第六部 第七章 第二十一話 艱難辛苦
魔獣四体という、かつて無い脅威が出現してしまったトゥルク国───。
エクレトル……そして【ロウドの盾】が介入したにも拘わらず、事態は好転しないという最悪の状況が続く。
「哈あぁぁぁ━━っ!」
魔獣三体と交戦中のマリアンヌ、マーナ、クリスティーナ。竜型の魔獣は三つの首を利用し様々な攻撃を仕掛けてくる。
特に、二つの頭が同時に攻撃を行う際が厄介だった……。
炎と氷のブレスの同時放出は 《滅光の息吹》に変化──それは劣化とはいえ消滅属性の攻撃。黒身套を以てしても少なからず影響を受けてしまう。
マリアンヌやマーナ、クリスティーナの衣装は、所々焼かれた様に消滅させられていた。
マーナは竜鱗装甲がある分まだ被害は少ないのだが、マリアンヌに至っては身体を黒身套で護られていても既に半裸状態となっている……。
更に厄介だったのがその再生力。
大型魔獣の例に漏れず三頭竜型魔獣は超再生の能力を保有している。マリアンヌやマーナは既に竜の首を二度落としているが瞬く間に再生されてしまった……。
しかも防御結界まで展開するらしく、遠距離からの魔力攻撃は無効。クリスティーナの射出する《黒螺旋》でようやく貫通しても、その堅い鱗により深傷を与えられない。
加えて、魔獣の魔力回復が異常に早い。魔力臓器の性能が高く無制限に力を使う。
「もうっ!本当に厄介ね、コイツ!」
得意の魔法が通じない為に不満げなマーナ。一撃での殲滅を行う為に【流捉】にて魔力核……つまり魔力臓器を確認すれば、二つの臓器が体内を不規則に動き回っている。流石に呆れるしかない……。
「魔力核を破壊するなら一撃じゃ駄目……しかも動き回るから攻撃を外すかもしれないって、どれだけ常識外れてんのよ!」
マーナ同様にマリアンヌとクリスティーナも魔力核を見抜いているが、現状では決め手が足りないのが本音だった……。
そこでマリアンヌは作戦変更を念話で伝える。
『このまま持久戦では私達の方が疲弊し先に力尽きてしまいます。そこで戦力を集中し一体づつの撃破に切り換えましょう』
「マリアンヌ……それでは魔獣二体が放置になってしまいます。大丈夫なのですか?」
『地上の方々から一時的に此方に戦力を割いて貰いましょう。どのみち地上の巨大魔獣を倒すには出来る限り総掛りで挑むしかありません。三頭竜型の魔獣を撃破した後で、地上魔獣の撃破が最も効率が良いのです』
「仕方無いわね……。で、誰を呼ぶの?」
『もう呼んでいます』
地上から飛翔して来たのはマレスフィとサァラだ。
「疲弊しているお二方にお願いするのは心苦しいのですが……どうか一時で良いので魔獣の相手をお願い出来ませんか?」
「わかりました……少しの間であれば持ち堪えて見せます」
「お願いします、マレスフィ様。サァラ様は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。エフィトロスにも秘策があるらしいので任せて下さい」
「頼りにしています」
マリアンヌは三頭竜型魔獣の特長と注意すべき点を二人に伝え、クリスティーナに呼び掛ける。
『現在マーナ様が戦っている魔獣を標的として討滅します。サァラ様による魔法攻撃により魔獣の一体を分断後、クリスティ様はマレスフィ様と入れ換わりで離脱をお願いします』
「わかりました」
『それと……例の力の解禁を要請します。宜しいですね?』
「でも……あれはかなり時間が掛かりますが……」
『それは私達が何とか致します』
「………。分かりました」
マレスフィとサァラに目配せして確認を取ったマリアンヌは、マーナの元へと飛翔。同時にサァラは星杖エフィトロスを高く掲げた。
「エフィトロス!」
『はい!』
