第四部 第七章 第十六話 ドレンプレルの魔王


 イシェルド国境の断崖にて対峙することになった『勇者ライ』と『ドレンプレル大貴族・メルマー家』。


 大義で言えば明らかにイシェルドを防衛するライが正しく、他国へ無断侵入しようとしたトシューラ側は返り討ちされて当然の立場ということになる。



 だが……そもそも戦とは不条理なもの。小国が大国に侵略・併合されることなど世の常であることは、ロウド世界でも歴史が証明している。

 それを反省している国など皆無であり、正当性などは後に幾らでも後付出来るのだ。



 とはいえ、それは飽くまで歴史が示した事例。『救いたがりの勇者』からすれば興味もない屁理屈でしかない。


 当然イシェルドへの道を譲る気もなく、自らの意志を貫くのをやめる気も無い。


「やれやれ……何で出て来ちゃったんですか、クレニエスさん」

「……フッ。今は敵だぞ?歳も然程変わらない相手に敬語は不要だろう?」


 不敵な笑みを浮かべるクレニエス。その目には負の感情は無く、確かな信念が宿っている。


「はぁ~……で、どうして気が変わったんだ? クレニエス?」

「……ケジメだ。クレニエス・メルマーが今後どうあるべきか、それを決める為の」

「退く気は無いんだな?」

「……先に言っておくが、俺は侵略をしに来たんじゃない。只、本当のお前と向き合ってみたかった……それだけだ」

「ハハ……アハハハ!案外身勝手だよな、クレニエス?」

「……フッ。出会った時もそうだったろう?」


 この場に来れば必ずライと向き合うことになる。それはライ自身がクレニエスに告げたことだ。



 メルマー家の血筋、兄弟の絆、父との繋り、それらを抱えたまま生きる為のケジメにはお誂え向きの舞台……。だからこそクレニエスは、この対峙に賭けをした。


 勝てばメルマー家としての生き方を、負ければ貴族をやめて自分の思う通りに……まさに我が儘をライに押し付けた形だ。


 だが、物事はそう易々とは進まない。当然ながら異議を唱える者が居る。


「待て、クレニエス。これはお前だけの問題ではない。勝手は許さん」

「……兄上。頼む」

「駄目だ。物事の道理としてはこの男を捕らえるのはメルマー家の責務。ならば、まず私が出るのが筋だろう?」


 突然割り込んだグレスは、ライに対し宣戦布告を始める。


「ライと言ったな……もしや、お前は勇者マーナの兄……『ライ・フェンリーブ』か?」

「そうだけど?」

「一対一……などと甘いことは言わぬぞ?私に与えられた兵の残り三百八十余り……その全てを相手に出来るかな?」


 スラリと剣を抜くグレス。その前に立ちはだかるクレニエスは、グレスの手首を掴む。


「……兄上!」

「離せ!これが戦というものだ!その不条理……それでも押し通さねばならぬのが責任ある者の務め。お前にはそれが足りぬぞ、クレニエス!」

「……しかし!」

「くどい!領主は王命に絶対服従だ。『ライ・フェンリーヴの捕獲』は女王の命令……ならば、成し遂げなければならぬ」


 それが兄グレスの軍人としての在り方……。


 確かにクレニエスは勝手を通そうとしているだけ。メルマー家としての道理はグレスが正しい。


「別に良いよ?」

「……ライ、お前まで……」

「戦場に出て行動しないで帰るのはメルマー家の意地や誇りが許さないんだろ……お前の兄さんにとっては尚更な?なら諦めさせりゃ良いさ」

「随分と余裕だな、ライ・フェンリーヴ。勇者マーナの兄よ……妹の威光を己の力と勘違いしたか?」


 皮肉を込めたグレスの目はクレニエスと同じく負の感情は見当たらない。態度は敵対した相手へのものだが、飽くまで己の筋道を立てているだけなのだろう。


「余裕ねぇ?ところでアンタ達の兵は何処行ったんだろうねぇ?」

「何を言ってい……」


 グレスは背後を振り返りつつ兵達を確認したが、そこには既にメルマー三兄弟以外、誰もいない……。


「なっ!こ、これは……」

「残念ながら、ドレンプレル兵の皆さんはお帰りになりました~」

「き、貴様!何をした!」

「さぁ?猫神様の天罰じゃないかな~?」

「猫神だと?頭のおかしい宗派のことか?」


