第五部 第四章 第三十四話 ディルナーチを背負う者達


 神羅国内の戦いは遂に終結した───。




 王位争いから始まったと思われた神羅各地での騒動……しかし、その真相はトシューラ国の侵略が絡んでいた。


 いや……それはトシューラと言うよりも、ベリドの思惑の結果とも言えるもの。そしてそのベリドの意思も途中から介在しなくなったこの騒動は、実質イプシーが全てを操っていたことになる。



 そのような過程はどうあれ、神羅国が失ったものは取り返しが付かない程に重いものだった……。



「カリン……キリノスケの遺体は……?」


 ロクエモンの別邸内……未だ獣の姿をしているカゲノリは、実弟キリノスケの死を悔やみ項垂れている。



 カゲノリは結局、元の姿に戻ることは出来なかった……。


 魔獣融合前ならばライにより分離することは可能だっただろう。しかしカゲノリは、細胞単位で完全に融合してしまっていたのである。

 今のカゲノリは聖獣との融合体……見た目は巨体を持つ白い狼男といった状態だ。 


「はい……。王城……『天狼城』に運びました。葬儀の準備が進んでいる筈です」

「………。済まぬ、カリン……俺は長兄でありながら真っ先に奴等に操られた。そのせいで実弟は命を縮め、その許嫁まで………。そして妹であるお前までも苦しめた。この罪、最早この命を以てしても償い切れぬ」

「いいえ!生きて下さい、兄上!お願いです!」

「カリン……」



 カリンの言葉に獣の目から涙が流れ落ちる。


 黒幕と思われたカゲノリは悪ではなかった……。それだけでカリンは救われた。


「私達兄妹は敵ではなかった……私にはそれが大事なのです。だから……」


 カリンはカゲノリを背にした後、平伏し嘆願を始める。


「皆々様……この度は助力頂き本当にありがとうございました。そんな身で厚かましいことは重々承知をしています。しかし、是非ともお願いが御座います。どうか……兄を、カゲノリを御赦し頂けませんか?もし、赦して頂けるのならば、この身を差し出しても構いません……。だから、どうか……」


 この言葉に慌てたのはカゲノリだ。


「馬鹿を言うな!もうこの国を託せるのはお前だけなのだぞ!?俺など……捨て置け!」

「嫌です……。折角……折角カゲ兄様の心が帰って来たのに、また失うなど堪えられません……。皆様、どうか……」


 平伏したまま嘆願を続けるカリン。そんなカリンの手を取って起こしたのは、クロウマルだった……。


「諸悪は去った……それで良いではないか、カリン殿?俺やトビは本来この地に居ない存在。口出しを出来る立場ではないよ」


 続いて口を開いたのは銀龍コウガだ。


「俺も同様だ。龍は人の政治にまでは口を出さぬ。それに、キリノスケノは最後までカゲノリ殿を信じていた。それが正しかったのだ……ならば言うことは無い」

「クロウマル殿……コウガ殿……」


 カリンは涙を止められない……。


「カリン様。私の望みはカリン様の幸せ……御心の召すままになさりませ」

「サブロウ……ありがとう」

「我々隠密も同様で御座います。カゲノリ様……私は今後カリン様に仕えます。宜しいですか?」

「うむ……頼むぞ、シレンよ」


 シレンの忠義心にカゲノリは満足そうに頷いている。


「となると、お前次第だな……ライ?」


 突然クロウマルに話を振られたライは、間の抜けた顔で驚いていた。


「へっ?お、俺?」

「何だかんだと駆け回ったのはお前だろ?後はお前が決めてくれ……」

「………わかりました」


 ライは肩を竦めて苦笑いをした。


「どうせなら全員集めてから話しましょう。それと……イプシーの遺体は俺が処分しても?」

「それは構いませんが……どうするのです?」


 突然の申し出にカリンは怪訝な表情で首を傾げている。

 そんな視線に苦笑いで返したライは、正直な気持ちを伝えることにした。


「コイツ……イプシーもある意味被害者なんですよ。やったことは決して赦されるものじゃなかったけど、そこには主の為という忠誠心があったんです。死んだことで罪が償えるかは分からない……でもせめて、最期は故郷の地に帰してやろうかと……」


