第六部 第七章 第二十四話 超巨大魔獣討伐作戦②


 超巨大魔術を倒す為に行動を始めた七名の実力者達。魔獣を操っているだろう魔術師を討伐することで皆の意見は固まった。


「となると、魔術師を捜さなくちゃならないですね……さて、どうしますか?」

「それは私にお任せ下さい、イグナース様」

「トウカさん……何か手があるんですか?」

「はい。こちらを使いましょう」


 トウカは懐から方術札の束を取り出した。


 ライと共に学んだ『方術』を殆ど修得したトウカ。ディルナーチの方術は探索や罠といった術に優れている。術の系統が違う故か魔術による妨害も殆ど影響を受けず、しかも魔力消費も少ない。

 ライの手伝いの一貫で修得した方術だが、この場に於いてそれが役に立つことにトウカも学んだ甲斐があったと嬉しそうだ。


「取り敢えず札の反応で人数を把握します。その後札が魔術師の元へと向かいますので、それを追って下さい」

『わかったわ。相手が離れた位置に複数居る場合はどうする?』


 ファイレイの判断は各個の判断に任せる旨を提案、全員了承した。

 これだけの実力者揃いであれば連携にしても単独戦闘にしても十分熟せるだろう。


「そろそろ魔獣の魔力充填が終わり放出があるかもしれません。それまでに魔獣を操る魔術師を倒し、光線放出の際に口を塞ぎ暴発させる。宜しいですね?」

「ああ。やろう、ファイレイ」

『マリアンヌ達の邪魔はさせないわ』

「お願いします、トウカさん」

「お任せを」


 トウカが方術詠唱を行ない札に触れると五枚の札が反応。方術札は一斉に飛び去った。

 シルヴィーネルがそれを追跡。方角は同じ……つまり、五人の魔術師は一ヶ所に固まっているとみて間違いない。


 数の上では有利……しかし、今後を考えるとあまり疲弊をする訳には行かない。ここは一気に仕掛け殲滅したいところだ。


「シルヴィさんはなるべく温存して下さい。魔術師は俺達が倒しますから」

『それは助かるけど、大丈夫なの?』

「露払いくらいしないと修行をしてくれたライさんに合わせる顔がありませんよ」


 苦笑いしているイグナース。ライの不在を埋めようとする若き騎士の意気込みにシルヴィーネルは感心している。


『そうね。……。全く……あの『プラっと勇者』はどこをほっつき歩いてるのかしら……』

「きっと今頃慌てて向かっている……ボクはそんな気がするよ」

『ランカの言う通りかもね……。それなら、ライが来る前にこの魔獣を片付けてアタシ達の実力を見せ付けてやるわよ!』


 シルヴィーネルが方術札を追った先は魔獣の首の付根。ゴツゴツとした皮膚しか見えないが、方術札は其処を旋回している。

 全員、【流捉】にて札が旋回している空間を確認。そこには五人分の魔力の流れが見える。


「お見事です、トウカ殿」

「ありがとうございます、マレクタル様」

「さて……一気に行こうか」


 シルヴィーネルの背から全員飛び降りるとほぼ同時……魔術師達は隠形の術を解き交戦状態へと移行。

 戦いの最初の一撃はシルヴィーネルによる上空からの支援攻撃だった。


 シルヴィーネルの装備神具は二つ──。


 一つはラジック製の籠手。トゥルク遠征前に更なる改良を行なったものだ。これは人型の際の装備として腕輪型神具に空間収納されている。


 そしてもう一つ……竜の姿で使えるエルドナ製の新装備。


 翼の部分に装着されたそれは射撃型。ディルナーチ大陸で改良を加えた『精霊銃』──メトラペトラがエルドナに齎したその知識を元に開発した上空支援攻撃神具【魔槍銃】。


 奇しくもプリティス教本山から放たれた『魔神の槍』と類似した構造だが、それよりも遥かに汎用性が高い。

 属性変化、支援魔法、回復魔法の射出も行えるそれは、意識に連動して自在に扱える。


 シルヴィーネルは二門の銃口から《雷蛇弓》を放った後、上空を旋回。様子を見守りつつ温存している。



 魔獣の体表上では、シルヴィーネルの支援である《雷蛇弓》がプリティス教司祭二名に炸裂。前線に出ていた異形の司祭達と違い人のままの司祭達は、マレクタル、アーネスト両名により難なく撃破された。