 この言葉にメトラペトラは“ シャーッ !”と威嚇した。その迫力にグレスは一瞬ビクッとする。


「あ~らら、猫神様もオカンムリだ」

「のう、ライよ?」

「何ですか?」

「ワシを祀ると頭がおかしいということになるのかぇ?」

「アハハ……ハハハハ……。原因はあの猫耳だったんですよ。あれは一応禁じましたから、上手く行けば信者増えますよ?」

「ほ、本当に?」

「はい。勇者、嘘付かない」


 但し……それはメトラペトラへの信奉ではなく、【猫神の巫女】に対する熱狂的信者だろう。まさに方便……ライは『ヤベェ……巫女達に布教については教えてねぇ』と冷や汗を流したのは内緒である。


 一方、グレスには異常事態……。やや錯乱気味に叫んでいる。


「……おい!兵をどうしたと聞いている!答えろ!」

「うるさいのぉ……邪魔じゃからキッチリ送り返してやっただけじゃ」

「お、送り返した……だと?」

「転移魔法でドレンプレルまで送ったに決まっとろうが。消し飛ばさなかっただけ感謝するんじゃな」

「転移……魔法だと!」


 神格魔法の中でも特に稀少な転移魔法……。魔法王国の子孫、カジーム国を以てしてもその使い手は魔人であるエイルを除けば数名のみ。しかも、複数人による補助が無ければ行使が難しいという失われた魔法。

 魔王級存在ですら一部しか使えないそれを、さも当たり前のように行使したのだ。驚くのも無理はない。


 しかし、メトラペトラが使用したのは只の転移魔法ではない。それは、メトラペトラがこの時代で初めて編み出した《心移鏡》という魔法である。



 カジーム国でラジックと邂逅を果たしたメトラペトラは、その魔法理論を熱心に聞いていた。通常の理と違う理論を用いたそれは、神の写し身であるメトラペトラにすら新たなを齎したのだ。


 行ったのは上位神格魔法同士の融合魔法……【如意顕界法】とメトラペトラが名付けたそれは、本来『彷徨う森』や『御神楽島』の様に二体以上の大聖霊の力で成し遂げるもの。

 メトラペトラは、それを単独で行使する魔法式を編み出したのである。


 こと魔法に於いて、メトラペトラは大聖霊の中でも群を抜いている。ことわりに絡む者に天才という言葉は不似合いだが、まさにそんな表現が相応しい所業だった……。



 【如意顕界法・心移鏡】


 対象の目の前に姿見の鏡を出現させ中に取り込むと、その者を転移させることが可能な魔法。『陣を張り送る』のではなく、鏡が目的地にも出現し空間同士を繋ぐというものだ。

 それは正にラジックの転移魔導具を魔法に転用したとも言える魔法である。


「上手くいったのぅ……。うむ、まさか大聖霊のワシに成長の可能性などというものがあるとはのぅ」

「流石はメトラ師匠。後で俺にも教えてね?」

「神格魔法を極めたら、じゃな。魔力負担は少ないが針の穴に極太の縄を通す様な感覚じゃからな」

「……想像すら付かないっすね」


 マイペースな勇者と猫神様。グレス達はようやくその異常さに気付いた様だ。


「貴様らは……一体何だ?」


 ライとメトラペトラは、不敵な笑みを浮かべその問いに答える。


「痴れ者勇者と……」

「おニャン子ちゃんさ」

「……………」

「……………」

「誰がおニャン子じゃ!」

「誰が痴れ者勇者ですか、誰が!」



 どんな場所でも緊張をぶち壊す、それが『痴れ者勇者とおニャン子ちゃん』である。



 苛立ちと焦りに駆られるグレスは、場の空気に付いて行けない。


「くっ!ならば私と立ち合え!」

「………諦めない人だな、アンタも」

「これは俺の……メルマー家長男としての意地だ」

「わかりました。良ござんす」



 メトラペトラに離れるよう合図をしたライは、グレスと対峙して構えた。


「……ライ」

「大丈夫だよ、クレニエス。怪我はさせないで諦めさせるから」


 腰のものを抜かずに構えたライに対し、グレスは魔導具の剣を構えている。


「行くぞ!」


 素早く踏み込んだグレスは、確かに高い剣の技量を持っていた。だが、それは人の範疇を超えるものではない。素早く振り下ろされた刃が魔導具としての効力を発動しかけた瞬間、その刃はライの手でピタリと止まった。