 イプシーは魔人化しても正気を保っていた。正気だった故に異常なベリドの力に触れ、自らも常軌を逸した……ライはそう考えている。


「お前は敵にすら情けを掛けるのか……?」

「死人に鞭打ちたくないだけですよ。イプシーは出会った相手が悪かった……だから……」

「そうか……」


 カゲノリには少しだけライの気持ちが理解出来た様だった……。


 イプシーと出会いその力を利用しようとした故に操られたカゲノリには、自分の立場とイプシーを重ねたのかもしれない。


「じゃあ、イプシーを埋葬して来ます。ついでにゲンマさん達を連れて来ますから」

「わかりました。私達もやることがありますので……」

「メトラ師匠。ドレンプレルまでお願いします」

「良かろう」


 イプシーの遺体を抱えたライは、メトラペトラの転移魔法 《心移鏡》の中へと姿を消した。



「……結局、我々はあの男に多大な恩を作った訳か………」


 カゲノリは意識を取り戻しただけでなく、怨敵であるイプシーを討つ手助けもして貰ったことになる。


「それは我々久遠国も同じだ。あの男はその身を厭わず動き、良き国へと変える貢献をしてくれた」


 久遠国は言うまでもなく、クロウマルやトビの魂さえも呼び起こした。神羅国に同行し無事でいることも間違いなくライのお陰である。


「そして我々龍も救われた、か……。あの男はディルナーチを変えたのだな……」


 銀龍コウガは翼神蛇アグナを死ぬまで封印するつもりだった。しかし、アサヒの心を汲んだライはアグナからコウガを救ったのだ。


 そして……弟たるラゴウまでをも救ったことをカグヤから聞かされたのである。



 更には聖獣・霊獣を含めたディルナーチの多くの存在に手を差し伸べ、そして多くを導いた。

 その存在の大きさを皆は実感している。



「そんな存在がディルナーチに現れたのは本当に幸運……なのですね」


 カリン自身もそれを感じる程に恩恵を受けている身……。特にカゲノリ、そしてキリノスケとホタルの魂を救ったことは返しようが無い程の恩義と言える。


「だが、あの男は恩恵を与えたとは思わないのだ。恩賞も名誉も殆ど受け取ろうとはしない」


 クロウマルの言葉に頷いたのはサブロウだ。 


「……普通ならば裏があると思うのだろうがな。ライ殿からすれば縁ある者への手助け程度としか考えていないのだろう。だが、それが大きい」

「ああ。しかし、我々ディルナーチの民は間もなくライと別れねばならない。首賭けが終われば、ライはペトランズ大陸に帰るだろう。だから……それまでに和平の足掛かりを創りたい」

