第六部 第九章 第七話 ドエロ勇者と腹黒商人、そして姐御
ノルグーのカジノにて女ギャンブラー・ヴァネッサを打ち負かしたライとティム。
しかし……打ち負かした手法は『アホの子』『エロ妄想』という相変わらず勇者からかけ離れた手法だった……。
そんな『エロ勇者』と『腹黒商人』コンビ。今回カジノに来たのはライの休暇を楽しむ為……その目的である『大人の秘密箱』は見事手に入れることに成功した。
勿論、その過程に於いてライは物凄く必死だった訳だが……その様子には敢えて触れまい。
「や、やったぞ、ティム……。俺は……遂に手に入れた!」
まるで伝説の剣でも手に入れたかの様なライの凛々しい顔。
しかし、その手に握られている紙の包み……その中身がエロアイテム一式であることを忘れてはならない。
「やったな、ライ……お前はもう何処に出しても恥ずかしくないドエロ勇者だ」
「ああ!やったよ、ティム!俺も遂にドエロ勇者に………おい、ちょっと待て」
何処に出しても恥ずかしくないエロ……物凄い矛盾である。
ともかく……ライは『ドエロ勇者』の称号を手に入れた!
「ドエロて……」
「あんなに必死なのはお前くらいさ!胸を張れ!」
「………。まぁね!必死さで俺の右に出るヤツぁ居ねぇさ!」
途端、ガクリと体勢を崩したライは近くの椅子にヨロヨロと腰を下ろした。
「あれ……?お、俺っていつからこんなにエロいんだっけ?」
「俺の知る限り始めからだ。良かったな、エロ・フェンリーヴ……じゃなかった、ライ・フェンリーヴ?」
「うぉぉい!『エロ』と『ライ』、間違う要素ねぇだろが!」
ライに両肩を掴まれて揺さぶられるティムは、とても満足そうな顔だったそうな……。
「くっ!ま、まぁ良い。とにかくお宝は手に入った。後はウチでじっくり……」
「おいおい……まだ帰るなよ?言ったろ、たまにはお前と遊びに来たんだって」
「つったって、役目は終わったんだろ?早く帰ろうぜ、なぁ?なぁ、早く!早く帰ろうぜ?なぁ、なぁ?」
「…………。は、早く見たいのは分かるんだが、楽しみは後に取っとけよ」
「……。ちっ!仕方無い」
ライはしぶしぶ『大人の秘密箱』を空間収納庫の中にしまう。
「で?次はどうすんだ?」
「実は、例の『傭兵街構想』で街にカジノを作る予定なんだよ。それで参考までに見に来たんだが……何か物足りない気がするな」
「物足りない?何が?」
「ノルグーのカジノはお上品だからこれで良い。だけど、傭兵相手だとな……」
「う~ん……とはいえ勝負事だからなぁ……。景品が酒とか武器とかで良いんじゃないのか?」
「それはもう考えている。それよりも賭け事の種類──幅が欲しい」
ノルグーカジノの中をウロウロしながらアレコレと意見を出し合う二人は、魔物の闘技場に差し掛かった。
「………コイツらのお陰で竜鱗装甲手に入ったけど、出来れば戦わせたくないんだよなぁ」
「まぁな。お前の気持ちは分かるよ……魔物でも敵対しなきゃ可愛がる人も居るしな?」
「最低でも無理矢理じゃない方が良いんだよ。魔物は動物と同じなんだし……」
「う~ん……」
そんな会話の最中、ライの頭から桃色の物体が飛び下りた。
「ピーリス。どうした?」
ピーリスはプルプルと震えながら三つに分裂。ライ達の周囲を移動し始めた。
「……何だ?」
「………どうやら競走してるみたいだな。……。戦わせるんじゃなく魔物の競走をさせろって言いたいのか、ピーリス?」
ピーリスは一つに戻りライの頭に飛び乗った。そして、脳内に肯定の意が伝わる。
「つまり、魔物の競走なら怪我をさせずに済む。それに、魔物を大事に育てないと強くならない訳か……どうだ、ティム?」
「う~ん……費用とか会場を考えるとなぁ」
「じゃあ、俺の利益の中から先行投資するから試験的にやってくれないか?上手く行けばノルグーの魔物闘技場も変更されて酷い目に遭わずに済むし……」
「お前、とうとう魔物まで救うとか言うんじゃないだろうな……」
魔物は動物と同じ。人間も動物を狩っている以上、ライのソレは完全な自己満足でしかない。
しかし、ライはその自己満足を肯定した。
「他人にゃ強制できなくても、俺は魔物とも縁があるからさ?人間に近い関係にある魔物だけでも酷い目に遭わなくて済むようにはしてやりたいとは思う」
ライにとっては意思さえ伝わり共存できるなら友好を結べる対象。それはティム自身も知っている。
魔物と思っていた大聖霊アムルテリアの看病をしていたライは、実は他にも魔物を救っている。
そしてその中でも最も縁深い魔物……海王リル。その存在と関わってからは尚更魔物を狩るような真似は行わなくなった。
無論……他者にそれを強要することはないが、手が届くところは救おうとするのだ。
「はぁ~……やれやれ。問題は山積みだぜ?会場はともかく、魔物を捕まえて、育てて、慣れさせなきゃならない」
「そっちは大丈夫かな。適任者が居るし」
「適任者?」
「まぁ、それはウチに帰ってから説明するよ。それにしても……ピーリスさんは賢いねぇ。流石は我がオッパ……家族だ」
「おい。今、オッパイと言おうとし……」
「おっ?アッチに食い物売ってるぜ、ティム!メトラ師匠やアムルの土産にしよっと」
「………。逃げたな」
その後、一通りカジノを堪能したライとティム。カジノの宿の一室にて、改めて『女ギャンブラー・ヴァネッサ』との対話に臨んだ……のだが。
「イヤァァァッ!厭らしい目で見ないでぇ!」
ヴァネッサは部屋の隅で警戒していた……。
「………。お前、マジでどんな妄想見せたんだ?」
「………。ちょっ、ちょっと口では……」
「………女性にそんなものを見せるとは……鬼畜め!」
「グハッ!」
精神に10のダメージ!更に羞恥心がジワジワとダメージを与える!
