再会の章

第六部 第六章 第一話 再会の旅路へ 


 カジーム国から帰国予定だったその日……ライは今後の連携も兼ねた友人達との再会を選択した。


 それは心配をさせた友人達への謝罪に加え、ドレンプレルで気落ちした同居人達を考慮したものだった。


「挨拶回りですか?」

「そう。ペトランズに帰還してから結構日が過ぎてるからさ……流石に顔くらい見せないとね?」


 マリアンヌの確認に首肯くライ。この先、邪教討伐や魔獣アバドンの再出現など多忙になってからでは遅いと判断したのだ。


「この際だから分身で一気に回ろうと思うけど、分かれるのは四組程度かな」


 一組はノルグーの街とトラクエル領へ。更にエルフトの街とエノフラハ領が一組。他にも足を運ぶ予定があるが、それはどれかの組が帰りに立ち寄れば良い。 


 国外はエクレトルに一組。連合国家ノウマティンとリーファムの住まい『四季島』にも一組としておきたいところだ。


「出来れば皆の所縁があるところに分かれて貰いたいんだけど……」

「じゃあ、エクレトルは私とアリシアね」


 神聖国家エクレトルへはマーナとアリシアが同行することに決定。


「では、私はエルフトへ。フェルミナ様は如何致しますか?」

「そうね。私もその方が良いと思うわ」


 エルフトにはフェルミナとマリアンヌが同行。確かに二人にも所縁ある地である。


「ノルグーの街にはアタシね。ディコンズの森の件で一度改めてお礼をしないとって考えていたから」

「では、私もご一緒致します。ノルグーは歴史ある街と聞いていますから」


 ノルグーの街へはシルヴィーネルとトウカ。シルヴィーネルにとっては覇竜王ライゼルト育成の場を提供された借りもある。ライが同行するこの期は礼を言うには都合が良いらしい。