「………クロウマル殿」



 それこそが神羅来訪の最大の目的。ライが安心して帰れるように……一同はその為の話し合いを始めた。



 一方……イプシーの遺体を抱えたライは、トシューラ国ドレンプレルから少し離れた片田舎に居た。


「全く……敵を丁重に弔うなど、甘ちゃんにも程があるぞよ?」


 定位置のライの頭上でタシタシと足踏みしているメトラペトラ。


「死んだら敵も味方も無いですよ。少なくとも俺はそう在りたいと思っています」

「……まあ良いわ。で、どうするんじゃ?」

「イプシーは家族を捨てているんで……それにこの姿じゃ……」


 どうみても異形。このまま家族に返すことはとても出来そうにない。


「ならばどうする?」

「イプシーはこの姿を誇らしく思っていた。だからこのまま弔おうかと……」


 ライはそう告げると小高い丘に飛翔した。


 そこは小さな村を一望出来る高台。大地を手で掘り起こしたライは、イプシーの遺体を埋葬した。更に石の墓標を立てた後、魔法により花を一面に飾る。


「ここまでしてやるということは、記憶を見たんじゃな?」

「……ベリドの配下だから情報が欲しかったんですけどね。余計なことをしました」


 ライはイプシーの過去を敢えて語らない。本来他人の過去と行く末を見るのは道理に反するのだ。行動に関わることでなければ周知する必要は無い。


 ただ……ライは少しだけ呟いた。


「イプシー……お前の好きだった場所だぜ?次はもっと幸せになれると良いな……」


 巡る魂が幸せであるように……これはライが全ての死者に願うこと。それが叶うかはわからないが、祈らずにはいられない。


「それじゃ先ずゲンマさんを迎えに行きましょうか、メトラ師匠?」

「良し……では、行くかぇ?」

「お願いします」



 転移した先の純辺沼原……そこでは街の復興作業が始まっていた。


「何奴……!」


 ライに最初に気付いたのは剣士の姿をした男……。良く見れば、街の至るところで同様の姿をした男達が復興作業に精を出していた。


「……。何やら顔触れが変化しとる様じゃが……」

「一体何が……あ、あの~……ゲンマさんは居ますか?」

「む?ゲンマ殿の知己の者か?しばし待たれよ」


 剣士が呼びに向かいライに気付いたゲンマは、作業を中断し近付いて来た。


「よう、ライ!……お前がここに来たってことは、目処が付いたのか?」

「いえ……全て終わりましたよ。これで神羅は安定する筈です」

「そうか!やったか!」

「はい。それで……王都に皆を集めて話をすることになったので、ゲンマさんを迎えに来ました」

「あ~……だが、俺が行っても仕方無いんじゃねぇか?」

「いいえ。全ては此処から始まったんです。ゲンマさんは話に加わるべきですよ」


 ゲンマは嬉しそうな顔をしたが、少し困った様子だ。


「そうか……しかし、こんな汚れた姿じゃあな。やはり辞退すべきだろう」

「あ~……大丈夫ですよ。ちょっとばかり動かないで下さいね~」


 《洗浄魔法》発動……少女のお漏らしから生まれた魔法の割に活躍しているな……とメトラペトラは思った。


「おお……こりゃ凄ぇ……」

「後は……メトラ師匠。適当な服を用意してあげて下さい。俺はその間に少し街の手助けを」

「わかった」


 メトラペトラが鈴型宝物庫から衣服を取り出しゲンマが着替えている間に、ライは何やらバタバタと走り回っていた。


「出来ましたか?」

「ああ……どうだ?」

「うん。案外似合ってますね……そういえばゲンマさん、髭は?」

「ハハハ……そりゃ道すがら話す。一応それも王位争い絡みだからな」

「……?」

