第六部 第八章 第八話 邪教の終焉
「フゥ……何とかなったな」
擬似神衣を操るプリティス司祭を打破したルーヴェストとマーナ。
ルーヴェストは【竜血化】を一時解除。マーナもそれに合わせて半精霊の力を解除した。
「しっかし……神衣ってのはこれ程かよ。本当に纏装や魔法が通じねぇとは……」
「本当にね……お陰でかなり消費しちゃったわ」
顔に疲労の様子は見せていないが、汗の量が苦戦を物語っている。
「仕方あるまい。不完全とはいえ【神衣】じゃ。本来ならば打ち破るなど叶わぬじゃろう」
「だがよ……?大聖霊二体と世界でもトップクラスの勇者二人でようやくってのは、実はとんでもねぇ危機じゃねぇのか?」
「そうじゃの……。デミオスとやらはかつての邪神の配下──神の眷族じゃった。もし他に同じ様な者が居たならばと思うと、気が気ではないわぇ……」
当時の神アローラと邪神との戦いに於いて、神の眷族が居たという話をメトラペトラは聞いたことがない。それが何を意味するかなど想像するには情報が足りない。
「……ともかくじゃ。お主らは少し休むが良い」
「嫌よ。直ぐにお兄ちゃんの元に向かって加勢を……」
「そんな状態で行っても足手纏いにしかならんぞよ?幸い……お主らにはエルドナの竜鱗装甲がある。僅かな時間で回復は叶うじゃろ」
「……。わかった。でも、ニャンコ師匠達はどうするつもり?」
「ワシらは他に役割が出来たからのぅ。ワシらが戻るまでお主らは此処で回復に勤めるんじゃ。良いな?」
アムルテリアに目配せしたメトラペトラは、辛うじて無事な階段を下って行く。
メトラペトラとアムルテリアはライが何を望んでいるか理解しているのだ。
【擬似神衣】を使うプリティス司祭達にデミオスの加勢に回られると手の付けようがなくなる。故にデミオスが油断している内に撃破するのが現状の最優先だった。
となれば、ライの憂いとして残るのは仲間の無事。マーナとルーヴェストは疲弊があろうと魔人級に引けを取ることはないだろう。
だが、この煉山内には加勢が必要な者が居ることをメトラペトラとアムルテリアは察知していた。
「……お前が率先して他者を救いに向かうとはな」
階段を滑るように駆けるアムルテリアは、皮肉を込めてメトラペトラに語り掛けた。
「それを言うならばお主もじゃろうが。お主はワシより更に他者に興味を持たなんだと記憶しておったがの?」
メトラペトラは何だかんだと知人が多い。ラカンやカグヤなどは古くからの知己で仲が悪いということも無かった。
対して、アムルテリアは知己は居るのだろうが友好的な相手かは判らない。その知己もライとその縁者を除けば久遠国・華月神鳴流開祖トキサダといったところだろう。
そもそもアムルテリアは、ランカと
それでも……ライに関わる者への態度は随分と柔らかくなったとメトラペトラは感じていた。
「私はライの為ならば動く……それだけのことだ」
「まぁ、それは基本的にワシも同じじゃからの。フェルミナは随分と変わった様じゃがな」
「………」
「っと……そんなことよりもじゃ。アヤツを早く手助けしてやらねばの……。あの時感じた気配は『星具に選ばれた者』……ということになるのじゃろうな。ならば、今後の脅威に対しての貴重な戦力になるじゃろうからの?」
そこでアムルテリアは改めて考えた。他の星具もライの仲間に加われば、今後危機が迫っても戦況は改善されるのではないのか、と……。
「メトラペトラ」
「何じゃ?」
「今、星具は幾つ確認している?」
「四つじゃな。杖二つ、鎌、鎚……残りは知らん。そもそもワシは星具など最近知ったのじゃからな」
「………」
星杖エフィトロスからの情報から絞るに、残るは剣、槍、斧、弓……。しかし……。
「お主なら判らんが、ワシでは見分けは付かぬじゃろうな。今回の『星鎌』とやらも、ちゃっかり形状を変化させ人に使われていたらしいではないかぇ?」
「……つまり、既に人の手に渡っている可能性もあると?」
「そうじゃ。しかも擬態しとると見分けが付かぬ。じゃからワシは探すのは諦めておるよ」
どうせ放置していてもライがその幸運で引き寄せるだろう……というのがメトラペトラの意見だった。
実際、ライが星具を見付けたのはほぼ偶然が重なった結果でしかない。
「考えても見よ、犬公。ライが挨拶回りとやらで歩いた時点で二本じゃぞ?ワシらが探すよりも遥かに効率が高いわ」
「それはまぁ……確かに……」
「残念なのは見付けた一本が破損していることかのぅ。お主ならもしや直せるのではないかぇ?」
アムルテリアは【物質を司る大聖霊】……神の物質である『ラール神鋼』の創造は出来ないものの、加工は行えるのだ。
破壊されたルーダはメトラペトラが空間収納で保存している。一部は月光郷の結界に使用してしまったが、核となる魔石は無事。何かの際に再利用が可能と保存していたメトラペトラの考えは無駄ではないかもしれない。
「だが、話では『悪しき杖』となっていたのだろう?」
「そうじゃな。魔王を名乗っておったが……」