「となると……ノウマティンはボクとホオズキか……」

「宜しくです、ランカちゃん」

「ちゃん……?よ、よろしく、ホオズキ」

「ワシもノウマティンに行くぞよ?所縁は一番あるからのぅ」


 連合国家ノウマティンにはランカとホオズキ、そしてメトラペトラも同行する。


 何せ連合国に居るのは猫神の巫女──メトラペトラは一応【猫神様】である。改めて威厳を見せ付けてやろうとメトラペトラはやる気満々だった。

 そんなメトラペトラ、酒臭いので威厳も何もあったものでは無いのだがライは敢えて触れない……。


「アムルはどうする?」

「では、私はノルグーの街へ同行しよう。大聖霊は分散した方が良いだろう?」

「わかった。じゃあ皆、それで良い?」


 全員了承。いざ転移!……の、その前に……。


「一応土産を渡しておくよ。昨日ティムから受け取ったコレを……」


 ライが分身しても神具までも分裂する訳ではない。代わりに土産を誰かに預かって貰わねばならないのだ。

 そして手渡したのはお馴染み蜂蜜パイとリンゴジュース。会いに行くのは貴族や国の重鎮が殆ど。土産のチョイスには少々難があるが、それもライらしいと言える。



「さて……次に全員揃うのは蜜精の森の居城かな。まぁ、俺は全員と一緒な訳だけど」

「便利な力だな、分身は……」

「まぁ、長く使うと反動あるけどね……。そうだ。話は変わるけどランカは神具って欲しい?」

「本当か?急がないから後で頼む」

「了~解。じゃあウチに帰ってからね?それじゃ行こうか」



 各地に移動する道はメトラペトラが《心移鏡》にて用意してくれた。

 エクレトル、ノウマティンは直通、ノルグーとエルフトは目立たぬ近隣の森への転移となる。


 居城への帰還はそれぞれの方法に任せることとなった。



 そして一同は鏡を抜け目的地へと踏み出した──。




 ◆




 ノルグー近郊に転移したライ、アムルテリア、シルヴィーネル、トウカ達。


 先ず真っ先に向かったのはノルグー騎士団長だったフリオの家──。

 しかし、フリオの屋敷の扉は堅く閉ざされている。


「あれ?留守かな……」

「……ライ、聞いてないの?」

「ん?何、シルヴィ?」

「フリオはもうノルグー騎士じゃないの。領主になったのよ……トラクエル領主にね?」

「はい……?ほ、本当に?」

「嘘は言わないわよ。確か妹さんはエルフトで魔法の指導をしてるって聞いたわ」

「…………」


 無人になったフリオの屋敷。誰かが手入れはしているらしく荒れた様子はないが、時の流れを感じざるを得ない変化である。 


「どうする?トラクエルに行く?」

「いや……その前にノルグーでも挨拶する人はいる。……という訳で、二人には正装をして貰います」

「………え?」

「当たり前だろ?領主様に会うんだから」


 そして向かったのはノルグーの街の商業区域。貴族向けの通りで衣裳を仕立てることになった。


「こ、こんな高そうなお店で……」

「これも文化体験の一端だよ。スミマセ~ン」


 店員を呼び領主に謁見する旨を伝え服を仕立てて貰うことにしたライ。現れた店主は髭を蓄えた若い男。輝くほど満面の営業スマイルを見せている。

 オーダーメイドの、しかも最高級素材の仕立てを依頼した際にも、髭の店主は一切笑顔を崩さず承諾した。


 安物冒険者衣装の男に季節はずれのサマードレス薄着娘、そして異国の女剣士。通常なら支払いを疑いそうなもの……店主は中々出来る男の様だ。


 理由を訊ねれば店主は元冒険者だったらしい。


「貴方からは強い気配を感じます。稼ぐなど容易いでしょう?」

「いやいや。俺なんて幸運なだけでやってる人間ですよ。それで……どのくらいで出来ます?」

「大至急で半刻程ですね。少しお高くなってしまいますが……」

「分かりました。これで足りますか?」


 ライが取り出して手渡したのは金貨のみが入った小さな袋。マリアンヌに手渡したものとは別に残っていた報酬を小分けしてあるというマメさ加減がまた勇者らしくない……。


「十分で御座います。他に入り用は御座いますか?」

「服に合う手袋、それと靴をお願いします。あ、あと化粧なんですが……」

「それでしたら隣の美容品店に依頼しておきましょう」

「ありがとうございます」


 ライの握手を快く受ける店主。後を任せライは他の用向きに向かうことにした。


「ラ、ライ様!」

「大丈夫だよ、トウカ。全て任せてあるから」

「……。ライ様のお着替えは宜しいのですか?」

「ハハハハハ。勇者だからね……正装よりこのままの方が話が通るだろ?」

「そう……ですか」

「二人とも他に欲しいものがあったら遠慮せず頼みなよ?それじゃ店主、お願いします」

「かしこまりました」


 店を出たライは外で待っていたアムルテリアと共に庶民向け商店区域に向かう。


「わざわざ服を作らなくても私が用意したんだが……」

「それじゃ女の子は楽しくないんだよ。これも経験だしさ?」

「そんなものなのか?」

「多分ね」


 昔……母ローナと妹マーナの買い物に付き合わされた際、ライは一刻半もの時を振り回された経験を持つ。女性の買い物には少々理解のある男である。

