第五部 第一章 第四話 最終試練、終了
「私はこの姿の試練に……トキサダ様に敗れました」
華月神鳴流・最終試練──トキサダの姿は人と同じに変化した。しかしそれは、真の実力を引き出す為の形状。
かつてそれを体験しているトウカとリクウは、厳しい目で試練を見守っている。
「うむ、そうだったな。そして私はこれと刺し違えて極位伝になった……だが、トキサダ様はあの時よりお強く感じる。何故だ?」
肉体を持たぬトキサダは試練以外に戦う場すらない筈。だが、メトラペトラには容易にその理由の想像が付いた。
「……恐らくじゃが、トキサダ自身が意識下に仮想の敵を作り上げ研鑽をしておるのじゃろう。死しても尚、剣士──といったところじゃな」
どこまでも剣の為……その信念の凄まじさに一同は息を飲むことしか出来ない。
だが……当事者でありながらその場にて笑う者が居る。
「ライ様が……」
トウカの声に促されライを見るメトラペトラとリクウ。そこには険しい表情ながらも確かに笑みを浮かべるライの姿があった。
「ライ様には何か勝算があるのでしょうか?」
「いや……奴は困難に当たると時折笑うことがある。己を鼓舞する為か、困難に挑む昂りからかは判らんが……」
そんなリクウの言葉を聞いたメトラペトラは、溜め息を吐きつつ笑い始めた。
「ハッハッハ!ライは確かに鼓舞や昂りで笑うこともある。が、あれは違うぞよ?」
「どういうことですか、メトラ様?」
「あれは単純に楽しんでおるのよ。自らの力を出し切る……しかも剣術の開祖相手じゃ。
自分の力が開祖相手にどこまで通じるのか……それは確かにライの向上心を駆り立てるに充分の状況。加えて、憤怒や憎悪と無縁の手合わせは心が踊るほどだった。
「さて……こうとなると奴は貪欲じゃぞ?開祖ともなれば相手から吸収すべきことは山積みじゃ。新しい技というのも魅力じゃからの」
メトラペトラの言うように、トキサダの戦い方はライにとって非常に参考になるものだった。何せ六百年もの永き時を伝位授与の名目で手合わせし続けているのだ。
(楽しそうだな、貴公)
「ええ……トキサダさんの戦いはとても参考になる。それに、本当に楽しいんですよ。トキサダさんもでしょう?」
(楽しい……確かにそうかもしれんな。我は死した後も手合わせ出来ることが楽しい。流派の進歩をこの目で確認出来るのが楽しい)
しみじみと自覚したその念話は高揚しているようにも聞こえる。
(……不思議な男だな、貴公は。伝位に興味はないのか?)
「正直、良くわかって無いんです。きっと……それと分かる格付けは、俺には過分なのかもしれません」
(そうか……ならば、今しばし我が剣に付き合って貰おう)
「寧ろこちらからお願いします」
刃を交えること更に一刻半。同門の技の応酬が続く。その中で、ライの動きはトキサダの動きに引かれる様に洗練され始めた。一進一退……その姿はまるで踊っている様だった。
「ライ様とトキサダ様………まるで舞っている様ですね」
「まさに剣舞……だな。だが、あれは確かな剣技。舞踏とは似て非なるものよ」
一太刀一太刀に宿る必殺の威力。それを往なし躱し、反撃に転ずる。もし戦場であれば夥しい死者を生み出す業深き死の技。しかし……その技は、トウカが羨む程に美しい。
「私は……こんな剣を振るうことは出来ません」
母無き後、トウカはその影を追うように居場所を探した。父が変わらず王として振る舞う裏で涙していた姿を見たトウカは、父の支えになる強さを求めカヅキ道場へと足を運んだのである。
強さを求め剣技を学んだトウカにとって、華月神鳴流の技は殺しの技。何処かに嫌悪に近い感情を持ちながらも、その天賦の才覚で全てを熟してしまったのだ。
