え行動を始めていたライは、エクレトルにて開かれた勇者会議の場でアービン・ベルザーと出会った。
世界の敵という疑いを掛けられた後は、イルーガと繋がりがあると思われる魔王アムドを捜し始め、その後マーナ達から連絡を受けベルフラガとの決着と相成った。
そして今度は、トルトポーリスの魔人──その全てがレフ族絡み。流石に何か運命的なものを感じざるを得ない。
『……ライさん?』
「あ、ああ……悪い、フェルミナ。……。もうその魔人と接触した?」
『いえ、今着いたばかりなので……』
「そうか……今から俺も行くから待ってて貰えないかな?」
『ライさんが来てくれるんですか?』
「うん……ちょっと気になることがあるんだ。また直ぐに連絡するから待っててくれる?」
『わかりました。皆さんにも伝えます』
念話を切りチラリとベルフラガに視線を向けたライ。本来なら一刻も早くベルフラガの願いを叶えたいのだが……どうやらそうはいかないらしい。
「……何かありましたか?」
「悪い、ベルフラガ。先に片付けたい問題ができた。少しだけ待って貰える?」
「良ければ事情を聞かせて下さい」
「……そうだな。レフ族の血縁としての意見を聞きたいし」
ライはフェルミナから聞いた話をそのまま話した。トルトポーリスには魔人……いや、魔人以上の存在になったレフ族が居る可能性がある……と。
「ベルフラガは何か知らないか?」
「いいえ……。ですが……今の話から察するに、その魔人がレフ族ならばアステとトシューラに恨みを持つ者でしょうね」
ベルフラガの推測では、三百年前に行方不明となったレフ族の少年ヒイロで間違いないだろうとのことだ。
「根拠は何かしら?」
「単純な話ですよ、リーファム・パトネグラム。レフ族は情が深い」
「……どういうこと?」
「情が深すぎる故に大切な相手の為ならば暴走するんですよ」
「……………」
確かに、レフ族はその情の深さ故に度を越えた行動をすることがある。
兄を殺されたエイルは、【魔人転生】の禁忌に手を出し魔王となった。フローラは転移神具を盗んでまでナッツとベリーズの親を捜しに向かいトシューラ国に捕らわれた。
ベルフラガの母ソフィーマイヤは、同族の為に他国に助力を求める危険な一人旅を敢行しベルザー家に保護される結果となる。
そして……ベルフラガ自身も恋人テレサの為に外道となることも厭わなかった……。
そんなベルフラガだからこそ……何か感じるものがあるのだろう。
「ヒイロという方ならば『裏切られた』という言葉の辻褄が合いますからね……。可能性としてトシューラやアステのことを指していると見るべきでしょう。私の母から昔聞いた話では、トシューラ・アステの二国は友好を装いカジームに入国し侵略を始めたらしいですよ」
「でも、ヒイロは当時子供よ?それが三百年も……」
「だからこその情の深さと暴走なのですよ。まぁ現時点では飽くまで推察の範囲を越えませんがね」
そこでベルフラガは少し沈黙し思案。一つの提案を行う。
「ライ・フェンリーヴ。私もトルトポーリスに同行しましょう」
「ライで良いよ。……でも、本当に良いのか?テレサさんの傍に居た方が……」
「時空間魔法で時を止めていますからね。それに、トルトポーリスの魔人が本当にレフ族なら救ってやりたい……と、私が言ったら笑いますか?」
「笑う訳ないだろ。そういうことなら是非頼む」
ベルフラガ……いや、ベリドがレフ族に手を出さなかったのは同族愛からなのだろう。今回も恐らくは……。
こうしてライは、ベルフラガと共にトルトポーリスへ向かうことに決まった。
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