第五部 第五章 第六話 『首賭け』前日  


「戻ったんだな、ライ」


 久遠・神羅の両国境付近──『首賭け』の為に設置された久遠国側の陣営。

 そこでライを真っ先に出迎えたのはクロウマルだった。



「クロウマルさん。スミマセン……。ギリギリになってしまって……」

「いや。間に合ったなら良い」

「それで……現状は?」

「ああ……。結論から言えば私の力は及ばなかった……」



 クロウマルは帰国後、父ドウゲンに『首賭け』の中止……いや、廃止を進言した。


 ドウゲンと神羅王ケンシンの誓いと決意……それは確かに重いもの。だがクロウマルは、新しい両国の関係が王の血で始まることがどうしても納得出来なかった。


 そこでクロウマルは、自ら久遠国全領主の元に赴き『次代の久遠王』として署名を嘆願して歩いたのだ。

 久遠の領主達は皆、クロウマルの成長に心打たれ署名を行った。更に同行したトビやミトの説得を加え久遠の隠密達の協力も取り付けた。



 だが───ドウゲンがクロウマルの言葉を聞き入れることは無かった。



 そこにあったのは王としての確固たる意思。ドウゲンが周囲の意見を考慮しなかったのは、これが初めてとなるだろう。


「お前のお陰で神羅に渡り、両国の蟠りを取り去ることが出来たというのに……やはり私は無力だ」


 苦悩が滲むクロウマルの表情。ライはその肩を叩き励ました。


「ドウゲンさんにも譲れないものがあるんでしょう。クロウマルさんの気持ちも届いてはいる筈です……後は俺に任せては貰えませんか?」

「ライ……。済まない……父を……頼む」


 ライはニコリと笑いもう一度クロウマルの肩を叩く。そしてクロウマルにだけ聞こえる小声で囁いた。


「ドウゲンさん達を救っても王位はクロウマルさんが継ぐことになります。だから……強くなって下さい」

「ああ……そうだな」

「後はトビさんに話しておきますから確認して下さい」

「……わかった」


 クロウマルから視線を移すと、リンドウとトウテツ、そしてシギが待っていた。


「久しぶりだな、ライ」

「そうだな……シギとトウテツは割と最近会ったけど、リンドウとは二人の結婚式以来か?」

「ああ……お前も修行が忙しかったんだろうが、俺も必死だったからな」

「そういや、今はジゲンさんのトコで修行してるんだっけ……どうだ、調子は?」

「まぁそれなりに、だな……。剣の腕は上がった気もするが、領主としてのジゲン殿から見倣う部分も多い。俺はまだまだだ」

「そうか……」


 リンドウは以前とは見違える程に落ち着いた雰囲気になっていた。


 気の荒さは消え一端の剣士の雰囲気を纏い、言葉の中にも苛立たしさは見当たらない。何か信念を見付けた……といった風情だ。


「首賭けの影響でカエデさんとの婚姻は先延ばしになっちゃうな」

「まぁ、その間は修行だと思えば良いだろ。俺には足りないものがあるしな?」

「いや……今のお前は随分大きくなったよ」

「お前にそう言われるとは思わなかったぜ?………。なぁ、首賭けが終わったら本当に帰っちまうのか?」

「ハハハ……今の俺はいつでも来れるさ。心配すんな」

「そうか……じゃあ、俺の婚儀には来てくれよ」

「わかった。そうするよ」


 固い握手……リンドウは既に領主の器の片鱗を見せ始めている。


「トウテツ……サヨさんは?」

「ああ……事態が事態だからな。城に居るように言っておいた」

「……?」

「実はお前やクロウマル様達が去った後で判ったんだが、サヨが妊娠した。だから、あまり首賭けの様な場にはな……」

「ホ、ホントに?」

「ああ」


 少し照れているトウテツの手を取りその肩をバシバシと叩いたライ。


「おめでとう、トウテツ!いやぁ……トウテツもやることやってたんだな……」

「い、いや……婚姻しているんだから当然だろう?」

「ハハハ……そりゃそうだ。でも、これでコテツさんも安心だな」

「ああ……。私もこれ程早く世継ぎが出来るとは思わなかった。お前には感謝している」

「ん……?俺は何もしてないぞ?」

「……全てはお前が居たことの流れだ。もしかしたら私はハルキヨの手に掛かり死んでいた可能性もあった」


 嘉神の騒乱の際、囚われていたトウテツ──ハルキヨが領主になっていれば偽の領主一族として処刑されていたと自覚している。


 ハルキヨは自らの手を汚す覚悟を持っていたからこそコテツを手に掛けた。友だったコテツを亡き者にした覚悟を考えれば、トウテツやカエデを放置する訳がないのである。


 そんなトウテツ達を解放したのはライ。更にライは、飯綱領でトウテツとサヨを結び付けた。

 トウテツの為に身分の違うサヨを飯綱領主イブキの養子にして欲しいと頼んでいたことも後に知った……。



「お前が私の為にしてくれたこと……生涯忘れない」

「堅いなぁ~……お前はもう少し肩の力を抜いた方が良いぞ?友人の為に動くのに恩を感じる必要はないよ」

「それでも……ありがとう」

「ハハハ……トウテツも次に会う時は父親か。頑張れ」

「ああ」


 となると同時期に婚姻しているシギも同様かと思いきや、そちらはまだオメデタではないらしい。


「何だよシギ……まさか任務が忙しくてツグミさんと居る時間が無かったのか?」

「そういう訳ではないんだが……急ぐ必要は無いと思ってな……」

「それ、ツグミさんと話し合った方が良いぜ?お前の都合とツグミさんの気持ちは別かもしれないからな。ま……嫁さん居ない俺が偉そうなこと言えないけどね?」

「いや……確かにそうかもな。後でちゃんと話し合ってみるとする」


 シギは王直属の隠密になって随分と出来る男になったが、その分家庭に気が回らなくなっている自覚はある様だ。


「まぁ、これからはディルナーチの隠密の役目も変わって仕事も減るかもね……トビさんの力になってやってくれ」

「わかってる……任せてくれ」

「それとリンドウとトウテツ……二人はクロウマルさんを頼むよ。領主やその嫡男としてだけじゃなくて、親類っていう身近な立場。それと友人としてさ……支えてやって欲しい」

