第六部 第二章 第六話 旅立ちの原点
ついにライは我が家への帰宅を果たした。
しかし、少々の誤解が生まれ母ローナがお怒りに……。
そんな中で帰宅したロイが仲裁に入り改めて事情を聞いたローナは、一応ながら落ち着きを取り戻した。
「ハァ……成る程ね。結局、それそれ考えがあることだけは分かったわ」
ライは答えを出せない優柔不断。トウカとホオズキは本当に好意で同行し、メトラペトラはハーレムを望んでいる。そこに絡む意図がバラバラである以上、話が繋がる訳がない。
「し……しかし、恐ろしいのぅ、お主の母は……。このワシを鷲掴みにしおったぞよ?」
「ワシを鷲掴み……駄洒落ですか、師匠?」
「いや……」
メトラペトラにいつもの勢いが無いのはローナへの恐怖故か……。
「ハッハッハ。全く……帰って来るなり大騒ぎだな、ライ?」
「アハハハ……。いやぁ~……悪いね、父さん。三年振りになるけど、二人とも元気だった?」
「ああ……。お前も無事な様で何よりだ、我が息子よ」
ロイはバシバシとライの肩を叩く。父なりの感激の行動らしいが結構な力で衝撃が伝わる……。
「賑やかなのは良いことだ。皆さん、ようこそ我が家へ。私はロイ……ライの父親だ」
トウカとホオズキは笑顔でロイとの挨拶を交わしている。可愛い来訪者にロイはすっかりだらしのない顔になっていた……。
「それで……そっちの双子、かな?その子らは一体……」
「あ……私も聞いていないわ?ごめんなさいね?あなた達、お名前は?」
「ニース~」
「ヴェイツ~」
「そう。ニースちゃんとヴェイツちゃんね?私はローナよ?よろしくね」
「ローナ、ロイ、よろしく~」
「ロイ、ローナ、よろしく~」
ほのぼのと双子を見詰めるロイとローナ。ライは二人の傍に近寄り小声で相談を始めた。
「実はこの子達は………」
双子の魔王──。その事実にロイとローナは笑顔のままで固まった……。
「そ、それは本当なのか……?」
「うん。アロウンの勇者の話じゃ間違いないみたいだよ」
「……実はな、ライ。その子達に殺され掛けた子がウチで暮らしてるんだよ」
「えっ?マ、マジで……?」
「マーナの仲間だった娘でな……エレナちゃんと言うんだが」
ライの妹であり三大勇者に数えられるマーナ──その旅の仲間にして親友でもあるエレナは、トシューラ国にて『双子の魔王』の攻撃により大怪我を負ったという。
しかし、改めて聞いてみれば直接攻撃を受けた訳ではない様だ。
とはいうものの、死に掛けたというのであれば精神的な負担はある筈……その辺りの蟠りも考慮せねばならないだろう。
「その
「怪我はフェルミナちゃんが完全に癒した。今は元気そのものだ」
「それならまぁ……少し話し合いして貰えば……」
関わりのある者同士の仲が悪いのはライの望むところではない。
神聖機構の司祭ならば争いを避けてくれる……というのはライの希望も含まれていた。
「ああ、そうそう……。シルヴィちゃんという娘とアリシアちゃんという神聖機構の天使も一緒に暮らしているんだが……」
「………。妙に家の中が華やかな気がしたけど、それでか。ってことは、明らかに我が家が許容オーバーだよね」
両親と子供三人の五人で暮らしていたフェンリーヴ邸は、その時点でようやくといった狭い家……。
だが現在フェンリーヴ家の同居人は、マーナ、フェルミナ、エレナ、シルヴィーネル、アリシア、そして家主であるロイとローナの七名。
ここにライ及び同行者が加わることはどう考えても限界があった……。
「今日は家に泊まっても大丈夫よ。皆、魔獣対策に行ってるから」
「魔獣って……フェルミナも?」
「フェルミナちゃんとアリシアちゃんは、シルヴィちゃんがお世話になった地竜の所に向かったわ。魔獣から人々を守った際に怪我をしたらしくて……その治療にね?」
「魔獣の被害ってそんなに酷かったのか……」
「ええ。こちらまでは来なかったけど、トシューラの被害は甚大らしいわよ」
(………パーシン、気が気じゃないだろうな。それにメルマー家は大丈夫か?)