だが、目の前の光景にはその嫌悪を感じない。トウカは益々自分の剣が恥ずかしく感じた。
そんなトウカに気付き声を掛けたのはメトラペトラだった。
「トウカよ。リクウの言うようにあれは美しい『死の剣技』じゃ……恐らくお主の剣よりも遥かに残酷なもの」
「ですが……」
「良いか?お主はライの負の面を知らぬ。争いが嫌いで誰彼構わず配慮するライじゃが、確実にその手を血で染めておるのじゃ。その人数は……リクウ、お主のそれよりも多いじゃろう」
「………確かに久遠国に居るのでは人を斬る事態は稀だ。魔獣や魔物の相手とはまた違うからな」
「……今のライはただ純然と手合わせを楽しんではおる。じゃがそれは、人を殺した手で錦を織っているものと同じ。決して真似られるものではないし求めてもならぬ」
何よりライはトウカがその手を汚すことを嫌がるだろう、と続けた。
「要は心の有り様じゃぞ、トウカ?お主があの剣を美しいと思うのと同じ、ライはトウカの剣を美しいと述べておった」
「私の……剣が?」
「そして良く考えよ。ライは守る為に技を必要としておる。たとえ自らが汚れようと親しき者を守ると決めたのじゃ。あの剣舞が美しく見えるのは、その決意の美しさと知れ」
「………はい!」
トウカが真剣に見つめる中、剣舞は続く……。
トキサダは達人中の達人。刃を交えることで、ライが強さを求める意味を読み取っているのではないだろうか……。
そんな剣舞もやがて終わりを迎える時が来る。最後に交えた刃でライが距離を取ったのだ。
体力切れ──当然多くの制限の掛かるライの方が疲弊が早い。寧ろライでなければ既に動ける状態ではなかっただろう。
回復力が高くとも体力は無限ではない……それがここに来て明確になったと言える。
そして試練は、遂に佳境を迎える──。
「ハァ、ハァ……ス、スミマセン。もう少し……持つかと思ったんですけど……」
肩で息を切らすライは刀一本で戦っている状態。二本の天網斬りは思いの外疲弊が激しく、維持が出来なくなった鞘は既に斬り落とされ床に転がっている。
それは、相手が強すぎるが故の疲弊とも言えた……。
(いや……良く粘ったものだ。それに戦いが嫌いの割に随分嬉々として戦ったものよ)
「戦いは嫌いですが……互いを高める手合わせは……別ですよ」
(フッフ……手合わせか。確かに楽しかった……。だが、物事には終わりがある。決着の時だ)
「………はい!」
刃の届かない位置まで距離を置いた二人は、腰を落とした構えを取る。それは居合抜きの型……が抜刀状態で鞘は無い。
溜めるように脇に構えた刃。刀を握る手には空いた側の手が添えられ、掌の側面に指を掛けた状態だ。
【抜き身居合い・万化飛燕】
それは華月神鳴流・【三奥義】の一つ──。
抜き身の刃で居合いと同様の振りを生み出す技法は、納刀による動作を省き戦いの中での神速を可能とした。本来は構えの“ 溜め ”も必要とせず、連携の流れにすら組み込める技。
ライとトキサダが溜めているのは、威力を最大限に引き出す為の『攻の型』という形態である。
刀を握り腰に構えた右掌に左手の指を掛け、振り抜こうとする腕の楔とする。それは弓のしなりの様な力を溜める行為……やがて滑るようにその軛から放たれた一閃は、更に左手で素早く刃を外へと弾くことで遠心力を増し加速する。
“ 万化飛燕 ”の名は、刃の弾き方による太刀筋自在を表している。
更に身体の捻りを力に変えた振りと踏み込みを加えた更なる加速──まさに神速の奥義……試練の結末に相応しい技だろう。
「行きます!」
(来い!!)