「破ぁぁぁ━━っ!」


 イグナースは覇王纏衣を展開しつつ刃に《炎焦鞭》を巻き付け突きを放つ。プリティス司祭の一人は腹部を貫かれ炎上し息絶えた……。


 イグナースがライに仕込まれたのは、魔法の有効活用をしながらも消費を抑えること。圧縮魔法は扱いこそ難しいが、修得すれば少ない魔力で高い威力が出せる。


 結果としてイグナースは魔法の苦手意識を克服した。


「もう一丁だ!」


 剣に巻き付けていた炎の鞭を解き横凪ぎに払えば、離れた位置のプリティス司祭が胴を両断され燃え尽きる。


 その間、トウカは《天網斬り》を行ないプリティス司祭の魔法を全て両断。無効化に努めた。



 最後の司祭が何かを飲み込み異形への変化を始めたが、時既に遅し。実力者達に囲まれた司祭は変化を始める前にあっさりと討ち果たされた。


「ランカさん!」

「わかってる」


 ランカは自らの元に皆が集まったのを確認し、即座に転移魔法を発動──全員で脱出を図る。

 一同が魔獣の身体から離脱しシルヴィーネルの背に戻ったとほぼ同時……魔獣は咆哮を上げ激しく尻尾を振り回し始めた。


 薙ぎ倒される木々。大地を踏み割る足……予想通り、制御を失った魔獣は激しく暴れ始めた。


『さて……ここからが正念場ね。皆は下がってて』

「私達も手伝います」

『ファイレイ……私はドラゴンよ?あの光線を受けても即死はしないわ。でも、皆は違うでしょ?』

「しかし……」

『大丈夫よ。まだあなた達の仕事はあるから。恐らく暴発させても倒しきれないから仕留めるのは任せるわ』

「でも……」


 そんなファイレイの肩に手を置いたのはランカだった。


「ファイレイ。シルヴィに任せよう」

「ランカさん……」


 これ以上は寧ろ足手纏いになる……ファイレイもそれは理解していた。


「………。わかりました。気を付けて下さいね、シルヴィさん」

『ええ……分かってるわ』


 ランカの転移により全員離脱──したかに思われたが、一人だけ人影が残されていた。トウカは決意の瞳でシルヴィーネルの背に触れた。


『トウカ………』

「済みません……。でも、私も怒っているのです。大事な友人を……家族を傷付けられて黙っている程、私は大人ではありません」

『フフッ……そうね。じゃあ、二人で』

「はい!シルヴィ様!」


 魔獣に光線を放たせる為には付かず離れずの位置で攻撃を続ける必要がある。『魔槍銃』での遠距離攻撃で魔獣の顔付近を攻撃しているが、傷は直ぐに回復してしまう。


『もう少し怒らせないと駄目かな?深傷を負わせれば……』

「お任せ下さい」


 トウカは抜刀した大太刀を高く掲げる。


 ディルナーチの宝刀【覇竜はりゅう御雷刀みかづちとう】──その名の通り覇竜王の力を宿した刀。


 数多の天雷が降り注ぎ御雷刀へと蓄積。展開された巨大なプラズマの刃が鈍い振動音を立てている。

 トウカはそれを華月神鳴流の技に乗せて放つ。



 華月神鳴流・《流刃瀑布りゅうじんばくふ


 壮大な滝の如く真っ直ぐに振り下ろされる雷光の剛刃は、片側の鰐の頭を三分の一程まで斬り裂いた。


『……。実はトウカ一人でも倒せるんじゃないの?』

「流石に無理だと思いますよ。今のは御雷刀の力を乗せたから出来ましたが溜めが必要なので……。シルヴィ様の機動力があればこそです。それに、この魔獣は頭を落としても死なないのでは?」