「それより、お前何やっていたんだ?」

「え……?ああ……皆汚れていんたので、風呂を造って来たんですよ。あと先刻の洗浄魔法を仕込んだ小部屋を用意しました。服を洗うの大変でしょう?」


 街の外れにはいつの間にか小さな小屋が出来ている。屋根の隙間から湯気が出ているので風呂で間違いないだろう。


「全く……お前は相変わらず面倒見が良いというか何というか……」


 里の者達を良く見れば、特に女性達が喜んでいる姿が確認出来る。


「そう言えば、あのお武家さん達は?」

「ん?ああ……それも王位争い絡みでな。縁が出来て今はウチの里のモンだ。まあ、何人かは直ぐに……そうだ!この後オキサト様の所にも行くのか?」

「はい。一応報告に行かないと……。師匠、魔力使って良いんでお願い出来ます?」

「気にする必要は無いぞよ?大聖霊紋章からしっかり抜いておる」


 封印しているライの魔力半分を無駄にしない辺り、流石は師匠である。


「では、この後は久瀬峰、次ぎは八十錫、それから虎渓じゃな?じゃが八十錫と虎渓は行ったことがないぞよ?」

「まあ、そこは飛んで行きましょう。八十錫はそんなに遠くないみたいですし……あ、イオリさんの居場所は向かう前に《千里眼》で確認しないと……」

「そうじゃな。では、行くとするかの」


 ゲンマはサイゾウに街を任せ、ライとメトラペトラの後を追い《心移鏡》に飛び込んだ。




 一行が移動した先は、雁尾領主の街・久瀬峰。ライ達が城門前に突然現れた為門番は驚いていたが、事情を知っている者らしく城内へと案内される。



「ライ殿!」


 庭の方角から呼び掛けたのはオキサト。どうやらドウエツと剣の修行をしていた様だ。


「オキサト君。修行?」

「うん。少しでも強くなりたくて……」

「そっか……今日は報告に来たんだ。王位争いは終わったよ」


 その報告を受けたドウエツは安堵の表情を浮かべた。


 雁尾領はカリン支持。ライが報告に来たならば全て問題なく済んだことを意味している。


「では、カリン様が……」

「はい。カリンさんで王位は確定ですね。でも、カゲノリ……いや、カゲノリさんは生きてます。色々事情を話したいので同行して貰いたいんですけど……」


 オキサトはドウエツを見た。雁尾を空けて大丈夫だろうかという不安があるらしい。

 だが、ドウエツは胸を張って答えた。


「今の家臣達は以前より雁尾を大事にしております。オキサト様に忠誠を誓った際、彼らの目には希望が宿っておりました。だから大丈夫です」

「そうか。ではライ殿……」

「うん。一緒に行こう」


 ドウエツは急ぎ外出の準備を整え、臣下達に城を任せることになった。


 このまま皆で飛翔……と思いきや、ライが翼神蛇アグナを召喚し全員その背に乗って移動をすることになった。


「凄い……」


 感動しているオキサト。ゲンマとドウエツもアグナの大きさに少しばかり驚いている。


「考えたのぅ」

「アグナなら全員乗れるし速いでしょ?……悪いね、アグナ」

『いや。私は戦いは嫌いだ。寧ろこういう役割の方がありがたい』

「そっか……ありがとうな」


 アグナの速さなら八十錫まで然して時間は掛からないだろう。


 そんなアグナの背の上……ゲンマは珍しく礼儀正しくしている。


「オキサト様……実はお願いが御座います」

「ゲンマ殿……改まって何ですか?」

「その前に……俺は一領民ですので、畏まらないで頂きたいのですが……」

「……では、ゲンマ殿も畏まらないで頂きたい。あなたは雁尾の救い人なのだ。【道理比べ】で本来領主になっていたのはゲンマ殿で、私はそれを譲って貰った身……対等に扱うのが最低限の礼と私は思う」