ライからすれば敵対していると言っても過言ではないトシューラ国。しかし、同時にトシューラは友人達の故国でもある。
そしてライにとっては、国を問わず大部分の平民に敵味方の区別を付ける理由も無い。
敵は悪意や敵意を向け被害を齎す者──その意味ではアステもトォンもトシューラも、シウトであっても変わらない。
「そう言えば、ライ……お前が魔獣を倒したと聞いているが、本当なのか?」
ロイはマリアンヌやフェルミナからそう伝え聞いている。しかし、最後に見たライの実力からは到底想像が付かない話だったのだ。
そんなロイの疑問に答えたのは師たるメトラペトラである。
「間違いなく此奴が倒したぞよ?取り敢えず……ではあるがの?」
「取り敢えず……というのはどういうことかな?」
「魔獣は本体を倒すなり封じるなりせねば再び数を増やす。が、本体は未だ姿を現さぬ。よって今は一時的に動きを止めているに過ぎん」
「……。それが本当ならば一大事だな」
ロイはキエロフへの報告を考えた。そんなロイにライは同行を求められる。
「キエロフ様はお前を本当に心配しておられたのだ……。自分が頼り無理をさせた為に行方不明になったとな?無事と知ってからも何かと気になされていた。だから、顔を見せて早く安心させてやれ」
「キエロフ大臣が……分かった、行くよ」
「それで住まいの話も解決する。そちらも取り敢えずだがな」
「?……それってどういうこと?」
「行けば分かる。という訳で母さん……悪いが少し行ってくるよ」
「じゃあ、私は夕飯の用意ね。トウカちゃん、ホオズキちゃん、お料理は?」
「はい。大丈夫です」
「ホオズキも頑張ります」
ライはメトラペトラにチラリと視線を向けたが、今回は同行しないらしい。
「ワシは堅苦しい場が嫌いじゃ」
「わかりました。じゃあ、お土産に酒と肴を買ってきますね?」
「ウハッ!流石は我が弟子……頼んだぞよ?」
「了解。………。ニースとヴェイツも一緒に行こう」
「ニース、行く~」
「ヴェイツも~」
やや茜空になったストラトの空──。
ニースとヴェイツをそれぞれ肩車したフェンリーヴ親子は、ストラトの街を往く。
「しっかし……デカくなったなぁ、お前?」
「そりゃあ、あれから三年だからね……」
「もう三年にもなるんだな……お前がいない間、色々なことがあったぞ?」
「だろうね……。皆に心配掛けたから謝りに行かないと」
「まぁ、分っているなら良い」
大きくなった息子は人としてもちゃんと成長している。そのことがロイには嬉しかった……。
「そういや父さん……装備は剣だけ?」
「有事ではないから鎧は家に置いてある。大臣の補佐が武装して書類整理ではおかしいだろう?ただ、剣だけは下げていないとどうにも落ち着かなくてな……」
黒い高級そうな服を纏うロイの腰には改良された『幻影剣・改』が携えられている。
冒険の勇者を引退しても日々の鍛練は欠かしていない、と自慢気に語る父ロイ。
今ではすっかり重臣の風格を漂わせている……気がする。
「お前が驚きそうな一番の話題は……そうだな。シンから連絡があった。アイツ、結婚したぞ?」
「嘘っ!?ほ、本当に?あの堅物の兄さんが?」
「ハッハッハ。嘘じゃないさ。私は母さんと二人で結婚式に行ってきたんだ。奥さん、物凄い美人だったぞ?」
「へ、へぇ~……。あの兄さんがねぇ……」
真面目な兄が自分から言い寄るとは思えない。では、熱烈に言い寄られたか?可能性はある。兄は母に似て美形なのだ。
「因みに、アイツも勇者を引退して今やアステ国の領主様だ」
「はい……?な、何でいきなりアステの領主に?」
「話してなかったか?母さんは領主の一人娘。シンの奴、その実家に頼み込まれて領主になることを承諾したんだ」
「領主の一人娘だったって聞いてはいたけど……まさかアステ国とは知らなかった」
「しかも只の領主じゃない。アステ国最大の領地を持つイズワード……つまり大領主様だ」
ライは素直に驚くしかない。誰よりも勇者らしかった兄がアステ国の大領主になったのだから当然だろう。
同時に、自分の祖父がそれ程の地位に在ったことが不思議な気分だった……。
「じゃあ、後で御祝いの挨拶に行かないとね。………。そう言えば、兄さんは俺が行方知れずだって聞いてたんだよね?何か言ってた?」
「ん?ああ……『アイツは生きている』と疑ってなかったよ」
「そっか……」
最後に会ったのはもう六年以上前になるだろうか……そんな兄は結婚し領主。時の流れを感じざるを得ない。
しかし、ライの生存を信じてくれていたならば恐らくは優しい兄のままと考えて良い筈だ。
「なぁ、ライよ……少し聞いて良いか?」
突然真剣な面持ちになったロイは、少し逡巡した後にライへ提案を持ち掛ける。
そこには父としての気持ちと大臣補佐としての使命が入り交じっていた。
「どうしたの……父さん?」
「お前、クローディア様に仕える気はないか?」
父が言いたいことは直ぐに理解できた……。
故郷であるシウト国を支えることは、其処に住まう家族や友人達を守ることを意味する。
ライが得た力が超常である以上、国の為に使うべきという意見はあながち間違いではないのかもしれない。
ロイは『力ある存在』の末路をライに歩ませたくない意図もあったのだろう。
超常に至る者は、やがて恐れられ排除される──ならば、今のシウト国で多く尽力し不可欠な存在となればそれを避けられるとロイは考えたのだ。
しかし……ライはそんな父の気持ちを理解しながらも、その申し出を断った。
「気持ちは有り難いけど、俺は国に仕える気は無いよ。寧ろ俺はどこの国の権力にも関わっちゃいけない気がする。困っているなら手助けはするけど、俺を当てにした考えは持って欲しくないかな」
「それは……何故だ?」
「結局、俺の力は魔王と同じなんだよ……。そんな力に国家規模で頼れば人は間違いを犯す気がする。トシューラがベリドに頼って謀略を巡らした様にね……。大聖霊達が極力人と関わらなかったのは、多分それを知っているからだよ」
「………」
「悪いね、父さん。でも俺は俺として正しい道を探す」
「そうか……そうだな」
バシリとライの背を叩いたロイ。勇者を貫く我が子への励ましでもあるのだろう。
そんな親子の視界にシウト王城『慧王殿』の門が見えて来た。
そこはライの旅立ちの原点──全てはここから始まったのだ。
勇者ライ、堂々の帰還である……。
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