『確かにね……ん?魔獣が……』


 渾身の一撃を受けた魔獣は再生と同時に皮膚が変化を始める。先程よりも明らかに質感が硬い。


 更に……。


「魔獣の身体から何か出て来ました」

『小型の鳥型魔獣?凄い数よ?これは厄介ね……』

「大丈夫です」


 トウカは再び雷を刃に落とした後、高速言語による魔法詠唱を行った。

 刃に宿したのは炎の鳥──最上位火炎圧縮魔法 《金烏滅己》。天才であるトウカは既に幾つかの圧縮魔法をライから伝授されていた。


 炎と雷を纏った鳥はやがて形を変え龍の様な形状へと変化し御雷刀から伸びて行く。


『……やっぱり、トウカ一人で倒せそうよ?』

「もう、シルヴィさん。冗談ばかりだと怒りますよ?」

(割と本気で言ってるんだけど………)


 トウカが刃で宙を払うと炎雷を纏った龍が暴れ回る。小型魔獣の殆どは龍に触れた途端に炭と化し塵が落ちて行く。


 複合魔法剣・《天龍乱舞てんりゅうらんぶ


 大型魔獣が放った小型魔獣は尽く消滅し、更に炎雷の龍は超巨大魔獣の脇腹へ深々と食い込んだ。


『………』

「ど、どうしました?」


 恐らく、本当にトウカ一人で倒せるのではないか……シルヴィーネルは本気でそう思ってしまう光景だった。


『い、いいえ。何でも無いわ……。それより……』

「はい。光線が来ます」

『しっかり掴まっててね、トウカ』


 シルヴィーネルは高速飛翔し魔獣の意識を自らに向ける。更に、真上を飛翔することで光線の被害を周囲から逸らすよう配慮していた。


 やがて大型魔獣の二つの口に光が集まるのを確認しギリギリまで降下。光線発射のタイミングに合わせてシルヴィーネルは行動を開始した。


 展開したのはシルヴィーネル当人の数十倍はあるだろう巨大な氷柱。魔獣の上下に出現したそれは限りなく透明に近く知覚が難しい。

 シルヴィーネルは氷柱を維持したまま、光線射出の瞬間に合わせて上顎と下顎を思いきり叩く。


 挟むように口を塞がれた魔獣は抵抗の意思を見せたが、シルヴィーネルは続けて大量の氷柱を魔獣の顎に打ち付ける。そして一気に氷柱を融合……氷の枷により鰐頭の一つは完全に凍り付き動きを止めた。


 これによりもう一つの頭がシルヴィーネル達に向いたが、膨大なエネルギーに対し射出口が狭い為にのどの辺りで暴発。魔獣の身体は内側から前足までもが消し飛ぶことになった……。


 当然、間近に居たシルヴィーネルとトウカも光に飲み込まれることになる。


 事前に距離を取っていたファイレイ達はシルヴィーネルとトウカの無事を祈ることしか出来ない。ランカの転移も飛翔し移動しているシルヴィーネルまでは相当な距離がある為に座標固定が出来ず、二人を迎えに行くことが出来なかった。


(………ボクが残れば良かったのか?でも……)


 暴発が予想以上の範囲に拡がった場合、皆をもう一度転移させる必要も考えシルヴィーネルから距離を置いたのだ。

 それに……シルヴィーネルは任せろと言っていた。その言葉を信じるしかない。


 徐々に光が収まり現れたのは、後半分の身体を残して崩れ落ち動かなくなった超大型魔獣。倒しきれたかは現時点では判らない。



 そして──一同の視界にシルヴィーネルとトウカの姿は見当たらなかった……。



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