第六部 第四章 第七話 新たな同居人
ランカが同居人に加わったライの居城──。
結構な激戦により疲労が蓄積していたライは、結局丸一日以上の眠りが必要となった。
ランカは『サザンシス』の存在を上手く
そうして皆はライの休養の邪魔をしないことになった……のだが……。
「う……どのくらい寝てた……?」
意識を失う様に自室にて眠り込んだライが目を覚ましたのは、朝日の差し込む時間……。しかし、ライ自身にはかなり長く眠っていた感覚だけはある。
クローダーを救う予定……いや、他にもアウレルとの約束や魔獣関連、トゥルクへの邪教討伐等がどうなったか……かなり焦燥に駆られた。
だが……そんなライの様子に優しく答える声があった。
「大丈夫ですよ、ライさん。まだ帰宅してから二日目の朝ですから」
「フェルミナ……そっか、一日潰した程度で済ん……だ……の……か?」
寝惚けていた思考の霞が晴れると共に、ライは己の現状を理解した……。
ライは着のみ着のままでベッドに倒れるように眠りに就いた筈……。しかし今、ライは全裸である。
そして……フェルミナもベッドの中。勿論、全裸だ。
「フ、フェルミナさん?……何故にベッドに?」
「ライさんの回復の為にご一緒しました。大聖霊紋章は近い程効果が高まるんですよ?」
「へ、へぇ~……。それは嬉……知らなかったなぁ~」
努めて冷静な振りをしているが鼻の穴が開き息が荒いライ……しかし、『勇者ムッツ~リ』を襲う幸福はそれだけではない。背中にも幸せな感触があったのだ。
「………。マ、マリーさん?マリーさんまで何で……」
「私はおまけです」
「おまけ……。ああ、こんな素晴らしい『おまけ』がこの世界にあったのか……」
朝から幸せに晒されたライは涙を流し悶々ポイントを蓄積し始めた。
しかし、この調子ではあっという間に『スーパーリビドー勇者』に変身してしまう。そうなった場合、ライは二人に何もしない自信は無い……。
ライは焦った──このままではマズイ、と。
そんな時、部屋の扉が猛烈な勢いで開かれた。入って来たのはマーナだ。
「フェルミナ!マリアンヌ!やっぱりここに居たわね!?」
けたたましい声を響かせ入室したマーナは、ネグリジェ姿でその手に枕を抱えていた。
「皆で決めたでしょ!抜け駆け禁止だって!」
「抜け駆けじゃないですよ?ライさんの回復の為です」
「問答無用よ!そんな女はこうなるのよ!」
フェルミナの頬を掴むマーナ。フェルミナの顔が大変なことに……なる前にエレナの制止が入る。
「……そのままだとフェルミナとマリアンヌの裸がライに丸見えになるわよ?」
「イヤァァッ!駄目よ、お兄ちゃん!!」
しかし、ライはだらしのない顔で笑っている!
「駄目だったら!もうっ!」
「くぺっ?」
マーナの会心の一撃!ライの首は変な角度に曲がった!
ライは意識が薄れた……。
そんなこんなでキャアキャアと騒がしいライの部屋……溜め息を吐きながら入室したメトラペトラは、仕方無いとばかりに事態の収拾を図る。
「ホレ。良い加減にせんか、全く……ライも回復したばかりじゃろうが」
「うっ……。で、でも……」
「ワシはちと此奴に話がある。フェルミナとマリアンヌは朝食の用意じゃ。マーナは着替えて食堂で手伝い、良いな?」
「はぁい……」
何と……マーナはメトラペトラの言葉に素直に従っている。これはライにとっても驚きの光景だった。
結局、仕方無いと退散する女性達……残されたメトラペトラは倒れているライの頭に飛び乗った。
「ふむ。朝からお盛んなことじゃな……どちらかと契ったかぇ?」
しかし、ライは鼻をピクピクとさせ呼吸を乱しながらも返事はない。
「ま、無理じゃろうな……お主は甲斐性無しじゃからのぅ。それより話がある。狸寝入りは止めい」
メトラペトラを頭に乗せたまま起き上がったライは変わらず変な角度に首が曲がっている……。
それをコキリと戻したライはベッドの上で胡座をかいた。
「何ですか、話って……?」
「うむ。ちと待つが良い。おい、ランカよ……入って良いぞよ?」
メトラペトラの呼び掛けで部屋の扉を開き入室したのは、髪をサイドテールに纏め黒のヒラヒラ衣装で身を包んだランカの姿……。
所謂ゴスロリ衣装──こうして見ればランカの美貌が更に際立つ衣装である。
ライは思わず見蕩れている……。
「…………」
「…………」
「……ライ?」
「な、何、ランカ?」
「服くらい着たらどうだ?」
「キャアァァァ~ッ!ランカのエッチ~!!」
「………」
素早く着替えたライはランカと共にソファーに移動。改めての話となる。
「そ、それで……何の話?」
「……先ずは礼を。俺……じゃなくて、僕はお前のお陰で色々解放された」
「……ぼ、僕?」
「お、おかしいか?あのマリーというメイドがその方が良いと……」
「……いや。流石はマリーだ……寧ろ新鮮!」
「そ、そうか……。と、ともかく、お前に礼を。ありがとう」
僕っ子ゴスロリという新たな境地を切り拓いたランカにライはホッコリとした笑顔を向けている。目の前の少女が暗殺者と言われて信じる人間はどれ程いるだろうか……それ程にゴスロリが似合うランカ。
「どういたしまして。でも、本当に里を出て良かったのか?」
「……思うところはある。しかし、僕は……」
そこでランカはチラチラとライの頭上に視線を向けた。
「メトラ師匠は大聖霊……だから、事情話しても大丈夫じゃないの?」
「ワシはサザンシスの存在を知っておる。まぁ、そもそも大聖霊は存在が事象と同義じゃからの……」