「わかってる。任せろ……な、トウテツ?」

「ああ……」


 クロウマルにはトビ以外にも友が必要となるだろう。それはこの先、神羅と交流を繋ぐならば尚更のこと……それはクロウマルも理解している筈だ。


 若い世代の繋がりは久遠国を更に発展させて行く……ライはそう確信している。




 久遠国で最初に友人になった三人……彼等との挨拶を終えたライは、次に縁の出来た領主達との面会に向かう。

 そこでは三人の領主がライの到着に喜びの笑みを浮かべていた。


「ライ~!」

「リル!元気だったか?」

「うん。リル、元気だよ!」


 ライを見付けその胸に飛び込んだのは、最近少しだけ言葉が流暢になったリル……海王の化身だ。


 リルを抱え上げたライはそのままライドウとスズに頭を下げ挨拶。二人はどこか嬉しそうだった。


「ライ殿」

「ライドウさん、スズさん……スミマセン。結局『首賭け』を止めることが出来ませんでした……」

「仕方あるまい。ドウゲン様がこれまで意地を通したのは初めてのことだ……最早誰にも止められん」

「でも……俺はその為に呼ばれたんでしょう?」


 海賊からスズを救ったあの時に不知火領に招き入れられたのは、王を救う為だと今なら判る。


「ルリさんの《未来視》がどこまで見えていたのかは判りませんが、『首賭け』の地に俺が居るのは視えていた……お二人はそれを聞いていたんでしょう?」

「今更隠しても仕方ありませんね……。その通り、ルリはライ殿がこの地に到るのを視ていました。そして『首賭け』を止められないことも……」

「スズさん……何故ですか?俺が『首賭け』を止められないことを知っていて、何故……」


 ライの問い掛けに寂しそうに微笑んだスズは、ルリから聞いた《未来視》をライに語る。


「ライ殿の来訪が皆の心を解放すると言われたのです……この『首賭け』の時までライ殿がディルナーチに居ることこそが、最善の結果を生むのだと……」


 それまで黙っていたメトラペトラは、その言葉の意味するところをライに伝えることにした。


「ルリという者はお主の存在特性【幸運】を視ていた様じゃな。関わった者を最善へ……事実、久遠・神羅の諍いは明日終わりを迎える。見事な《未来視》じゃ」

「それがドウゲンさんやケンシンさんの犠牲で成り立つとしてもですか?王とその家族にとっては【不幸】じゃないですか……」

「じゃが、ディルナーチ大陸にとっては最善の結果じゃろう。ルリは妻としてではなく王族としての最善を選んだ……そうは思わんか?」

「……俺には……納得出来そうにありません」


 トウカから聞いた話では、久遠国王妃ルリはとても家族を大切にしていたという。

 王妃とはいえそんな人物が、愛する夫や子供達の不幸を選択するのだろうか……ライはそれがどうしても納得出来ない。


 その気持ちを読み取ったのか、メトラペトラは念話でライに語り掛ける。


(……もしかするとじゃが……お主がやろうとしていることまで視ていた可能性もある)

(……それならスズさん達も聞いていませんか?)

(さてのぅ……《未来視》能力者が派手に動けば歴史に関与することになるからのぅ。ラカンもあまり大規模には関与はして来んじゃろ?)

(ラカンさんは『首賭け』の結果は知らないって言ってましたけど、本当でしょうか?)