「何とかしろよ、ドエロ勇者?」
「わ、分かった」
何とか近付き対話を試みるライ。しかし、ヴァネッサはネコの様に威嚇している。
「だ、大丈夫ですよ。何もしないから……」
「信用できないわ!」
「じ、じゃあ、心の中を読んでも良いから……」
「また卑猥なものを見せる気ね?この変態!」
「ブゲラッ!?」
ヴァネッサ渾身の平手打ち。ライは軽く二回程スピンした!
「ぐっ……!か、会話にすらならねぇ」
「あ~あ。仕方無いな」
「い、いや……此処は何とか誤解を……」
実際は誤解でも何でもないのだが、ライとしては流石に警戒されたままと言うのは辛いのだ。
「と、とにかく、まず礼儀として一つ……」
「何よ!」
「勝負で奪ったチップは全部返しますから……」
「…………。本当に?」
「勇者、嘘つかない!」
「勇者、股間も嘘つかない」
「うぉい、ティム!テメコノヤロウ!」
折角警戒を解こうと奮闘しているのに、邪魔をする辺りがティムらしい。
「と、とにかく、あなたの戦利品は全部返します。返しますけど、あなたは責任を問われてることだけ念頭に置いて話を聞いてくださいね?」
「責任……?」
「ズルしたでしょ、カジノで?」
「…………」
バレないと考えていただろうヴァネッサ。そんなヴァネッサもズルをしていた自覚はあるらしい。
「……さぁ?何のことかしら?」
「いやいやいやいや、しっかり俺の心の中読んだでしょうが」
「……………」
思いっきり惚け顔のヴァネッサ。
「くっ……。反省してないならノルグーの兵に突き出しますよ?そうするとチップも全部無くなる。良いんですか?」
「うっ……それは……」
「これは取引です。ズルを不問にする代わりにこちらの言い分も聞いて貰わないと」
「………。わかったわ」
ヴァネッサは諦めた。何せ稼いだチップは大金……手放した上に兵に捕まるのでは、どう考えても割に合わない。
一応の警戒を保ちながらヴァネッサはようやく話し合いを承諾した。
「………それで?」
「まず一番に、今後ノルグーのカジノでの荒稼ぎは禁止。力を使わずに楽しむのは構いませんけど」
「……わかったわ」
「次に、ズルがバレた以上罰を受けて貰います。そちらはまぁ……奉仕作業ですね」
「ま、まさか!あなたに厭らしい奉仕をさせるつもり?」
「ち、違いますよぉ?実はですね………」
ライは傭兵街構想の話を伝えた。
傭兵を纏める役はラッドリー傭兵団が引き受けてくれたが、ヴァネッサの能力は何かと都合が良さそうなのだ。
この際ヴァネッサには、街の確立の為に少しばかり貢献して貰おうと言うのがライの提案である。
「奉仕とは言いましたが報酬は出します。だろ、ティム?」
「勿論。正当な報酬と衣食住は約束する」
「どうします?」
この間、実はヴァネッサはライの心の中を読んでいた。更には記憶の一部まで……。
そしてライはそれを知りつつ敢えて抵抗しない。信用は大切なのである。
「………。わかったわ。受ける」
「良かった。じゃあ、改めて自己紹介を」
「勇者ライ……悪いけど心を読んだわ。記憶も少しね?」
「やっぱり……。ヴァネッサさんのそれは存在特性ですね?」
「ええ……私は生まれつきこの力が使えたのよ。ギャンブルに使うようになったのは最近だけどね?」
ヴァネッサの存在特性は【精神解読】──表層だけでなく深層意識まで読み解くだけでなく、記憶までも読む力がある。
ディルナーチにも滅多に存在しない程の強力な存在特性だ。
ヴァネッサはアステ国の元傭兵だったという。身体能力はそれなりに高く魔物の思考も読めるので、優秀な傭兵だったらしい。
「でも、仲間の思考も読めちゃうのよ。当時はまだ調整が出来なくて……」
「今は大丈夫なんですか?」
「鍛えたからね……。でも、仲間とは一緒に居たくなくなったから離れたのよ。それからは賭けで生計を」
心を読める故のすれ違いなどがあったのだろうが、ヴァネッサはあまり語りたくない様だ。
「………。能力は暴走とかしてないですね?」
「?……暴走?」
「存在特性は一部で暴走するんですよ。強い意思で制御出来るようになるそうですけど……」
「………う~ん。昔はあった様な気もするけど、今は無いかな?ギャンブラーになってからは制御も上手く行ってるし」
それは一人で生き抜く覚悟からのものなのだろう。ヴァネッサはそのお陰か制御を手に入れたらしい。
「それなら良かった……」
「……心配してくれる訳?」
「俺は制御が出来ずに亡くなった方を知ってるので……」
「そう……」
ライの言葉が嘘ではないことは心を読まずとも表情で判るのだろう。
こうして知り合ったこともまた縁──ヴァネッサは傭兵街構築の力になると約束してくれた。今後、彼女の能力は大いに役に立つだろう。
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