「そう……だな。僕はサザンシスの呪縛から逃れることは出来た。しかし、僕は里の隠していた優しさを知ったんだ。逃げていたことが恥ずかしい反面、ホッとしている自分もいる」
「ん?何の話?」
「一族内の訓練で死んだ筈の友人は生きていた。里の方針でな……」
サザンシス達は一族に対してだけはとても心を砕いていたのだという。
世界で唯一心許せるのは一族……故にサザンシス内では一族を守る為に様々な手間を掛けていたのだと……。
サザンシスでは子供の時分より魔石の粉を飲ませ続けても魔人化しない者を『魔力器割れ』と呼ぶ。魔力を体内で生成出来ぬことはサザンシスとしては致命的なことだった。
しかし、それでも一族には違いない。そういった者達が暗殺者として命を失うことを良しとせず、かつその者らの未来の為にサザンシスはあることを行っていたのだという。
それは、宿命からの解放──。
訓練中の死を擬装された『魔力器割れ』達は、その記憶を完全に消されて放逐されていた。
その送り先はエクレトルの神聖教会……多額の寄附金と共に預けられた『魔力器割れ』達は、神聖教徒として育てられることになる。当然、エクレトルはそれを知らない。
「ハハ……アハハハ~……。アスラバルスさんが知ったら驚くでしょうね……」
「ハッハッハ。良くもまぁ考えたものじゃ……。まさに灯台もと暗しじゃな」
エクレトルの教会ならば邪険にされることはないことをサザンシスは知っていて利用している。
預けられた孤児は器量良しなら引き取り手もある。子の無い貴族の養子になった者もいるとのことだ。
だが……ランカはそんな話を真実とは思えなかった。だからランカは、ライが戦っている間に《転移》で確認に向かったのだ。
結果──ランカの友人は神聖教会のシスターになっていた……。
「そっか……。……。それを知ってランカはどうしたい?」
「………僕はサザンシスが血も涙もないものだと思っていた。だが、一族の優しさを知った。嫌っていたことが恥ずかしい」
「じゃあ、里に戻る?」
「いや……それでも僕は自由になりたい。暗殺者以外の可能性を探してみたいんだ」
「……うん。良いんじゃないかな。エルグランさんが俺の元への派遣を許可したのは、サザンシスの新たな未来を探す為かもしれないし……」
「……それでその……ど、同居させて貰う立場にも拘わらず僕は返せるものが無い。こ、こういう場合は身体で返すのが当然なんだろう?」
そういうとランカは服を脱ぎ始める。ライはそれを慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待て、ランカ!誰からそんな話を吹き込まれた?」
「さ、里の中にはそういう話もあるのだが……」
「はぁ~……」
盛大な溜め息と共に眉間を押さえるライ……世間知らずという訳ではないランカが意外な行動を取った為、盛大に混乱中……。
「……ぼ、僕では駄目なのか?」
「いや。凄く嬉しいんだけどね……ウチの同居人になったら無条件で家族なんだ。対価なんて要らないよ。敢えて言うなら家族の役に立つことと出来ることを探すこと。勿論、暗殺以外でね?」
「だが……ここの者は皆、情婦ではないのか?」
「違ぁ~う!家族同然だけどその……肉体関係とかは……ね?」
「成る程。つまり……甲斐性無しか……理解した」
「グハッ!?」
ランカの言葉がグサッ!とライの胸に突き刺さる。ライはシクシクと泣き出した……。
「お、俺だって『ハーレム最高!』って願望はあるよ?でもさ?それって男の勝手な願望じゃん?」
「ま、まぁそうだな……」
「だから、尚更どうしたら良いか分からないんだよ……」
「………」
そんなライの悩みを無視したメトラペトラは、堂々とランカに宣告する。
「因みに、お主もハーレム要員じゃな」
「うぉぉ~い!コラ!何も聞いてなかったのか、ニャンコ!」
「知らん。好いて、好かれて、同意して契れば問題は無い。違うかぇ?」
「そ、それはその……ゴニョゴニョ……」
貴族達が行っている妾なども同様……互いの同意の上でなら否定は出来ない。
そこに愛がないなど誰にも言い切ることは出来ないのである。
ましてやメトラペトラはライの子孫を増やし脅威に備えるという考えがある。そこを譲る気は無い。
勿論三割……いや、四割程……いやいや、五割は『面白い』というメトラペトラの趣向になってもいる。
「まぁ慌てる必要はあるまい、ランカよ……。そこでじゃ……これはワシからの依頼。此奴がその気になるよう導け。成否は問わん」
「くっ……。
「どうじゃ、ランカよ。受けるかぇ?」
この時点でのランカはライに親しみはあれど恋愛の情は無いに等しい。
しかし、依頼と言われれば請け負うか否か……ランカは迷った末に依頼を引き受けることにした。
「僕はそういった経験がない。だから時間は掛かるが……」
「時間はタンマリあるわぇ……結果が出れば良い」
「分かった。依頼、確かに受けた」
「ちょっと!正気か、ランカ?」
「これは僕の意思だ……だから今後ともよろしく、ライ……」
「…………」
依頼達成が何時になるかは分からない。失敗も有り得る。しかし、これはランカが自らの意思で受けた初めての依頼なのだ。
ライはそんなランカの明るい表情に戸惑いながらも、新たな同居人として皆と同様に接することに決めたのであった……。
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