(分からん。アヤツは結構嘘吐きじゃからの……それに今はそんなことを論じている場合ではあるまい?)

(そうですね……俺のやることは変わりませんから)


 そう……やることは変わらない。

 たとえ何と言われようとも、失いたくないものがある。


 親しき者達を混乱させるかも知れない。だからこその別れの挨拶……。


「イブキさん、お久しぶりです。天雲丸も連れてきたんですね?」

「ええ。私の家族だから」

「良かったな、天雲丸。可愛がって貰えよ?」


 ウォン!と一吠えしたした天雲丸はまだ念話が出来ない様だが、イブキとの意思疎通は成り立っている様子。


「ライ殿にはお世話になったわ。いつか恩返しをしたいから、また戻ってきてね?」

「はい。その時を楽しみにしてます」

「そうそう。ツバメとヒバリが話をしたがってたわ。後で聞いてあげて」

「はい」


 周囲を捜し木の陰に隠れているツバメとヒバリを見付けたが、先ずは領主達との話を優先することにした。


「ジゲンさん……は、この間会いましたね」

「うむ。あれは楽しかった……両国が友好を結んだら、またやってくれんかな」

「ハハハ……それ、面白いですね。毎年大会開くのも良い研鑽になるかもしれませんし」

「その時はライ殿も参加してくれ……」

「善処します」


 ニカリと笑ったジゲンだったが、珍しく直ぐに笑みを消し真顔でライに問い掛ける。


「……で、ライ殿は何をするつもりなのだ?」

「……流石ジゲンさんですね。本当は黙っているつもりだったんですが」

「……話してくれるか?」

「はい……」


 ライがやろうとしている行為を聞いたライドウとイブキは、複雑な表情をしている。


「……本気なの?」

「はい。ドウゲンさん達の意を汲んで最小限の被害はそれしか思い浮かばなかったんです」

「そう……」


 またも一人で背負おうとしているライにイブキは何も言えない。同様に、ライドウも自らが引き込んだ為にライを止めることが出来ない。


 ただ、ジゲンだけは頷いている。



「ライ殿が決めたことならば儂は尊重する。何か手伝えることはあるか?」

「首賭けに乱入した俺を俺と思わないで下さい。俺は偽りとはいえ大罪を犯すことになる。皆さんが遠慮して見過ごすような真似をすれば不信が拡がります」

「……わかった。普通に外敵として対峙するとしよう。分かったな、ライドウ。イブキ」


 渋々ながら承諾の意を見せたライドウとイブキ。ライは笑って誤魔化す。


「ホラ……死ぬ訳じゃないし、誰かの特定もされない様にしますから……」

「この国の大恩人たるライ殿にそんな役を負わせることになるとは……」


 項垂れるライドウをメトラペトラが諭す。


「ライドウよ。此奴が適任なのじゃ。異国に帰る身で、騒動を起こせる力がある此奴こそがな……」

「大聖霊様……」

「後に此奴がディルナーチに戻った際、温かく迎えてやれば良いのじゃよ。わかったの?」

「はい……」


 そんな様子を確認したライは、抱えていたリルに頬を付けた。そしてリルの頭を撫でつつ優しく伝える。


「リル……これでしばらくお別れだ。新しいお父さんとお母さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」