「………わかった。では共に雁尾に暮らす友人として頼む」


 ゲンマが語ったのは美景領で出会ったユキヒラ達の身の上……元奥都の家臣に起こった不幸。


「今奴らは俺の里に居る。だが、本来はやはり家臣として仕えたい筈だ。オキサト殿……どうか、家臣に取っては貰えないか?」

「成る程……その者達は信用出来るのか?」

「俺は信じる。手合わせでそれを見抜いた……奴らは必ず忠臣になる」

「……わかった。ゲンマ殿がそう言うならば是非も無し。今は良き家臣が欲しいのも確か……そうだろう、ドウエツ?」

「はい、オキサト様」


 ドウエツは嬉しそうに頷いた。成長目覚ましいオキサトの器に思わず頬が弛んだらしい。


「召し抱えられるのは何名程か?」

「家臣としては二十名程は可能かと……」

「それで良い。どうか頼む」

「わかった。安心して欲しい」


 全員とはいかなかったが、これで奥都の者達も安堵することだろう。


「……もしかして、今の流れで髭を?」

「ああ……美景領主に会うには身綺麗にしないとならなかったからな」

「ゲンマさん、髭無い方が格好良いですよ……ね、オキサト君?」

「うん……悪いけど私もそう思う」


 ガックリと肩を落としたゲンマ。実は髭が格好良いと思っていたらしい……。


「ぐっ……。俺の髭は評判悪かったのか……」

「まあまあ。これでゲンマさんも嫁さん貰えるんじゃないですか?」

「………。そ、それより、八十錫の城が見えて来たんじゃないか?」


 嫁の話が出るとアサガオの話題になりそうなので、さっさと話題を変えたゲンマさん。八十錫の城が見えたのを良いこと惚ける気満々である。


 が……八十錫の城がハッキリと見え始めた途端、話題自体が吹き飛んだ。


「……城、天守が吹っ飛んでるぜ?」

「ああ……あれ、カゲノリさんの側近だったフウサイがやったんですよ。フウサイはカズマサさんが倒しましたけど……」

「カ、カズマサが?マジか……?」

「今のカズマサさんはディルナーチでも五本の指に入る実力者ですよ。初めての戦闘で覇王纏衣から黒身套にまで手を掛けましたし」

「んなっ!」


 流石のゲンマでも驚きを隠せない。最初に覚えた纏装が覇王纏衣、実践で未完成ながら黒身套、明らかに尋常ならざる事態だ。


「ゲンマさん、うかうかしてると抜かれちゃいますよ?」

「くっ!負けん!俺は負けんぞ!」


 突然鍛練を始めようとしたゲンマを宥め八十錫の城に到着。

 アグナの姿に驚き警戒をする八十錫兵だったがカズマサが駆け寄り事なきを得た。


「ライ殿……じゃなくて、ライ。こ、この巨大な蛇は?」

「聖獣・翼神蛇アグナだよ。それより迎えに来たんだけど……ヒナギクさんは?」

「あ、あ~……今、御領主と斬り合いしてる」

「はい……?」

「ま、まあ親子の交流だよ……それより、オキサト様やドウエツ様。ゲンマさんまで……」

「うん。全部終わったんだ……。だから迎えに来た。王都で今後の話し合いをする為にね」

「わかった。じゃあヒナギク殿を呼んでくるよ」


 しばし後、カズマサはヒナギクを連れて戻る。何故か虎の様な印象を受ける厳つい男も一緒だ……。


「………」

「………」


 ゲンマと睨み合う厳つい男……。突然二人は殴り合いを始めた。

 慌てたカズマサが割って入り事なきを得たが、二人は不敵な笑みを浮かべている。


「……ふっ。やはり戦う男か」

「貴様こそな。剣を使わんのか?」

「俺は剣士じゃない。どうする?この場で決着を付けるか?」

「いいだろブッ!?」


 ヒナギクの手刀炸裂……。ヒナギクは呆れ果てた顔でゲンマに顔を向けていた。


「ゲンマ殿……まさか父と同じ種類の方だったとは」

「ほう……。ということは八十錫領主か……面白い」


 やる気満々のゲンマ。何やら変なスイッチが入っている。カズマサの話で火を付けてしまったらしいが、今はそんな場合ではない。


 ライはさっさと移動することに決めた。


「いやいやいやいや……と、とにかく、今は王都に向かいましょう。八十錫の御領主との手合わせは後で勝手にお願いします」

「………確かにそうだな」

「えぇ~っと……。イオリさんは……あ、王都に居る」


 《千里眼》で確認したイオリは王都……どうやらサブロウが見付け、既にロクエモンの屋敷に居る様だ。


「そっか……じゃあ、アグナ。ここまでで大丈夫だ。助かったよ」

『わかった。いつでも呼んでくれて良い』

「ああ。頼りにしてるよ」


 契約紋章を通りアグナは帰還した。


「じゃあメトラ師匠。王都にお願いします」

「良かろう」


 だが、ムクリと起き上がった八十錫領主シシンがそれを妨げる。


「に、逃がさん!」

「仕方ない……殺るか?」

「いい加減にして下さい、父上!ゲンマ殿!」


 久々のカオス状態……ライは盛大な溜め息を吐き大笑いした。


「ま、良いか。このまま領主さんも連れていきましょう」

「そうじゃな。行くぞよ?」


 特大の鏡が足元に発生……。全員飲み込まれ、八十錫の地に静寂が訪れた。



 向かった先は王都・葵之園──神羅国最後の話し合いが始まる。

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