「な、何だと?」

「この刀は大事なもの?」

「………父の形見だ」

「じゃあ、壊さないでおくよ」


 そう述べたライによる拳の弾幕……グレスは上半身を余すところなく殴られ遥か後方へと吹き飛ばされた。


「………怪我はさせないんじゃなかったか?」

「してないよ。ほら?」


 ライが指差した先には無傷のグレスが自分の身体を確認している。お馴染み回復魔法纏装『痛いけど痛くなかった』である。


「……そんな真似まで出来るのか」

「まあ、良くあるからね……絡まれるなんてのは」


 視線の先でフラフラと立ち上がるグレス。再びライに近付こうとした時、突然地に沈み姿を消した。“ うひゃあ! ”という間抜けな声が聞こえた様な気がしたが、ライは敢えて触れない……。


「……メトラ師匠?」

「うむ。こんな使い方も面白いのぅ?」


 グレスは足元に出現した【心移鏡】に飲み込まれドレンプレルへ逆戻りになったらしい。


「……さ、さて。次はアンタだけど?」


 もう一人のメルマー家、次男ボナートは無言でライを見つめている。


「……お前はもしかして、魔の海域で暴れた奴か?」

「……アンタもあの場に?」

「いや……生き残りの中に白髪の魔王を語るヤツが居た。艦隊を沈めた魔王の凄まじさは聞いていたが……まさか勇者マーナの兄とはな」

「あれは俺の身内に手を出した報いだよ。ああでもしないと攻撃を止めなかっただろう?」

「………だろうな」


 トシューラ第一王女・アリアヴィータ付きだったボナートは、『魔王討伐作戦』の折に側近として同行していた。

 しかし、クラウドの画策でアリアヴィータが拉致されたあの時……違和感を察し兵站を離れていたのだ。それがボナートの命を救う結果となる。


 実はその直感力こそ存在特性【危機回避】であることは当人すら気付いていない。


「で……俺の所業を知っているアンタは、どうするんだい?」


 相手は魔王と同等以上の力……到底ボナートに相手が務まる訳がない。

 そこでボナートが起こした行動は予想外のものだった。


「頼む!俺の命を差し出す!だから兄上とクレニエスは見逃してくれないか!」


 突然の土下座──。これに一番驚いたのはクレニエスだった……。


「……兄上!」

「ハッハッハ……済まないな、クレニエス。兄としてしてやれるのはこの程度だ」

「………兄上」


 何のことはない。ボナートは兄弟思いの男だったのだ。


「……俺はな。いや、グレス兄上もか……お前が生まれた時嬉しかったんだ。腹違いだろうと大事な弟が出来たんだからな」


 ボナートの行動は全て家族の為の行動だった。それらは家族愛を知るが故の決意でもある。


「父上は“ 虐殺公 ”なんて言われていたが、自らの判断での無益な殺生は一度だってやっちゃいない。全ては王家の命令に逆らえないだけだった。グレス兄上はそれを知っていたから父に倣い王家に忠義立てしている」

「アンタは違うのかい、ボナートさん?」

「俺はクレニエスがドレンプレルを出たがっていたことを……いや、世界に踏み出したがっていたことを知っていた。それに、兄上は真面目過ぎるのだ……領主になれば、いつかトシューラ王家の無慈悲さに心を蝕まれ自滅するだろう。だから俺は……」