「ライ……行っちゃヤダ!」

「リルをペトランズに連れて行くと、ライドウさんやスズさんとお別れになっちゃうぞ?」

「ヤダ!ヤダヤダ!」

「良し……じゃあ、リルにはこれをやる。本当に我慢出来なくなったら、この指輪に呼び掛けるんだ。そしたらライは直ぐに駆け付ける」

「本当……?」

「勇者、嘘つかない」


 リルの小さな指に嵌められた指輪は玄淨石と純魔石を組み合わせたもの。

 リルの姿が成長するのかは判らないが、常に最適の大きさを維持出来る様に調整してある《念話》特化の指輪……これならばペトランズのライの元まで届くだろう。


「また遊びに来るからさ……お利口にしてるんだぞ?」

「うん……リル、待ってる」


 リルをスズに預け、ライは改めて深く頭を下げた。


「お世話になりました。俺はドウゲンさんと話した後、一度姿を消します。多分そのままお別れに……でも、必ずいつかまた来ます」

「こちらこそ感謝している。いずれ、また……必ず」

「はい。リンドウの結婚式もありますしね」

「ハッハッハ。そうだな……」


 ライドウ、イブキ、ジゲンと固い握手を交わしたライは、後ろ髪を引かれながらもその場を立ち去った……。



 続いて木の陰に隠れていたツバメとヒバリの元に向かったライ……実は二人は時折、カヅキ道場に来訪していた。


「ツバメさん、ヒバリさん」

「ライ殿……あ、あの……」

「はい?」

「帰ってしまうというのは本当なの?」

「……トビさんから聞いたんですね?」

「はい……」


 隠密達にはトビから事情説明がされている。『梟』も『鴉』も協力してくれる手筈になっていた。


「あのですね……その……」

「?」


 何やらモジモジしているツバメに痺れを切らしたヒバリは、アッサリと気持ちの代弁を始めた。


「えぇとですね?ライ殿が帰ると寂しくなるっていう話です。ツバメったら、本当は付いて行きたい程ライ殿が好きなんですよ?」

「ちょっ!お、お姉ちゃん!」

「許嫁や恋人が居ないなら是非付き合って欲しいと言ってました」

「キャーッ!キャーッ!」


 叫びながら姉ヒバリの胸ぐらを掴み揺さぶるツバメ。


 その様子にメトラペトラはニヤリと笑うと、ライの頭から飛び立ち隠密姉妹の側でヒソヒソ話を始めた。


「実はのぅ……お主らの様な女は何人か居るのじゃ。ライ本人は三人しか気付いておらんがの?」

「そ、そうなんですか……」

「じゃが、ライはお子ちゃまでの?まだ誰が好きだとは決められん……そこで、じゃ?今回のほとぼりが冷めたら、ワシがちょくちょくディルナーチに連れてくる。上手く行けばライを独り占めじゃが、もしダメでも妻の一人にはなれるかもしれんぞよ?お主が嫌じゃなければ、じゃがの?」