同時に踏み込んだ二人は遠距離で見ているリクウでさえも目で追えぬ速さ……気付いた時は既に刃を振り抜いた後だった。
「どうなった……?」
ライとトキサダは動きを止めたまま固まっている。だが──やがてライの持つ刃が、根元から音もなく折れ床に落ちた。
「う………ま、参りました」
疲労感から溜め息を吐き膝を着くライ。それに併せトキサダも構えを解く。自らの刃を床に突き立てたトキサダは、ライに近付き手を差し伸べた。
(『真力の行』は終わりだ)
トキサダの手に引かれ立ち上がったライは、疲弊しながらも笑顔を浮かべている。
「流石は開祖……とても勉強になりました」
(何……それこそが我が此処に居る意味。試練を受けた者達による更なる研鑽、更なる精進により華月神鳴流は益々の進化を遂げて行くだろう)
「ご期待に添える様に努力します……でも、敗けたから新しい技は無しですね。残念……」
(いや……元より技は伝授するつもりだった。貴公はこの場にて討ち果たされ退場した訳では無い。こうして我が会話するのも初めてのことだからな……伝授するだけの価値はある。が、その前に……)
それまで戦いを見守っていたトウカやメトラペトラ、そしてリクウの方に視線を向けたトキサダは、改めて声を発した。
『戦いを見届けた者達……この間への入場を許す。話したきこともある故、下りて来るが良い』
試練の間は生涯二度の入場のみ。だが、許可が下りたならばリクウの入場も可能だ。程なく試練の間には全員が揃うこととなった。
「まさか開祖たるトキサダ様だったとは……知らぬこととはいえ失礼を致しました」
『それが試練だ。畏まる必要は無い。面白い弟子を育てたな、リクウ』
「わ、私を覚えてらしたのですか?」
『無論だ。歴代の試練の中で、相討ちとはいえ我を倒したのは貴公だけだからな』
「ですが、二度目は敗北……あれから修練を重ねはしましたが、先程の戦いを見て己の未熟さを感じた次第です」
『ハッハッハ……そう言いながらも、再び試練に挑めれば何か有るような顔だな』
「見抜かれましたか……あれから技を一つ編み出しました。まだ弟子には見せていませんが」
本当は試練に挑むライに伝授するつもりだったのだろう。だがリクウがそれを行わなかったのは、華月神鳴流の技ではなくリクウの技だった為。リクウは伝位認定後に技を伝えるつもりだったのだ。
『それは面白そうだが、話は後にするとしよう。確か、トウカ……だったな。貴公も成長したな』
「トキサダ様……私のことも?」
『リクウ同様の才を見せた者……しかも女の使い手は歴代で数名しか居らぬ。特に貴公は……あの力、使い熟せる様になったか?』
「いえ……お恥ずかしながら……」
『そうか……恐らくそれは貴公の心の問題だろう。使い熟せればこの姿の我を討ち果たすことも可能な筈だ』
「はい……」
トウカは自らの試練の最中に鬼人としての力を解放したのだが、使い熟すことが出来なかったらしい。
『そして……お初にお目に掛かる、大聖霊殿。これも
「ふむ……確かにこれも縁、かの。ワシはメトラペトラという。この試練の間、大聖霊の仕業じゃな?犬公……アムルテリア辺りの仕業じゃろう」
『察しの通り、この試練の間は大聖霊の協力で成り立ったもの。感謝している』
【物質】を司る大聖霊アムルテリアならば、変化自在に動く像に魂を定着させることも可能。やはり、ディルナーチにはメトラペトラ以外の大聖霊も来訪していた様だ。
「で、犬公は戻ってきたことはあったかぇ?」
『いや。この場を用意して貰って以来、姿を見てはいない』
「そうか……」
ディルナーチに戻った痕跡は無い……そもそもライが久遠国に来て以来、各地であれだけの力を使用していたにも拘わらず反応を示さなかったのだ。アムルテリアはやはりペトランズ側に居ると判断すべきだろう。
「まあ、良いわ。それで……ライの伝位とやらはどうなったんじゃ?」
『そうであったな………技の熟練はまだ拙いが、技の意味を良く理解している。それに合わせ型も僅かに変化を果たしていた。それに最後のあの奥義……我は本気でライを斬ろうとしたが、斬れたのは刃のみ。実質互角だった』
