第六部 第七章 第十話 勇者の系譜
クラリスはアーリンドを両親の元へ送り届けに向かう。その間に精霊人との会話を終えたフェルミナはライの傍に戻ってきた。
精霊人の興味の対象が今度はライへと向けられていたが、いつもの如くあっさりと打ち解けたことにはスフィルカも驚いていた……。
その段階で精霊人という存在の情報がかなり集まった。
先ず、精霊人はかなり楽観的な傾向があるということ。永遠に近い寿命を持つ精霊人は、僅かなことでも楽しみにするよう生まれ付いているらしい。
そして精霊人の力は想像通り強大……それを悪用しないのは聖獣の穏やかな性質を継いでいるからだろう。
因みに……二つの魂を一つに纏める【御魂宿し】とは根本的に違うので『裏返り』は起こらないとのこと。力が暴走することは無いそうだ。
勿論、精霊人も人との間に子を儲けることが出来る。精霊人はライ同様に肉体と精霊体への変化が行えるので、種としての生殖行為などは問題無いらしい。
ただ……人と契った精霊人は人として生きて行くことを選ぶそうだ。その場合、寿命は普通の人間と同じになるらしい。
精霊人の血を継ぐ者は古い勇者の血統に多いとフェルミナは言う。
三百年前……ディルナーチ大陸でラカンに嫁いだ女勇者・イネスは、実は精霊人の系譜であることはあまり知られていない。
「勇者の血統か……そういや正確に考えたことなかったな……」
「これでなくては駄目……ということは無いんですが、何等かの系譜に関わっていた方が力も強く能力も大きいと言われてますね。当然ながら功績も大きいみたいですよ?」
「系譜って……竜の血とか?」
「はい。現在の勇者は覇竜王の系譜が多いのですが、ちゃんと他の系統もあります。寧ろ多くの系譜に絡んだ方が先祖返りも起きやすく能力の幅も広いんです」
複合的な超常の因子は刺激が起こり新たな血となる。力は大概が一代突出型だが、その血の意味はちゃんと根付くのだ。
血の濃さも勿論影響はする。しかし、長く濃い血筋の維持をするのは難しくあまり現実的な行為ではない。
ともかく、そういった事情から名のある勇者は単発的に生まれることが多いらしい。
「う~ん……フェルミナ。具体的にどんな血統があるか知ってる?」
「私が封印されている間に新たな系譜が生まれている可能性もありますけど……」
「知ってる範囲で良いから教えて欲しいんだ。この先、色んな勇者とも連携が必要になるかもしれないし……」
「わかりました」
先ずフェルミナが挙げたのは、フェンリーヴ家の系統でもある竜の血筋──『竜人』。
覇竜王と人との間に生まれたバベルがその最たる例と言えるだろう。因みに、その血が覇竜王以外のドラゴンでも当然ながら高い能力を得る。
能力的には最もバランス良く、体力・魔力共に高い勇者が生まれるが先祖返りが起き難いという面もある。
続いて精霊人血筋──『精霊子』。
基本的には聖獣の能力が継承されるが、やはり他の血により力の種類は左右されるという。どちらかと言えば魔力特化の進化を果たすことが多い系統だ。
この系統は基本的に精神力が高いとフェルミナは付け加えた。
続いて異世界渡りの血統──『異界因子』。
異界から渡ってきた者は元々ロウド世界とは別の因子を宿している。
現在、ロウド世界に流れてくる異世界の血統は一つの世界のみ。何故そうなっているのかは謎とされているが、渡る前の異世界には魔力という概念が無いらしく魔法を使えない代わりに存在特性に目醒め易くなる。
勇者として覚醒を果たす場合は魔力を取り込みロウド世界に馴染む必要があるので、大概は異世界人の子孫である。その場合、存在特性を戦闘主体にし魔力は防御に回す傾向があるという。
そして最後に魔人の血統──『魔人種』。
これは先に挙げたものとも複合し易く曖昧な概要となる。
魔人は単発的に生まれると言われているが、ディルナーチ大陸の様な魔力の高い環境に曝され続けると遺伝子に何等かの変化が起こり魔人が自然に生まれる様になる。『先祖返り』などはそれに当たると言えよう。
魔人由来の魔力・体力が継承されるが、能力等は継承されない。その為、根本的には修行により能力を獲得しなければならない。
それでも余りある才を持って生まれている訳で、勇者として名を馳せるには十分な存在だろう。
ここまでが通常の勇者系統──しかし、フェルミナはもう一つ付け加えた。
「勇者いうのは人が名乗るものですから、厳密には系譜など関係ありません。人の身で勇者を名乗るのは自由ですし、人として十分功績を上げる者も居ますので……。敢えて言うなら『勇者たる人』でしょうか」
「まぁ……確かにそうだよね」
勇者に厳密な定義はない。他者からの賛辞として語られることも、当人が自らを鼓舞する為に名乗ることもあるのだ。
勇気を示し人々を救う意志がある──極論で言えば誰もが勇者になり得るのである。
「そう言えば……天使の系統は居ないの?」
ライの疑問に応えたのはスフィルカだった。
「純天使は魔力体の性質が強くどちらかと言えば精霊寄りなんです。その為、子孫は残せません」
「じゃあ、アスラバルスさんやスフィルカさんも……」
「アスラバルス様はそうですが、私は違います。少しだけ人に片寄っていますので……」
地に降りたスフィルカは地上に滞在している期間があり人の性質も加わっているとのこと。具体的には精霊人に近いそうだ。
「それにしても……フェルミナの話だとかなり強力な勇者が居てもおかしくはないんだよね。でも、竜の系譜に出逢えるのは凄く稀なんだな……」
「心当たりがあるんですか?」
「うん……。実はディルナーチ大陸に一人、ね……」
異世界を渡ってきたディルナーチの民。その子孫にしてドラゴンの血統が濃く、覇竜王の系譜を継ぐ者。現在は霊刀ビャクエカクとも契約したディルナーチの勇者──。
(カズマサさん……どんだけハイスペック秘めてるんだろ?)