 経験上女性が複数人いる場合、買い物で盛り上がる確率が高いと見越していた。


 シルヴィーネルとトウカはあまりそういった経験が無い筈なので、是非楽しんで貰いたいとライは思っている。



 準備が整う間の時間をアムルテリアと会話しつつ移動。辿り着いたのは庶民商業区域の資材売買所……ライはそこで懐かしい背中を見付け声を掛けた。


「ゲントさん」


 振り返ったのは大工のゲント。その昔、勇者であり冒険者だったという人生の先輩だ。


「………?アンタ誰だ?」

「アハハハハ~……やっぱり分からなかったですね。俺ですよ……ライです。お久し振りです」

「何ぃ?ライだと?」


 ライの変わり果てた姿をマジマジと観察するゲント。ようやく当人と判ったらしく手の平にポンと拳を乗せた。


「おお!良く見りゃ本当にライ坊だぜ、おい!いやぁ……行方不明って聞いてたからな。無事で何よりだ!」

「ゲントさんはお変わり無いですか?」

「おうよ!変わらずトンカンやってるぜ?それよりお前ぇだよ……ちっと変わり過ぎじゃねぇか?」

「アハハハ~……ま、まぁ中身はあんまり変わってないんですけどね?」

「いやいや。見た目もそうだが雰囲気が変わったぜ?纏う気配が別モンだ」

「誉められても何もないですよ?あ……蜂蜜パイとリンゴジュースくらいは……」

「カッカッカ!そりゃあ、ありがてぇな!」


 アムルテリアに預けていた土産をゲントに手渡した後、ライが去った後のノルグーについて聞かせて貰った。


 先王退位の折に領主交代が相次ぎ人員不足である為、トラクエルの臨時領主に選出されたフリオ。

 レイチェルはその知識の高さで魔術師育成を依頼され、迷った末にエルフトへ向かったという。


 プリティス教会はアニスティーニの捕縛と共に空き家となっていたが、今はノルグーの公的な孤児院となったそうだ。


 あの『魔獣召喚未遂』はノルグーの民には伝わってはいない。当然、ゲントもプリティス教会が邪教だったことは知らない様だ。



「それで……ライ坊の方はどうしてたんだ?」

「ざっと説明すると……そうですね……。捕まって、逃げて、海王に飲まれて、魔王と戦って、ディルナーチに辿り着いた後、修行!魔王!修行!妖精!魔王!修行!って感じでディルナーチの国々と仲良くなって来ました」

「………。セイッ!」

「アウチッ!」


 ゲントはライの頭を手刀で叩いた。


「な、何すんですか、いきなり……」

「いや……魔王と戦ったってからよ?お前を倒しゃあ俺も魔王を倒した勇者かとな……。男の夢だろ?」

「いやいやいやいや……それは『【魔王を倒した勇者】を倒した勇者』ですよ?」

「カッカッカ!冗談だ、冗談。で、今どこに住んでんだ?」

「ストラト……地元に帰りました。何と!城暮しですよ!」

「ほ!そりゃあ豪気だな。後で遊びに行って良いか?」

「勿論です。温泉もありますし歓迎しますよ」


 ガッシリと握手を交わしたライとゲント。これでノルグーでの気掛かりの一つは無くなった。


「うむ。中々良い加工技術だ」


 会話の間待っていたアムルテリアは資材を確認している。【物質を司る】大聖霊様はもの作りには少々うるさい。


「何だ……聖獣連れてんのか、ライ坊?」

「聖獣じゃないですよ。大聖霊です」

「大聖霊?何だ、そりゃ?」

「え~……簡単に言えばもの作りの神様みたいなものです」

「な、何だと?ま、まさか、大神おおかみ様か!」

「大神様?」

「建築の神様は狼って言われててな?う~ん……言われてみれば確かに威厳が……」

「へ、へぇ~……」


 ゲントの言う通り、ペトランズ大陸には狼を祀る文化がある。特に建築関連は大神と呼ばれていた。


「ただ、あの角材は幾分材木の質が悪いな。あれは使わないでいた方が良いぞ」

「ち、ちょっと確認を……」


 ゲントは角材を確認し驚愕した。傍目からは判らないが、確かに内部が腐敗している。

 ゲントは弟子の一人が確認を怠ったことに怒り心頭だった。


「助かりました、大神様。とんだことになるところだった」

「いや。だが、他は実に素晴らしい」

「ありがとうございます。へへ……自慢出来まさぁ。済みませんが、あっしはこれで……おい、サーブ!何処に居やがる!テメェ、仕入れの確認で手ぇ抜きやがったな?」


 物凄い剣幕で去っていったゲント。ライへの別れの挨拶もすっかり忘れている様だ。


「良い職人だな」

「…………」

「な、何だ?」

「大神様……」

「それは人が勝手に付けたものだ」

「照れんなよぉ、アムルぅ~!」


 ライに撫で回されたアムルテリアは腹を見せ尻尾を振っていた……。



 ゲントと別れた後、ライとアムルテリアは予定の時間になるまで街を散策。以前『竜鱗装甲』を鑑定してくれた道具屋ロブの店や、ノルグー内の騎士訓練所に足を運ぶ。


 騎士訓練所は殆どが見たことの無い者達。フリオは信用出来る者達をトラクエルに連れて行ったのだろう。



 そして……頃合いを見計らい仕立屋へと足を運んだライは、シルヴィーネルとトウカの変身ぶりに驚くこととなる……。


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