呼び掛けで起こったのは空間転移陣の展開。
エフィトロスが【創造魔法】で生み出した鉱石を魔法で星の外に転送。そのまま対象に狙いを定め落とす攻撃転移魔法──《
それは、ロウドの星の外を知る【星具】だからこそ可能な固有魔法だった。
轟音を上げ迫る複数の隕石は『三頭竜型魔獣・その一』を尽く撃ち抜いたが、魔力核の同時破壊には至らず倒せない。
しかし、この場に於いては倒すことが目的ではない。星杖エフィトロスはサァラから魔力供給を受け更なる魔法を発動する。
落した鉱石は魔獣の体内の至るところに食い込んでいる。それを元に磁力展開。隕石同士を干渉させることで魔獣の動きを阻害した。
磁力魔法・《磁界網縛》
魔獣の一体は極端に動きが遅くなり踠いている。
《磁界網縛》の効果は鉱石に与えた磁力が切れるまで続く。これで時間は稼げるだろう。
同時に『三頭竜型魔獣・その二』に飛び込んだマレスフィ。サァラは更にマレスフィの身体に支援魔法各種を使用したところで自らの魔力回復に努めた。
「感謝します、サァラ殿!」
「お気を付けて!」
マレスフィは《聖天迎》へと変化。魔獣の懐へと飛び込んでいった……。
その間に集まったマリアンヌ、マーナ、クリスティーナ。クリスティーナは離れた位置で弓を構え力を溜め始めている。
「マーナ様。私達の役割はクリスティ様が技を完成させるまでの時間稼ぎと、仕留める為の最後の一撃です」
「つまり、クリスティーナに魔獣の意識を向けさせないようにしつつ力を温存するのね?」
「御理解が早くて助かります」
「クリスティーナ!人を多く救いたいなら此処が正念場よ!」
「わかりました!」
「じゃあ……行くわよ!」
今度は魔獣一体に対し二人で対処……若干だか戦いは楽になった。特にマリアンヌとマーナの連携は意外な程に上手く噛み合っている。そのまま倒すことが出来そうな勢いだが、やはりそう上手くは行かない。
『三頭竜型魔獣・その三』への猛攻は外からの一撃で妨げられた。
地上の魔獣からの大出力光線……マリアンヌが反応しマーナを庇ったが掠めた勢いで弾き飛ばされた。
「マリアンヌ!」
そのまま落下して行くマリアンヌ。それを受け止めたのはアリシアだった……。
「大丈夫ですか、マリアンヌさん!」
「うっ……はい。問題ありません」
本当に掠めただけ……それでもマリアンヌの意識を一瞬奪う威力は戦慄に値する。
同時に光線は『三頭竜型魔獣・その三』をも掠めていたので、その身体の半分が消失──。
「どういうこと、マリアンヌ?魔獣が連携している訳?」
『魔獣は本能で動いている筈です……恐らく何者かが地上の大型魔獣を操っているのでしょう。しかし、これは好機です。このままあの魔獣を倒してしまいましょう』
「そうね……確かに今なら」
『三頭竜型魔獣・その三』は体積を大きく減らし、かつ魔力臓器の一つが消失した。放置すれば魔力臓器も再生してしまうが、今ならば絶好の機会。
「お手伝いに来たのですが……不要でしたか?」
「いいえ、助かりました。アリシア様……もしあの光線が来たら防げますか?」
「多分、一度だけなら……」
「では、お願いします。私は今の内に魔獣を減らします」
そのまま一気に飛翔し魔獣の首を切り落としたマリアンヌは、刃を魔獣に突き立て《光華刃》を発動。魔獣の身体から突き出た刃が魔力核の位置を固定。
そこにマーナの渾身の一撃……。
消滅魔法剣・《
剣の切っ先に固めた消滅効果の魔力を使い飛び込むマーナの奥の手。それはメトラペトラから伝授された【消滅属性】──高い飛翔補助がある白竜鱗装甲の力も利用した光の一撃が魔獣の身体を貫き魔力核を破壊。三頭竜型魔獣は動きを止め落下。盛大な地響きがトゥルクの大地に伝わる。
「殺った?」
