第五部 第五章 第十三話 アウラの求めたもの


 再訪したアプティオ国。国の発展に目を見張っていたのも束の間、更なる驚きがライ達を襲った。


 元トシューラ貴族のマコア……今はアウラと名を改めたは、見紛うことなき美女になっていたのである……。



「嫌ねぇ……そんなに驚かなくても心は変わってないわよ?」

「お、おお……外見が違うと印象が違うんだよ。先入観なんだろうけどさ……」

「で、どう?綺麗になったでしょう?」

「あ、ああ。驚かされたよ……立派な金髪美女だ」

「良かった。あ……そうそう。一つ報告があるの。私、婚約したのよ?」

「へぇ~……良かったな。こんにゃ……へ?こんにゃく?」

「婚約よ、こ・ん・や・く」


 スクリと立ち上がったレフティスは、アウラの隣に並び照れ笑いをしている。


「私はアウラと婚約したんだよ、ライ」

「………。え?マ、マジで?」

「うん。アウラは何かと私を支えてくれたんだ。今となっては傍に居ないなんて考えられないよ」


 マコアの事情も以前の姿もレフティスは知っている。だが、それも踏まえてレフティスはマコアを選んだのだ。


「………。悪い。少し驚き過ぎて……二人とも納得してるんだよな?」

「ええ……勿論よ。覚えてる?ライちゃんが以前言ったこと……」

「……ああ。将来結ばれる相手が現れて、過去を話せるかってヤツだろ?まさか、こんな早くに見付かるなんてな」

「それもこれもライちゃんのお陰よ。私、今が一番幸せかもしれないわね」


 アウラのその言葉でライはふと納得した。ああ……これはアウラが求め続けていたものなのだと。


「アウラ……幸せになるのはこれからだろ?」

「ライちゃん……ありがとう」

「そっか……レフティスが……。良かったな、二人共……」


 レフティスはまだ若いので数年後に挙式という形になるらしい。


「良かったですね、アウラ様……」

「トウカちゃん……ありがとう。ウフフ……お姫様も決心したのね?」

「はい……自分に正直になることにしました」

「頑張ってね。応援してるわ」


 優しくトウカを抱擁するアウラ……以前スランディ滞在の折、色々と面倒を見てくれたアウラはトウカにとっての姉の様な存在。今の姿ならその辺りも違和感はない筈だ。


 ただ、ホオズキは何が何だか分からないといった表情で首を傾げている。


「ウインディちゃん、どういうことですか?」

「ん~?えぇ~とね?あの金髪のひと、元々男だったの。しかも凄く大柄の」

「な、何ですとぉ!」

「ライが何かしたらしくて女の人になったのよ。本人が望んでいたらしいんだけど……」

「……。それが王様と婚約……つまり、お妃様……。す、凄いです!」


 感動のあまりアウラに憧憬の視線を送っているホオズキ。アウラもそれに気付いたらしい。


「あら?可愛い子が居るわね……獣人の子?」

「いや……あの姿は【御魂宿し】の影響だよ」

「【御魂宿し】ってあの?本当にいたのね……私、初めて見たわ」


 興味を唆られたアウラはホオズキに近付き挨拶した後、いきなり抱擁を始めた……。


「ハハハ……やっぱり中身は変わらないか」

「うん……」

「オルネリアさんは認めてくれたのか?」

「王が決めたのなら私が口を挟むのは不粋でしょう?」


 いつの間にか傍に来ていたオルネリア。白のドレスに身を包み穏やかな顔をしている。初めて会った時に比べると随分と優しい印象を受けた。


「ハハハ……確かに。本人同士が納得している訳ですからね」

「でも、これで私も安心出来ます。……不思議なものですね、縁というのは」

「そうですね。敵味方に別れていた者が一つ国に集った……それだけでも凄い話なのに、まさか王の妃様になるなんて」

「我々は皆、ライ殿のお陰でここに……」

「スト~ップ!手助けはしましたがそれは過去の話でしょ?アプティオは建国からが始まり。そして俺は単なる友人……分かりましたか?」

「……そうですね。ありがとう」


 首肯くオルネリア。ライの照れ臭さを理解し、敢えて話題を取り下げる。


「ところで……今この国は問題を抱えている訳じゃないんだろ、レフティス?」

「アプティオ自体にはね……。でも、ペトランズ側は魔獣が暴れているだろ?それで交易路の確保が大変らしくて……」

「海には出て来ないのか、あの魔獣は?」

「うん。どうやら海水が苦手らしくて……羽根があるから翔ぶことも出来るみたいだけど、ペトランズからは出た様子は無いと商人組合から報告を貰ってるよ。油断は出来ないから警戒は怠らない様にしてるけど」