 領主になって家族を守ろうとした。危険を逸早く感じ取る自信がある自分なら上手く立ち回れるから、と。

 試しに第一王女に仕え王家に潜入したが、幾度かの危機を見事回避出来たのである。


 これならばドレンプレル領主になり兄弟達の帰る場所を護れるだろう。そう決意して次期領主の座を望んだのだ。


「……あんな態度を取っていたのは、グレス兄上の為か?」

「そうだよ。兄上は堅物だからな……納得させるには今回の領主争いを持ち掛けるしか無かった。それに、ドレンプレルには占領優先権がある」


 占領優先権──それは占領した地を王家の介入無く領主が統治出来る権利だ。

 大領地にして大貴族メルマー家だけの特権。国土を増やす褒美として与えられたものだ。


 ボナートはそれを用い『高地小国群』を自治区にする予定だった。


「俄には信じられないな。俺はリーブラの民を見てきたけど、奴隷そのものだったよ」


 そんなライの言葉にボナートは驚愕の表情を浮かべる。


「馬鹿な!父上はリーブラも自治区にしていた筈だぞ?確かにあの魔術師には逆らうなと言われていたが、アイツは直ぐに消えた筈だ」

「アイツ?ベリドのことかな?……アイツが何かした訳じゃ……ないわな、多分」


 ライの知るベリドは実験にしか興味はない。当然、政治にも興味など無いだろう。


「今、ドレンプレルの政治を仕切ってるのは誰だい?」

「……執事長……ルーダだ。クソッ!あの野郎か!」

「……アイツは何なんだ?初めて見たときは嫌な感じがしたけど……」

「そ……そうだ!だから俺はお前に城に残れと。エニーから離れない様に……」


 クレニエスの顔がみるみる青褪めて行く。


 しかし、悪いことは重なるもの……。重苦しい場に一人の異様な存在が現れた。

 上空を飛翔する魔導師……それはライの分身たる『探索蜘蛛』が、ルーダの部屋で目撃したあの男だ。


「やれやれ……疲弊したところを皆殺しにするつもりだったのに」

「誰だ、貴様は!」

「魔王ルーダ様に仕える者だ。全く……やはりルーダ様の見立て通り貴様が障害となったか、クレニエス」

「………何だと?」

「ルーダ様はあの獣人女……クレナに違和感を感じておられた。妙な力を使う獣人だったからな。それにルーダ様の力を封じていた魔術師イポリッド。その間の子・クレニエス……貴様からも違和感を感じるそうだぞ?」

「………」

「まあ良い。どのみち貴様らは此処で滅ぼぶべぐぇ!?」


 魔術師の顔に強烈な拳が炸裂。ロイ直伝技の一つ【戯言遮断!?】──勿論それは『最近ちょっぴりバイオレンス勇者』こと、ライの仕業である。


 殴った勢いで飛ばされそうになった魔術師の頭を鷲掴みにしたライは、上空から降下。魔術師をそのまま大地に叩き付けた。


「ぐはぁっ!」


 勿論、加減を加えている為死んではいない。抵抗出来ない程度のダメージで留めている。更に、掌からの《魔力吸収》により魔術師はあっさり無力化した。


「おい!」

「ひ、ひいぃ!」


 五十手前の顎髭を蓄えた魔術師は既に戦意喪失状態。魔力を奪うだけでなく、びくともしないライの腕力。それが相手との実力差を否が応にも理解させられたのだろう。


「今の俺は寝不足で虫の居所が悪い……喋らなくて構わないからそのまま寝とけ」


 掌から迸る電撃が男の意識を刈り取る。しばらくそのままの体制でじっとしていたライは、勢い良く立ち上がるとメトラペトラに向かって叫んだ。


「メトラ師匠!ドレンプレルに魔王が!俺を送って下さい!」

「何じゃと!むむ……ワシも行くぞよ!」


 ライの元に飛翔し定位置の頭に着地したメトラペトラは、早速転移魔法 《心移鏡》を発動。


 そこへ駆け寄ったクレニエスとボナート。


「……俺達も……連れて行ってくれ!頼む!」 

「わかった。行こう!」



 《心移鏡》の中に飛び込んだ先で一同が見たのは、半壊し燃えているドレンプレルの居城……。

 周囲には多くの兵が倒れ伏しているが、幸い息はある様だ。


「くっ……どうなっている。ルーダが魔王だと?質の悪い冗談だ」

「嘘じゃないよ。先刻さっきの髭魔術師の記憶を見た。とにかくルーダって奴を捜す」


 額のチャクラを使用し《千里眼》でルーダを捜し当てたとほぼ同時……城の一部が吹き飛び瓦礫が降り注ぐ。


「ぐっ……な、何だ?」

「ルーダはあそこだ。アンタ達の兄弟が魔王相手に戦ってる……魔導具の剣を壊さなくて正解だったよ」

「……ともかく行こう」

「その前に先ず、この辺の人達を避難させた方が良いと思うけど……。メトラ師匠はこの人、ボナートさんに協力して城の人達の救助をお願います」

「……ワシを小間使いにする気なのかぇ?」

「黒い毛並みの美しい猫神様~!お願いでこざいますだ~!」


 跪いて手を擦り合わせるライの態度に、メトラペトラはやや嬉しそうだった。


「し、仕方無いのぉ……引き受けてやるかの。ボナートとやら。倒れておる輩を鏡の中に片っ端から放り込め」

「わ、わかった!」


 既に炎上している城ではいつ煙に巻かれるか分からない。崩れかけの城壁が落下しても死に至る可能性がある。


「……俺はエニーを捜さなければならない」

「俺が案内する。師匠!頼みましたよ!」


 とにかく上層階へ。走りながら千里眼を発動するライは、エニーの姿を捉えた。


「この上だ!」


 階段の途中でライがエニーの居場所を視認しようとした時、再び上空で轟音が響いた。



 そこには黒煙の上がる空を飛翔するルーダの姿が──。

 良く見れば脇に抱えられている何かが見える。クレニエスは、それが誰かを即座に理解した。


「エニィ━━━━ッ!?」


 エニーは力無く項垂れている。どうやら気絶しているらしい。


 クレニエスの絶叫に気付いたルーダは、いつもの執事服に加え龍の頭を模した杖が握られている。



「ほう?グレスに続いて貴様らもか……イシェルドに居た筈が、どうやって此処に来た?」

「……お前に答える義理はない。そんな事より……」


 クレニエスは一瞬で半獣人化しルーダへと斬り掛かったが、ルーダは転移し難なく攻撃を躱した。


「ふん……これだから人間は……。こちらには人質が居るのが見えんのか?」


 上の階の城壁に立つルーダは、杖でエニーの首を圧迫し牽制した。これにはクレニエスも動きを止めざるを得ない。


「まあ良い。少し楽しませて貰うとしよう」


 エニーを抱えたまま再び飛翔を始めたルーダは、城の上空にて魔法の繭を発生させるとエニーを内側に閉じ込めた。

 神具による結界。ライの目にはそれがハッキリと判る。


「これは結界特化用の神具でな?強力な反面、空気すら遮断してしまう。因みに解除出来るのは私だけだが、私を殺しても解除は出来んぞ?」

「くっ!ルーダ!」

「……さて。クレニエスよ……貴様には其処の男を殺して貰おうか?」


 ルーダが見下すように指差したのは、クレニエスと共に並ぶ男──ライ。


「……何故だ?ライは関係無いだろう?」

「ライというのか、その男は……。私にその魔王をぶつけるつもりだったか?」

「俺は魔王じゃないんだけど……」

「それほどの魔力を宿し魔王ではないだと?フン……戯言も大概にすることだな」

「くっ……!コイツも話聞かない系か……」


 ライが不機嫌そうに呟く裏で、クレニエスへ念話を送る。


(クレニエス。俺がエニーを何とかする)

(フッフッフ……無駄だ。貴様の念話は届かん)

(ちっ……。伊達に魔王じゃないってことか)


 ライの念話を遮ったルーダ……裏をかくのは難しい様だ。それにルーダは、どうやら心を読んでいる節がある。


(正解だ。残念だったな?ハッハッハ!)

(なら勇者って信じろよ!)

(ふざけているのか、貴様は?)

(ぐぬぬぬぬ……)


 勇者という点のみは、やはり信じないルーダ。魔王認定は固定されている。



 そんな状況の中、苦々しい顔で互いを確認したライとクレニエス。望まぬ形での対峙となることに不快感は拭えない。


「貴様達、手を抜くなよ?ライと言ったな……クレニエスは洗脳してトシューラ侵略の際の奥の手に使うつもりだった者だ。強いぞ?ハッハッハ!」


 甲高い笑い声が城に響き渡る。クレニエスは益々不快な顔でルーダを睨んだ。


「……済まない、ライ。まさか、こんなことになるとは……」

「まあ、仕方無いさ。どのみちイシェルドでも本気で戦うつもりだったんだろ?」

「……ああ」

「なら全力で来い。一応俺にも考えがあるから安心しろ」

「………わかった。行くぞ!」



 ライとクレニエス……予定外の形ではあるが、ドレンプレルにて互いをぶつけ合うことになった。


 そしてこの地の戦いを最後に、ライはしばし本格的な戦いから離れることとなる──。


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