「是非お願いします」


 ツバメ、即答。対して少し呆れているヒバリ……そんなヒバリにメトラペトラが耳打ちを続ける。


「お主には正直なところを話すが、ライは結構心が弱いんじゃ。じゃから支える者は多い方が良いのじゃよ」

「………しかし」

「最終的には神格……つまり神の域に至るじゃろう。それでも納得出来んかぇ?」

「神様……」


 そうなるとまた話は変わってくる。人を超えた存在ならば複数の妻が居ても不思議ではないのでは?と、ヒバリは考えてしまう。


「………選ぶのはツバメですから良いですが、弄んだりしたら私が赦しません」

「そこは保証する。ライがそんな奴に見えるかぇ?」

「……いえ」

「大聖霊メトラペトラの名で約定を交わしても良いぞよ?」

「……わかりました。でも、そうなるとライ殿の取り合いですか?」

「ワシとしては皆で支えて欲しいがの……そればかりは当人達の気持ちがどう変化するかじゃな」


 チラリと視線を移せばツバメはライに身を寄せていた……。


「……ま、まぁそんな訳じゃ。お主もどうじゃ?」

「わ、私は……」

「想い人が居らんなら考えてみるのも良かろう」

「…………」


 再びライの頭上に戻ったメトラペトラ。ライは何やら悪いニャンコの気配を感じた……。


「師匠……何の話をしてたんですか?」

「ん?女の子同士の話を聞こうとするものじゃ無いぞよ?」

「………」

「で、ツバメには何と返事をしたんじゃ?」

「え?えぇと……まだ何とも言えないけど、誠実に答えますって……」


 実のところツバメは割と人当たりの良い性格をしている。明るく気さくで他人への配慮も忘れない。もし最初にライが出会っていたならば、一途な恋愛になった可能性も無きにしも非ず……。


 出会いとは時に残酷である。



「そ、それじゃまた……」

「は、はい。待ってますね」


 どこかぎこちない二人……取り敢えず返事は保留。今は優先すべきことがあるのだ。


「ツバメ……あなた分かってるの?」

「え?何が?」

「ライ殿に好意を向けている中には姫様もいるのよ?」

「……そうだった。で、でも負けないもん。ライ殿、身分で判断する人じゃないし」

「あなたのその挫けない精神は本当に感心するわ……」



 ライの知らぬところでジワジワ増えるハーレム要員候補……最終的に何人になるのかの鍵を握っているのは悪いニャンコである……。




「これで後はドウゲンさんとトウカ、リクウさん、それとトビさん……」

「そう言えばトビの姿が見えぬが……」

「トビさんは今、神羅国側で打ち合わせしてくれています。ドウゲンさん達と話をしたら神羅国側に行きましょう」



 国境付近の草むらに張られた陣営は、垂れ幕で周囲を囲んでいる。更にその周辺には警備の兵が配置されているが、皆ライやメトラペトラの存在を知っているので警戒する様子は無い。

 そんな本陣の入り口に近付くと、トウカとリクウが出迎えてくれた。


「ライ様……」

「トウカ……修行は終わった?」

「はい。ライ様の言葉で私も覚悟が決まって力をちゃんと扱えるようになりました」

「そっか……」


 リクウはうんうんと頷いている。


「リクウ師範……改めてお世話になりました」

「うむ。私もお前には世話になった……お前のお陰でトウカとも仲直りが出来た。家にも金を入れられて肩身の狭い思いをせずに……ううっ……」

「くっ……!世知辛ぇ……!」

「ハッハッハ。冗談だ、冗談。だが、トウカの件も含め感謝しているのは本当だぞ?」


 リクウは満足げな顔をしている。


 弟子を育てきった身……その愛弟子はこれから何かを成そうとしている。



「……何をするのかはやはり言わんか。まぁ、想像は付くがな」

「ハハハ……何だかんだとリクウはライに似ておるからの……」

「大聖霊……呑み仲間が居なくなるのは少し寂しいな」

「なぁに……ワシはいつでも来れるからの。そんなに心配せんでも『みなごろし』は久遠にしかないんじゃ……直ぐにまた来るわ」

「よぉし!じゃあ、直ぐに宴会だな?ワッハッハ」

「そうじゃな……ハッハッハ」


 生温い視線で師匠コンビを見るライは、諦めて放置することにした……。



「トウカ………明日、何が起こっても俺を信じてくれる?」

「勿論です」

「全部終わったらまた会おう。そこで改めて話をしよう」

「はい。必ず」


 微笑み会うライとトウカ。明日は王の命懸けの戦いだが、そんな気配は微塵も感じられない……。


「それじゃ、ドウゲンさんに会ってくるよ」

「はい。父を……宜しくお願いします」

「わかった」




 ライとメトラペトラはゆっくりと陣の奥へと進む。



 そこには……決戦を明日に控える久遠王ドウゲンが、いつもと変わらぬ微笑みで待っていた──。


 

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