「……成る程ね。どのみち対岸の火事って訳にはいかない訳か」


 少しでも交易を拡大し国を安定させたい今のアプティオ国には、魔獣の存在は痛手になる様だ。


「まぁ、そっちは戻ったら急いで何とかするよ。少しだけ待っててくれ」

「頼りにしてるよ、勇者殿」

「おう!……それで改めて聞くんだけど、先刻は何で揉めてたの?」


 ズバリと斬り込んだライ。実は殆ど聞こえていたが、敢えて確認の意思を見せた。


 そこで一度全員着席し改めて説明が始まることになった。



「実は小国アウロンの民がこの国に避難しているんだけど、魔獣討伐に力を貸して欲しいと頼まれてな……」


 プラトラム達騎士の気持ちとしては手助けしてやりたいのだが、国が安定していないことと魔獣が海を越える可能性を捨て切れないことで躊躇しているのだという。


「遠征となれば数日……更に討伐となるとどのくらい掛かるか分からんからな。他国の為に犠牲まで覚悟して首を突っ込むのが正しいのか分からん」

「でも、アスレフさんとしては手助けしてやりたい訳ですね?」

「まぁな……。俺達リーブラは色んな国から見離されたが、だからこそ俺達はそうはなりたくないって気持ちもあるのさ」

「でも、王のレフティスとしては自国優先だよね」

「そう。だから良い返事をしてやれていないんだ」


 レフティスとしても助けてやりたい気持ちはある。だが、今のアプティオはまだ弱い。他国に兵を派遣する余裕は無い。


「アウロン国はシウトの同盟国……わかった。それは俺が帰るついでに助力するよ。で、アウロン国の人達は?」

「北の港に居る。青い揃いの装備をした団体が居るから直ぐに分かる筈だ」

「了解」

「待て。俺も行く」


 スクリと立ち上がったアスレフ。が、ライは直ぐには席を立たない。


「アウラ。頼みがあるんだけど……」

「何かしら、ライちゃん?」

「トウカとホオズキちゃんの服を幾つか見繕って欲しいんだ。急に同行することになったから用意していなくて……出来ればディルナーチ様式の服を中心に頼むよ」

「分かったわ」

「悪いんだけどお代が無いから皆に神具を造る。それでチャラにして貰える?」


 ディルナーチの通貨は全て置いてきてしまった。ペトランズの通貨は魔石採掘場以来一銭も持っていない。

 『無一文勇者』たるライは、技術で対価を支払うことにしたのだ。


「そもそも恩人のライちゃんからお金を取る気は無いんだけど……」

「まぁ、備えだと思えば良いよ。魔獣でも魔物でもトシューラでも、外敵が来た時に力が必要だろうし……」

「……そうね。なら、ありがたく頂くわ」


 早速神具作製を始めたライはレフティス、プラトラム、アスレフの剣や鎧に各種魔法を付加。三人はその性能に驚きを隠せない。


「ん?アウラは剣じゃないのか?」

「今の私の武器はこれよ?」


 アウラが腰から外したのは金属片を組み合わせた様な鞭。これがまたゴスロリ衣装と組み合わせても異様に似合っていた……。


「鞭か……ま、まぁ良いや。あと防具は?」

「この服で良いわよ?」

「……これだと防御が弱いか?なら……」


 ああだこうだと考えつつ出来上がったアウラの装備。鞭は各種攻撃、その場で作製した腕輪が防御と回復。服には《加速陣》を加えた。


 身体が変化したことで戦い方を変えたアウラに適した神具。どうやら満足してくれた様だ。


「……お代より遥かに高い気がするけど」

「じゃ、婚約祝いということで……」

「婚約祝いが武器防具なんて少し複雑ね……」


 同様にオルネリアにも幾つかの神具を用意し手渡す。少しばかり気張ったのは、かつてオッパイを見た謝罪であることは内緒だ。


「私にまで……」

「オルネリアさんは魔術師タイプですから、あまり重装備は付けない方が良いかと。指輪は《魔法増幅》、腕輪は左右で防御と回復魔法。あと、この羽衣に《飛翔》と《加速陣》《減速陣》……短刀にも攻撃系魔法を付加しました」

「……ライ殿には改めてお礼をしたいと考えているのですが」

「それはまた来訪した時に期待しています」


 屈託なく笑うライには損得勘定という思考は無い。メトラペトラはまたも呆れていたが、トウカは何処となく嬉しそうだった。


「さて……それじゃ行きますか、アスレフさん」

「わかった。案内する」

「トウカ、ホオズキちゃん、また後でね」

「はい」

「わかりました」


 アスレフに案内され北の港へと向かえば、遠巻きながら多くの船が停泊しているのが見える。西の港よりも数が多いのは、ペトランズ大陸からの避難者の船が停泊している為だろう。


「あれ、皆難民の船ですか?」

「ああ……今は陸に用意したテントに移動して休んではいるが、かなりの数だ。食料もそのうち足りなくなる可能性もある」

「実は一応ながら魔獣駆除したんで今なら戻っても大丈夫なんですけどね……」

「なっ!ほ、本当か?」

「本体を倒してないんで絶対では無いですけどね?まぁ、なるべく早くカタを付けるつもりです」

「………お前にはつくづく驚かされるな、全く」


 そんな存在との縁はアプティオにとって掛け替えのないもの。アスレフはより深い縁を結ぶ為にある提案をする。


「……お前、オルネリア様と婚姻するつもりはないか?」

「は?な、なな何をいきなり……」

「オルネリア様はレフティス様とアウラ様が婚約なされて以来、何か達観してしまってな……このままでは未婚になり兼ねん」

「い、いや!あれだけ美人なんですから引く手数多でしょ?」

「それがお眼鏡に適う者がな……どうだ?」

「い、いや、俺は……」


 その時、ライの頭上の悪いニャンコの目が光る。


「貰っても良いが、ライは奥手での……相手がどうしてもというのであれば考えておこう」

「お、おい、ニャンコ!何を……」

「本当だな?約束だぞ?」

「アスレフさんも何を……」

「ニャンコ、嘘つかない」

「嘘吐け~っ!」


 思わぬところでハーレム要員ゲット!と悪いニャンコは喜んだ。

 しかし、ふと思い返せばあることに気が付いた。


(あれ?既に結構な人数じゃな、ハーレム……)


 全員がそれに乗るとは限らないが、今後も増える可能性も無きにしも非ず……。

 一体何人増えるのか……既にメトラペトラも判断が難しくなってきた。



 最終的にはメトラペトラの予想を超えた候補者数になるのだが……悪ノリを続けるニャンコは止まらない。



 そうこうしている内にライ達は北の港に到着。そこで待っていたのは、アウロン国の勇者との出会いだった……。


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