「はい。魔力は完全に流れが止まりました。再生の様子もありません」
「ようやく一体ね……。マリアンヌ。クリスティーナのあれはどうするの?」
「あのままサァラ様が止めた魔獣に向けて貰いましょう。マーナ様……このまま一気に」
「そうね」
動きを遅らせた『三頭竜型魔獣・その一』に対象を変更したクリスティーナの矢は、ようやく完成に至る。
「マリアンヌ!」
「クリスティ様!そのままお願いします!」
「わかりました!」
力を凝縮された矢は歪な形状へと変化。だが、その矢からは魔力を感じない。ただ妙な圧力だけが伝わっていた。
「……な、何なの、あの矢は?」
「私にも断言は出来ませんが、恐らくあれは神衣……の断片でしょう。クリスティ様も良くわからないらしいのですが」
「神衣……神格に至るってヤツね?あの矢にしか展開できないの?」
「その様です。ですが、何れは使い熟せる日が来ると思います」
マリアンヌですら解析できなかったその力は確かに【神衣】だった。
しかし神衣とは、その身に纏うことで己の存在格を引き上げる力──部分的に展開しても本来の力には遠く及ばない。
それでも……クリスティーナのその矢にはそれまでで最大の力が宿っている。マリアンヌは類似した力をライに見せて貰っていた……。
(恐らく【天網斬り】と同じ威力はあると見ますが……クリスティ様はやはり特殊)
そして放たれる歪な矢は、まるで吸い込まれる様に魔獣に向かう。しかし、一見して普通の矢……その効果をマーナは疑っていた。
だが……矢が到達した途端、魔獣は細切れにになり再度結合。それは最早、只の肉塊だった……。
但し、魔獣はまだ生きていた……その証に赤く蠢く魔力核が露出している。
生きているが弱点を露出し動けない……そんな状態をマリアンヌやマーナが見逃すことはない。
「これでぇぇ━━━っ!」
「終わりです!」
上空からマーナが……下方からマリアンヌが剥き出しの魔力核を破壊し、肉塊となった魔獣も落下。やはり大きな地響きを立てる。
魔獣二体の撃破により戦況は拮抗……しかし、【ロウドの盾】側の疲弊は確実に蓄積している。
そもそも、誰もがライの様に異常な回復力を持っている訳ではないのだ。前日の行動は戦闘こそ軽いが動き続けている状態。
そこに来て本日の連戦。消費した魔力を癒す時間が明らかに足りない。
それでも余裕を残している者は多いものの、巨大魔獣を討伐するのにどの程度労力を消費するか判らない。
そんな中でも魔獣二体を葬ったことは上出来──そう考えていた時だった……。
プリティス総本山側から三度の大出力光線……このままでは皆に当たると判断し咄嗟に前に出たのはアリシアだった。
「うっ!くうぅぅぅっ!」
「アリシア!」
「ま……えに出ては……駄目で……す!」
エルドナ製神具・【友愛の盾】は機能を完全開放している。
五つの光る盾を空間に出現させ射線上に重ねた護り。膨大なエネルギーに耐える為、吸収機構も発動したアリシア──しかし、光の盾はやがてヒビが走り一枚、また一枚と砕け始めた。
「アリシア様!下がって!」
クリスティーナが悲鳴に似た声を上げるが、首を振っている。
「い……ま……躱……せば……後ろに……」
射線の先にはマレスフィが魔獣と戦っている。動くに動けない。
そこでマリアンヌとクリスティーナな光線を逸らす為に魔法を放つが、勢いは止まらない。
皆が行動し対応したのもほんの数秒……その間に盾は次々に破られ、遂に最後の一枚に到達。
あと僅か……勢いを弱めた光線に皆が安堵した瞬間、無情にも【友愛の盾】が砕け散った。
「アリシアァ━━っ!」
アリシアは光に飲まれ弾き飛ばされた──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます