第五部 第五章 第十一話 また会う日まで 


 

 『首賭け』への介入で魔王に扮したライは、トウカと共に不可侵地帯を離れ飛翔していた。



「ライ様……どちらに向かっているのですか?」

「御神楽だよ。そこにメトラ師匠が待っているんだ」

「そういえばお姿がありませんね……」


 既に仮面を外し白髪、黒の袴姿に戻っているライ。同様にトウカも『双輝角』の解放を止め普段通りの姿に戻っていた。



 飛翔が出来ないトウカを抱え間近にある御神楽への『転移門』を抜けると、そのまま最上層の社へと移動。

 待っていたのは、メトラペトラ、ラカン、スイレン、ホオズキ……。


 そして───。


「お父様!」

「トウカ!」


 そこには死んだ筈の二人の王──ドウゲンとケンシンの姿があった……。


「お父様……やはり生きていらしたのですね?」

「うん……。もしかしてトウカは、ライ君から何か聞いていたのかい?」

「いいえ……。ですが、ライ様は信じろと仰いました。だから、必ずお父様は無事だと……。でも、本当に……良かった」


 ドウゲンの胸に飛び込み泣きじゃくるトウカ。信じると言ってもあの光景を見ていたのでは、不安は当然のこと。


「全く……やってくれたじゃねぇか、ライよ」


 ケンシンは改めて自らの身体の負傷を確認している。白い袴装束は赤い血の染みが滲んでいるが、傷はどこにも残されていない。


「一体何をした?俺はドウゲンと相討ちになった筈だぜ?」

「それはワシが説明してやるぞよ?」


 ライの頭上に移動したメトラペトラは、『首賭け』の為にライが用意した細工の説明を始める。


「先ずライが前日に両国の陣営を巡ったのは、別れの挨拶の為……だけではない。あの時、様々な細工をしておったのじゃよ。刀や決戦の地にの……」

「細工だと?一体何を……」

「お主らのその刃にはライが魔法を仕掛けておったのよ。手に取った時点で無意識に相手を殺さぬように行動する幻覚魔法 《逡亡しゅんぼう》……気付かんかったじゃろ?」

「ちっ……もうあの時に仕掛けてやがったのか」


 肩を竦めるケンシン。メトラペトラは溜め息を吐き話を続ける。


「《逡亡》は当人に迷いが無い場合、発動すらしない──意味は分かるの?」

「……やれやれ、お節介な話だな。俺達も理解はしていても止める訳にはいかなかったんだ。でなければ、誰が好き好んで友の命を奪うかよ……」

「つまり、それを信じたライの勝ちじゃ……。その意味、しかと噛み締めることじゃな」

「仕方無ぇな……だが、お陰で子供達の先を見られるんだ。それで帳消しにしてやる」

「………ひねくれもここまで来れば一端じゃな」

「うるせぇ」


 一同は穏やかに笑う。失わず済んだことは歴史的に見ても奇跡……。だが、その立役者たる男はどこか口数が少ない。



「それでニャン公……俺達はどうしてここに居る?」

「それはそれは手間が好きな痴れ者が居てのぅ……?お主らに雷撃が落ちた辺りまでは覚えておるか?」

「ああ……。相討ちになって死を覚悟した直後だな」

「あの時観衆が見た雷はライの雷撃魔法じゃが、お主らに落ちたのは只の閃光……光魔法じゃ。雷に似せて光に包んだに過ぎん」


 地中に隠れていた分身ライは、その閃光に紛れ二人に刺さった刃を引き抜き即座に魔法で回復。

 直後、メトラペトラの転移魔法 《心移鏡》にてドウゲンとケンシンを御神楽へと転送した。


 入れ替わりにライの分身が大地魔法で土人形を形成し、戦いを見守っていた者達に気付かれる前に魔王に扮したライが消し飛ばす──確かにかなり手間である。


「成る程な……じゃあ、俺達は死んだことになってる訳か」

「そうじゃ。お主らは今後、御神楽で暮らすことになる。此処なら正体が割れても騒ぎにならんしの?納得いかぬかぇ?」

「………いや。死ぬよりマシだ。だが……」


 ライに近付き腹部に拳を当てたケンシンは、呆れるように溜め息を吐いた。


「魔王のフリしてディルナーチの民を敵に回した気分はどうだ?ん?」

「……俺は俺が出来ることをやっただけですよ。覚悟を見せろと言われたんで見せただけです」

「ちっ……そんな暗い顔して良く言うぜ」

「………違うよ、ケンシン」


 トウカから離れたドウゲンはライの前に立つ。


「ライ君はあの中で魔王を演じることは覚悟していた。元気が無いのは、これでディルナーチから去るつもりなんだろう?」

「……はい。結果はともかく『首賭け』に介入したのは事実ですから、責任を取らないと……」

「責任……かい?」

「はい。一年程は国外追放扱いにして貰うことになってます」


 クロウマルは何度も拒否したが、名目上何らかの処罰が無ければ筋が通らないとライは押し切った。その結果の追放……。


 本来、『首賭け』への介入は死罪に相当する罪。それが一年程度の追放で済むなら軽い……のだが、恩人に対する行為ではないことも確かだ。

 それを無理に頼んだのはライなりのケジメ。何せディルナーチの民を謀った身……久遠・神羅に再訪した際、後ろめたさが無いようにという自らへの罰でもある。


 奇しくもそれは、王位に就いたクロウマルが最初に下した処分……互いに一生忘れることはないだろう。


「勿論、何かあればペトランズから駆けつけるつもりですよ」

「君はそこまで……」

「俺にとっては大切な国なんですよ、久遠国も神羅国も……」

「ありがとう。………。今だから話すけどね、実は私は『首賭け』で死ぬ筈だったんだ」

「え……?」

「ルリの《未来視》では、私が助かる未来は無かったんだよ」


 だからこそルリは、ドウゲンを生かそうと必死になったのだろう。しかし、結局ルリはドウゲンが生きる未来を特定することなく他界した。


 だが……可能性は残した。それが勇者ライの来訪という未来……。


「君の未来は多過ぎて特定出来なかったとルリは言っていたよ。そして君と関わる者は皆、未来が変わる。勿論良い方向にね……だからこそルリは、その多彩な未来に賭けたんだ」


 その未来の中にはドウゲンが助かる未来があると信じ、ルリは双子の姉スズにライをディルナーチに導く役割を託した。その結果、久遠王は異国の勇者と出会ったのだ。


 今この時は、まさにルリの願った未来──。


 ルリの【未来視】とライの【幸運】という存在特性が噛み合ったからこその未来と言える。


 ドウゲンは、そこにルリの想いを感じていた……。


「今私が生きているのはルリとライ君のお陰だよ」

「……きっとルリさんの想いが俺に力を貸してくれたんですよ。俺はドウゲンさんにどうしても生きて欲しかった……たとえドウゲンさんにさげすまれても、必ず救うと決めていたんです」

「ライ君………」


 ドウゲンは空を仰ぎ改めて想う。


(ああ……ルリの導きでライ君が現れた時、きっと私の命に君の想いも宿っていたんだね。ありがとう……ルリ)


 愛した妻に生かされた──ならば、命を軽んじる訳にはいかない。


「私は御神楽で生きるよ。クロウマル、久遠国、そしてこのディルナーチの為に出来ることを続けて行く」

「はい……」

「ありがとう、ライ君……」


 そんな二人を見ていたケンシンは、頭を荒々しく掻いた後諦めの表情を見せる。


「わかった、わかった……ライよ、俺の負けだ。お前は俺達の意地を尊重しながらも最善の結果を見せた。お前の意地、確かに見せて貰ったぜ」

「……ケンシンさん。奥さんはどうするんです?」

「アイツもここに呼ぶさ。構わないか、ラカン?」


 ケンシンの申し出をラカンは快く承諾した。


「構わんが一つ……この御神楽の地は地上より魔力を集め分散させる役割を負っている。つまり……」

「魔力が溜まるから魔人化し易いってか?構わん……妻は元々魔人だしな。俺やドウゲンは助けられた身……どうせなら長く国を見守ってやろうじゃないか。なぁ?ドウゲン?」

「ハハハ……そうだね」


 そんな会話を聞いたライは、用意していた腕輪を二つ懐から取り出しドウゲンとケンシンに手渡した。


「何だこりゃ?」

「幻術と飛翔を《付加》した腕輪ですよ。御神楽に暮らすことになっても家族には会いたいでしょ?」


 幻術で顔を変えれば街中を歩いても問題はないという配慮。もっとも、死んだ人間が歩いていても他人のそら似で済む話ではあるのだが、そこはお節介勇者の親切心。


「……そうか。なら、ありがたく貰っておくぜ」

「私も頂くよ。ありがとう、ライ君」


 これでライの久遠国での役割は全て終わった……。

 結果には満足感もある。しかし……ライの胸中には不思議な寂しさが残る。



「ライよ。ペトランズに帰るなら御神楽の転移神具で送るぞ?」

「ラカンさん……。いえ、その前にスランディ島に寄って行こうかと……」

「ペトランズの魔獣は大丈夫なのか?」

「取り敢えず分身が見張ってますから、何かあれば直ぐに判かるようになっています」

「そうか……ならばせめて、スランディまでは送らせてくれ」

「はい。お願いします」


 転移陣への移動の間、ライはスイレンと別れの挨拶をすることにした。


「スイレンちゃんにも世話になったね」

「いえ……。父や母もライ殿のお陰で随分明るくなりました。去ってしまうのは残念です」

「スイレンちゃん、たまにはリクウ師範のところに顔出してあげてね。寂しがってたから」

「……そうですね」


 御神楽の連絡役を担っていたスイレンは、ライの行動を見る中で己の力不足を痛感したとのこと。一度リクウの元に戻り修行を行うつもりらしい。


 一方で、久々の再会を果たしたトウカとスイレン。友人同士何やら積もる話を始めたので、今度はホオズキに語り掛ける。


「………。と、ところでずっと気になってたんだけど……ホオズキちゃん、その頭の上にあるのは何?」

「何って、耳ですよ?」

「じ、じゃあ、その腰の辺りから出てるものは?」

「尻尾に決まってるじゃないですか……見たことないんですか?」

「あ、あっれぇ?き、昨日は無かったよね……?」


 さも当然のような顔で呆れているホオズキに戸惑う勇者さん。


 実は御神楽に到着して真っ先に気になっていたのはホオズキの変化……。ドウゲン達が優先なので敢えて触れなかったが、ホオズキは一日会わないだけでケモミミ娘になっていた……。


 山吹色の獣耳が頭上に生え、腰から尻尾が三本伸びている。髪も金色に変化し毛先に行くにつれ紅葉の様な赤のグラデーションに変わっていた。


「ね、ねぇ、師匠……これって……」

「う、うむ……。【御魂宿し】で間違いあるまい。しかし、驚かされたわ」

「となると、中に居るのは……」

(私です、ライ)


 念話で語り掛けてきたのは狐の霊獣コハク。御神楽の地に送った後、何だかんだと会いそびれていたコハクは何故かホオズキと契約を結んだらしい。


「久しぶり、コハク。何回か来た時に姿が無かったんだけど……」

(はい。恐らくその時は、ホオズキと契約していて力の修練をしていたのでしょう)

「昨日は居なかったけど?」

(今日の為に色々と準備をしていたもので……)


 融合したコハクの半身、レイジュの骨を探しだし取り込んできた……そう語るコハクの力は更に高まっているのを感じる。


「まさか、ホオズキちゃんと契約したなんて思わなかったよ」

(ホオズキはとても優しく清らかな子です。この地に来てとても良くして頂きました)

「うん。ホオズキちゃんが純粋で面倒見が良いのは知ってるよ」


 照れているホオズキは、その胸にヤシュロの卵を抱えている。


(そんなホオズキの手助けがしたいと考えたら、自然と契約の流れになって……)

「そっか……。ん?ところで、今日の為って何だ?」

(それはホオズキから聞いて下さい)


 話を振られたホオズキは偉そうに咳払いを一つした後、勿体付けてから語り始める。


「コホン!え~……ホオズキ……」

「咳が出てるけど風邪ひいた?喉に良い飴持ってるけど食べる?」

「頂きます!……。……や、やっぱり後で頂きます」


 ライとメトラペトラは“ ガビ~ン! ”と衝撃を受けた。


「ホ、ホオズキちゃんが飴を拒むなんて……こ、これは何かの病……」

「お、おお、落ち着け、ライよ!【御魂宿し】は病魔を受け付けぬ。となると、ホオズキの精神……」

「ま、まさか!ホオズキちゃんが大人に?」

「こ、これは由々しき事態じゃ……ホオズキが大人になるなどあってはならぬこと」

「ホオズキ、お二人に会った時から大人ですよ!」


 ムフゥ!と意気込むホオズキ。更にホオズキから爆弾発言が飛び出した。


「え~……ホオズキ、ライさんに付いて行きます」

「えっ!嘘!?」

「本当ですよ?ライさんはこの卵を連れて行くんですよね?」

「そ、そのつもりだけど……」

「じゃあ、ホオズキは卵のお母さんですから一緒に行きます」

「………」


 困惑しているライとは対照的に、メトラペトラはニマニマとしている。


「で、でも、ホオズキちゃん……それなら御神楽で卵を任せることも出来るけど……」

「もうすぐ卵が孵りますよ?良いんですか?」

「それは……」


 ヤシュロとハルキヨの子が無事に生まれるのを見届けることは、ライにとっての責務だと考えていた。


「でも……ホオズキちゃんは本当に良いの?」

「ホオズキはこの子のお母さんですから、立派に育てなければなりません。それに、コハクちゃんのお陰で空も飛べますから邪魔にはなりませんよ?」

「いや……そういう話じゃなくて……」

「話は終わりです。ホオズキはもう決めました」


 この様子を見たラカンは、苦笑いでライに提案した。


「連れて行けば良かろう。どのみち卵から孵ったら誰かが育てねばならぬのだろう?」

「ですが……」

「ホオズキが自ら出した答えだ。聞いてやっては貰えないか?」

「………。わかったよ、ホオズキちゃん。一緒に行こう」


 一瞬満面の笑みを見せたホオズキ。慌てて澄まし顔で応える。


「ライさんはケダモノだから任せられませんので」

「……お、俺はいつになったらケダモノから脱け出せるの、ホオズキちゃん?」

「はい?ライさんはケダモノ、ケダモノと言ったらライさんですよ?」

「……へ、へぇ~……」


 そのやり取りを見ていたメトラペトラは、笑いを堪えきれずライの頭上でのたうち回っている。


 メトラペトラはホオズキの本心を理解している。何せ焚き付けた当人なのだから。

 ホオズキがハーレム要員候補だという話は当然ライに黙っているメトラペトラ……実に悪いニャンコである。



 そうこうしている内に転移陣に辿り着いた一同。これでライはディルナーチとしばしの別れとなる。


「また来い。次はゆっくりとな……」

「お世話になりました、ラカンさん。でも、御神楽はいつでも連絡出来ますよね?」

「そうだな。御神楽は正確にはディルナーチの国ではないからな……時折スイレンに連絡をさせるとしよう」

「はい。何なら遊びに来て下さい」

「ハッハッハ!それも良いな」


 握手を交わしたライとラカン。影からライを支援し続けた御神楽頭領は、この後もディルナーチの子孫達を見守って行くのだろう。


「ドウゲンさん、ケンシンさん」

「うん。気を付けて行きなさい。困ったことがあったら連絡を。私はもう自由の身だからいつでも駆け付けるよ」

「はい……ありがとうございます。お世話になりました」

「また会おうね」


 親子ほどに歳の離れた友人、ドウゲン。王の重責から解放され、今後は新たな人生が始まる。


 同様に王位から解放されたケンシンは、既に何をするか決めた様だ。


「俺はカリン達と連絡した後、嫁と一緒にディルナーチ大陸を旅するつもりだ。お前のお陰で正体もバレないだろうからな」

「それも良いんじゃないですかね。そうだ。寿慶山の主である金龍は知り合いですから、一度行ってみて下さい」

「そうか。覚えておくぜ」


 残るはスイレンとトウカ。が、トウカがここで歩み出た。


「私も連れて行って下さい」

「トウカ……。でも、それは……」

「お願いします……御迷惑はお掛けしませんから……」


 ライに縋るように申し出るトウカ。しかし、ライとしては姫君を連れて行くことが流石に躊躇われる。

 トウカの気持ちには薄々気付いている。だが、これ以上一緒にいれば辛い思いをさせるのではないかという不安もある。


 そんなライの気持ちを押し切るように、トウカの背を押す言葉が続く。


「連れて行ってくれないか、ライ君」

「ドウゲンさん……」

「トウカが自らこんな大きな決断をしたのは初めてなんだ。きっとその決意は固い。それに、君の傍にいることはトウカの成長にも繋がる」

「………」


 続いてスイレンがトウカの背をそっと押した。


「トウカは魔王と戦っていることになっています。どのみち直ぐに帰る訳には行かないでしょう?」

「スイレンちゃん……」

「ライ殿……私の友人をお願いします。時折連絡で会いに行きますから、泣かせる真似はしないで下さいね?」


 再びトウカに視線を戻せば、潤んだ瞳でライを見つめていた。ライはこの目にとても弱い……。


「……俺はバカだから、辛い思いをさせるかもしれないよ?」

「それでも私は、ライ様の傍に居たいのです」

「…………」

「どうか……お願い……」

「……わかった。本当に良いんだね?」

「はい!ありがとうございます!」


 パッと輝くような笑顔を浮かべたトウカ。ドウゲンとスイレンも温かく見守っている。


「お父様、スイレン……行ってきます」

「うん。身体に気を付けるんだよ」

「頑張ってね、トウカ」

「はい!」


 トウカは身仕度をする間はないが、スランディ島……アプティオ王国に行けば準備は出来るだろう。


「あ……これ、お返ししないと……」

「御雷刀か……お前、それを持っていても問題無いか?」

「え?はい……特には……」

「そうか……。ならば、御雷刀も役割を終えたのだろう」


 しかし、ライから御雷刀を受け取ったラカンはガクリ膝を突いた……。


「ラカンさん!」

「だ、駄目だ……。力が抜ける」


 御雷刀から手を離したラカンは、深呼吸の後力なく立ち上がった。


「御雷刀は主にしか持つことは出来ぬ。つまり、どうやらお前を主として認めた様だぞ?」

「え……?」

「誰も失わず『首賭け』を終わらせたからかもしれんな。構わないから持っていろ」

「で、でも……」

「恐らくクロウマル達では技量不足で扱えまい。ドウゲンやケンシンは既に死人扱い……このままここに置いても無駄だからな」


 しかし御雷刀は長刀。あまりライ好みではない。


「トウカ……これ使ってくれないか?」

「え?わ、私がですか?」

「多分、俺の意思で譲渡すれば大丈夫だと思うんだ。前例もあるし……」


 竜鱗の魔導装甲がそうであるように、御雷刀にも意思があるならは譲渡は可能な筈。久遠王家の血を引き、剣の達人。強大な力を内包するトウカならば御雷刀も納得する……ライはそう考えた。


「分かりました」


 とはいえ、ラカンの姿を見た後である。トウカは恐る恐るライから御雷刀を受け取った。


「……どう?」

「はい。特には……」

「どうやら認めて貰えたみたいだね。ラカンさん、これで良いですか?」

「そうだな。久遠王家の血を引くトウカなら、御雷刀も納得なのだろう」

「よし。じゃあこれで……」


 ライとメトラペトラ、トウカ、ホウズキは、転移陣へと進む。


「ワシはちょくちょく遊びに来るぞよ?酒を用意して待っとれ、ラカン」

「おう。いつでも来い」

「皆さん、お世話になりました。また必ず来ます。どうか御元気で」

「お前もな。また会おう、ライよ」


 ラカンの言葉を最後に陣が輝きだし、一瞬の閃光──次の瞬間、ライ達の姿は既に消えていた。



「……何かと騒がしい奴らだったな」

「そうだね……だから余計に寂しく感じるよ」

「死に別れた訳じゃねぇんだ。また会えるなら問題ねぇだろ?」

「うん……わかってる」


 そうは言ってもドウゲンとケンシンは寂しさを隠しきれない。

 ラカンはそんな元・国王達の背を強く叩く。


「さぁ……今日は『首賭け』が無くなった記念すべき日だ。いや……お前達の子が王位に就いた記念か?」

「俺達が死んだ日でもあるがな?」


 ケンシンの鋭い指摘はドウゲンの笑いのツボに入ったらしく、必死に堪えているのが判る……。


「……。と、ともかく、今日くらいは酒を呑んでもバチは当たるまい。スイレン、酒だ!皆にも伝えろ!今日は祝いだと!」

「はい!」



 その日は『最後の首賭け』『国王二人の死』『久遠・神羅の和平成立』『二人の新国王誕生』『襲来した魔王の撃退』……そして──。



 一部の者達には、ディルナーチ大陸を救った勇者との『しばしの別れ』の日となった……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る