エフィトロスとルーダ……二つの星杖が狂ったのは、やはり異界の神の影響だったという。その意味では他の星具も迅速な確認が必要かもしれないが、所在が分からない今はどうしようもない。
しかし、ルーダは手元にある。そして悪しき力を浄化する術もライは確立させている。
「星杖……エフィトロスを浄化出来たのじゃから、ルーダは無理ということはあるまいよ。そこはライと相談すべきやもしれぬがの」
「……。わかった。全て片付き帰国した際にでも聞いてみよう」
「そうじゃの……先ずは現状の打破じゃ。ライも苦戦の可能性が高い。早く向かわねばの……」
それから間もなく、階下で鎌を振るうマレクタルを発見。既に倒した敵は千を超えているが、マレクタルは一向に敵の数が減らない錯覚に陥っている。
その鎧は半壊し手足は血塗れ、髪を振り乱し肩で息をするマレクタルは、まさに鬼気迫るといった表情だった……。
たとえ星具に選ばれていてもマレクタルはまだ実力が足りない。故の苦戦でもあるが、純粋に敵の数が多すぎるのが最大の原因である。
だが……大聖霊達が増援に来るまでは乗り切った。この場にての勝者は間違いなくマレクタルである。
「良くやった、星鎌の勇者よ。後はワシらに任せよ」
「!……済まない。助かった!」
「行くぞよ、犬公!」
「分かってる、ニャン公!」
メトラペトラとアムルテリアは概念力を展開。激しく光るメトラペトラは自ら突進し迫る異形を片っ端から消滅させて行く。
同様にアムルテリアは、触れる端から異形の者達を砂に変えて行った。
圧倒的な力を行使し突き進む大聖霊二体は、そのまま階段下方へと姿を消した……。
「………。凄いな」
『あれが大聖霊という存在だ。神の写し身……実際は神と殆ど変わらない』
「見た目が犬と猫なのにな……」
『それを言ったら、我が姿は鎌だぞ……?』
「………プッ!アハハハ!確かにそうだな……。だが、私には至上の鎌であり最高の友だ。誇ってくれ」
『言われるまでもない』
マレクタルはようやく安堵したのか、階段の壁に身を預けゆっくりと腰を下ろした。
「…………」
『……どうした、マレクタル?』
マレクタルは少し微笑んでいる。そこには誇らしさが込められていた。
「星鎌の勇者……か。先程、大聖霊がそう呼んでくれただろう?」
『そうだな……』
「私は有名になりたかった。勿論、何か個人的な欲で利を求めていた訳じゃない。有名になれば、トゥルクの現状を打破する為の呼び掛けに応えて貰えると思ったんだ。だが、私は結局そうはなれなかった……」
しかし、今は違う。そう思うと自然と笑みが浮かぶのだ。
「ティクシー……私は遂に道を見付けたよ。今後とも宜しく頼む。もし私が道を間違える様な時は………」
『そんなことは起こらぬ。我が断言しよう。何せ我が初の契約者……起こり得る訳がない』
「………そうだな。ああ……!絶対にそんな事態になるつもりはない!」
『それでこそ星鎌の勇者・マレクタルだ。誇れ!お前こそが【星鎌の勇者】だ!』
「応っ!」
ティクシーの効果でマレクタルの体力は回復。魔力も僅かづつだが回復を始めた。
ティクシーを支えに立ち上がったマレクタルがゆっくりと階段を上り始めると、下方から騒がしい声が近付いてきた。
一瞬警戒したマレクタルであったが、聞き覚えのある声に鎌を握る手を弛める。
「全く!ワシの進行方向を塞ぐ奴が何処におるんじゃ!」
「私の進行方向に割り込んだのはお前が先だ!もう少し考えて動け!」
「ニャにを~?」
「やるのか?相手になるぞ?」
二体の大聖霊は昔から何かと張り合っていた。
ライの元に居る間は上手く仲介されていた為に諍いも起こらなかったのだが、ライが居なくなった途端にこれである。
確かに大聖霊達にはライが必要だった……。
「ん?もう動けるのかぇ?」
メトラペトラがマレクタルに気付き動きを止める。
「ティクシーのお陰で何とか……。先程の加勢、感謝します」
「うむ……お主の奮戦の隙に敵の配下を倒せたぞよ。お主も良くあの数の敵を相手に……見事じゃ」
大聖霊の加勢が加わる前にマレクタルが倒した敵の数、実に千七百超──ティクシーの一撃必殺を考慮しても最大の功労である。
「じゃが、まだ疲労は抜けぬ様じゃな。ワシが運んでやるわぇ」
そう告げたメトラペトラは『心移鏡』を展開。階上のマーナ達の元へと転移した。
但し、アムルテリアを残して……。
「…………」
アムルテリアは雄叫びを上げながら階段を駆け上る。メトラペトラに対抗して敢えて転移は使わない辺りにアムルテリアの憤慨が窺える。
こうして、邪教プリティス教はデミオスを残しその黒い歴史に幕を下ろした。
しかし、それらは皆デミオスの操り人形に過ぎない。たとえ邪教が世界から消えても、真なる敵デミオスを倒さねば戦いは終わらない。
そして遂に……デミオスとライの最終決戦へと視点は移るのだ──。
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