「刃を折っていながら“ 互角 ”かぇ?」
『我が使用したのは目指すべき真の万物両断の片鱗だ。真の斬撃は【神】すら切り裂くことを目的としている』
神に会っては神を斬り……という訳では無い。明確な目的として神を斬る技が必要なのだとトキサダは述べた。
『実は天網斬りは使い手の【霊格】に左右される。そして【霊格】はその者の強さの顕れ。ライよ……貴公は『魔人』より上の存在だな?』
「一応、半精霊格だそうですが……」
『通常ならば借物のこの身体……精々が魔人と同格の我が、一つ霊格が上の貴公と斬り合えばせいぜいが互角。だが、我は更なる高みへの研鑽を続けた結果、霊格をも超える斬撃に到りつつある。それが天網斬りを超える天網斬り……【神薙ぎ】だ』
「また物騒な技じゃの……」
『無論、悪戯に力を求めている訳では無い。【神薙ぎ】は封印されし異界の神を倒す為のものだ』
「!……な、何じゃと?まさか邪神を知っておるとは……しかし、何故……」
直接邪神と戦ったのはペトランズ側……しかもトキサダの時代は、邪神襲来よりも更に三百年遡る。道理が合わない。
『……とある者から頼まれた。天網斬りを元にした神殺しの技を編み出して欲しいとな』
「ある者とな?誰じゃ、それは?」
『済まぬがそれは明かさぬ約束なのだ。悪しき者ではない、とだけ断言しよう。ともかく、我は流派の先を見ることを条件としてこの場を享受し技を追求している』
「…………」
メトラペトラは一つの可能性を考えた。邪神を知り、それを倒す為の術を求めた存在………試練の間はその為に利害が一致し造られた。加えて大聖霊アムルテリアとも繋がりのある存在……。
(神……トキサダの頃は二代前の神・ピアースか)
飽くまで可能性……。だが、ピアースは突然姿を消した。邪神襲来を何らかの方法……例えば未来視などで知り、退ける為の行動を取った可能性は否めない。
(まあ良い。分からぬものは分からぬわ)
どのみち今は情報が足りない。ならば考えるだけ無駄というものだ。
「それで……その技は完成なさったのでしょうか?」
トウカの問いに頭を振ったトキサダは、ライの使用していた折れた刀を拾い上げる。
『まだだ……今のところは霊格が二つ上の相手と互角が限界だな。もう少し詰める必要がある』
「もしかして、俺に教えてくれると言った技って……」
『半分は正解だ。【神薙ぎ】は未完成……だが、今回の手合わせで少し掴めた気がする。霊格が上の相手など貴公くらいなものだから試し様もなかった。悪いが後にまた手合わせに付き合って貰いたい』
「分かりました……出来る限りは」
『ライに伝授する技は過程で生まれた派生の技……【神薙ぎ】は複数の特性概念に干渉する。だが、伝授する技は『万物両断』ではなく『波動』の概念に偏った技となった。名を【波動吼】という』
「波動吼……」
『そこで話を始めに戻す。ライの伝位は極位伝に近いが、やはり皆伝としておこう。だが、これは仮としての判断だ。貴公には少し此処で修行積んで【波動吼】を修得して貰う。そのついでとして【神薙ぎ】の修得に手を貸して欲しい』
更なる技……それはライにとっても有り難い申し出だ。
「分かりました。よろしくお願いします」
『感謝しよう。【波動吼】を修得した時点で極位伝を認める』
修行として残ることになったライだが、ここでリクウが嘆願を始めた。
「トキサダ様。ならば私も残ることをお許し頂きたい。私もライに渡す技があるのです」
『それは構わぬが……そうだな。その技、我にも見せて貰いたいのも確か。となると……貴公はどうする、トウカ。鬼人の力の制御、少しは手伝えると思うが?」
ライが残ると言った時点でトウカの選択肢は決まっていた。
「宜しくお願い致します」
『では皆、この地にての修行ということになる。大聖霊殿は如何する?』
「ライはワシの弟子じゃからの。付き合うまでよ」
『良かろう。賑やかになるのは数百年ぶりか……』
こうして一同は、『試練の地』にて各々の修行を行うことになる。
「トキサダ様、我々は一度戻ります。ここでの修行に必要な着替えや食料を用意せねばなりませぬ故……」
『わかった。先ずは明日、貴公の技を見せて貰おう。……特例になるのだろうが、貴公との手合わせを楽しみにしている』
「私もです。……さて、大聖霊はどうする?ここで待つか?」
「いや、ワシも一度戻る。此処には酒が無いからの。移動はワシが手伝ってやるから酒は用意せよ」
「わかった……では、頼む」
ここでライは、この場で待つことを告げた。
「スミマセン、メトラ師匠……疲れたので少し休んでいて良いですか?」
「まあ、あれだけの手合わせじゃからの。ならば着替えはトウカが用意してやってくれんか?」
「わかりました」
「ありがとう、トウカ」
メトラペトラ、トウカ、リクウは、転移魔法 《心移鏡》にて道場へと帰宅。それを確認したライは休むでもなくトキサダに語り掛ける。
「トキサダさん。実は少し話が……」
『何だ?技の話か?』
「いえ……少し相談したいことがありまして」
『……良かろう。だが、大した相談には乗れぬやも知れんぞ?自分で言うのも何だが、我は剣のみの朴念仁であったからな』
「寧ろトキサダさんだからこそ相談出来ると思います」
真剣な面持ちのライ。トキサダはその肩を力強く叩く。
『我が門下は家族と同様。遠慮することはない』
トキサダは確かにそう告げた。ならばこそライの相談にも応えてくれるだろう。
「ありがとうございます。実は……」
それはこれより先の話……ライがやろうとしているディルナーチ最後の目的。
『【首賭け】を止めさせる……か。その意味を解っていて言っているのだな?』
「はい」
『…………』
久遠と神羅の王同士による一騎討ち『首賭け』。
それは両国間の戦を防ぐ為に考案されたものだが、国同士の威信を賭けた代理戦争でもある。妨げることそれ自体、両国からの謗りを受けることは間違いない。
「……首賭けはずっと続いている。そのお陰で両国は戦いから長い間遠退いた。なら今こそ首賭けを無くしても争いは起こらないのでは?」
『……難しいな。首賭け自体が王家にとっての政治になっているのだ』
「でも、久遠国はそんな感じではありませんが……」
『神羅国がどうかまで分かるまい?王の地位が欲しい外野が居れば首賭けを契機に行動を起こす。過去に例もある』
「じゃあ……どうしても避けられないですか?」
『本来ならば貴公が首を突っ込むことではないが……何故、そこまで』
争いが嫌いな男が争いの渦中へと歩みだそうとする行為……トキサダは確認せずには居られない。
「久遠国の人達は温かかったんです。王……ドウゲンさんは優し過ぎる。俺よりもずっと優しいのに、王であるが為に退けない。それに……」
トウカが悲しむのが一番辛い。未だ母の死を悲しむ少女が、優しき父まで失うのは余りに辛すぎる。
『……。気持ちは判るが、難しいだろう。神羅王が貴公の提案に乗れば話は別だが……』
「そう……ですか」
この時ライはある決意を固めたことに、トキサダは何となく気付いている。
『……やはり貴公は剣士からは程遠いな。剣士は修羅の道だが、貴公のは救世の道……しかも困難の中の困難。辛いぞ?』
「それでも……俺は何も見捨てたくはないんです」
『……わかった。ならばこれ以上何も言うまい。そうなるとやはり【波動吼】は役立つだろう』
トキサダは再びライの肩を叩く。今度は労りが籠った優しいもの……。
『先ずは休め。天網斬りの維持は魔力や体力とはまた違う疲弊をしている筈だ。それに【波動吼】の修得も急がねばなるまい?』
「はい……ありがとうございます」
『何……先にも言っただろう?我が門下は家族と同様。それは貴公も含めた話だ』
全てを察し心を汲んでくれたトキサダに感謝し、ライは更なる覚悟を決める。
神羅王に会い『首賭け』を廃止して貰う───。
だが、その前に少しでも力を──。こうしてライの修行は今しばしの時を有することとなった……。
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