只の雑兵だったカズマサは、ライとの出逢いにより勇者としての道を歩み始めた。成り上がりとしてはライよりも遥かに勢いがある。きっとそれはディルナーチにとっては吉と出るだろう。
ディルナーチと言えば、魔法智識不足による不利を補う為メトラペトラが指導を行っている。
具体的には、久遠国・神羅国・御神楽の三勢力から戦力となる者を集め魔法知識と対策の伝授を進めているらしい。
特に寿慶山の金龍カグヤには、徹底した対魔法戦略を叩き込んで来たとメトラペトラは誇らしげだった。
さぞや賑やかだったことだろう姿がライの脳裏に浮かんだ……。
今は魔王台頭の時代……折角縁を結んだディルナーチの平和はライの願いでもある。カズマサの存在はそういう意味でも頼もしく有り難い。
「……。そうだ、フェルミナ。魔王が出てきてるなら精霊人達に協力を求められないかな?」
「それは……多分……」
「無理だね」
声の方角を見るとクラリスが浮いている。どうやらアーリンドは無事に両親との再会を果たせたらしい。
「無理って……何でですか?」
「簡単な話だよ。精霊人は戦いが嫌い……というか苦手なんだ。ワタシ達は闘争心が極端に弱くてね」
「つまり……戦えない訳ですか……」
「そ!他者を傷付けたりすると震えが来る程だからねぇ。魔王なんかと戦ったら一方的にやられちゃうよ?」
「そこまで……じゃあ仕方無いかな」
あっさり引き下がったライにクラリスはニコニコと微笑んでいる。
「随分とあっさり諦めるんだね?もっと食い下がるかと思ってた」
「いや……本来は戦いに巻き込むこと自体気が引けるんですよ。当人に覚悟が無いなら尚更だし。まぁ、どちらかというと守りを期待できないかなぁ……って考えでしたけどね?」
「ふぅん……キミは変な人だね?普通は縋ると思うよ?ここの人達の様にね?」
「頼れる者は沢山居るんで何とか……ね?」
ライは隣にいるフェルミナの頭を撫でる。
「でも、ライさんは自分だけで無茶をしようとする……私はそれが心配です」
「うん……ごめんなさい」
「成る程……キミはそういうタイプなんだね?でも、それじゃ早死にしちゃうよ?」
「アハハハ……自覚はあるんですけど、誰かが傷付くのを考えるとつい……」
「根っからの勇者って訳か……。良し!ここはワタシが一肌脱ごうじゃないか!」
「?」
「キミの力になってあげるって言ってるんだよ。ワタシは攻撃は出来なくても守ることは出来る。精霊人の中でも特にその力に特化もしてるからね。何より、大聖霊四体と契約しているキミに興味が湧いたんだ」
「……。本当に良いんですか?」
「二言は無いよ。ワタシに任せなさい!あ……但し衣食住は約束してね?」
「………わかりました。宜しくお」
「チッチッチ!仲間に敬語は無粋だぜ、ライ君?」
「わかった………宜しく、クラリス」
「あいよっ!任せとけ!」
こうして新たな仲間クラリスが加わった。
しかし、直ぐに帰還という訳には行かない。クラリスの次の言葉はライを困惑させることになる。
「そうとなると……ここからの脱出を何とかしないとね?」
「はい……?だ、脱出って何の話?」
「あれ?言ってなかったかな?この異空間は外から入れるけど内側から出られないんだよねぇ。そうなったのは割と最近のことなんだけどね~?」
「………。えっ?で、出られないの?マジで?」
「お陰で食料も調達が間に合わなくて大変になり始めてたんだ。いやぁ……頼りになりそうな人達が来て良かった、良かった!」
「………何ですとぉぉぉっ!?」
異空間での実質的幽閉……そんな由々しき事態に巻き込まれたライは、脱出の為に奔走することになる。
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